ノジュオド・アリ/デルフィヌ・ミヌイ/鳥取絹子訳「わたしはノジュオド 十歳で離婚」感想。
自伝的ノンフィクション。2012年03月21日読了。
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2010年に液晶テレビを買った際、エコポイントで大量の図書カードが手に入ったから、それでたくさん本を買ったんだよなあ(3万円分)。でもそのとき買った本、まだまだ多くが積ん読のままだよ。本書も。
◆内容(私が要約)
イエメンの田舎、ワディ・ラー谷の傍、電気も水道もなく石の家が5軒あるだけのカラディジ村に生まれた少女ノジュオド。父も母も文字が読めず、公式な出生届など出していないため、母親の記憶を頼りに導き出されたノジュオドの年齢はたぶん十歳(これはいつの時点だろう?)。母親は16人も子供を産んだ。ノジュオドが知らない兄姉や、死んでしまった兄姉もいるらしい。
学校は片道2時間かかるため、文字を読めない両親は、女であるノジュオドは学校に行く必要がないと決めつけていた。
ある日、父親が村でいざこざを起こし、一家揃って村を出て首都サナアのスラム街に移り住むことに(これがノジュオド2~3歳の頃)。
サナアでノジュオドは学校に通い始めた。
しかし、失業が深刻なイエメンでは父親は稼ぐことが出来ず、子供達は路上でガムを売ったり、お金を恵んでもらっていた。
ある日ノジュオドは突然30代の男と結婚することになった。父親同士が決めた結婚だった。イエメンでは家長(父親または長男)の言うことは絶対なのである。さらにイエメンでは、初潮を迎える前の幼女を嫁に出すことは珍しくないそうだ。しかし、いくら妻になったとはいえ、初潮を迎えるまでは手を出すな、という条件付きである。
学校を辞めさせられ、嫌々ながら、泣きながらノジュオドは夫の家に行った。そこは生まれ故郷のカラディジ村だった。夫はノジュオドと無理やり性交した。さらに、姑はノジュオドに「外に出るな」「夫の言うとおりにしろ」と言いつけ、破ると殴られた。
ノジュオドは自分の家族に会いたいとだだをこね、サアナに来た。
そして、自らの決意で裁判所に赴き、裁判官に離婚を訴えた。十歳の幼女を犯すことは、男性が家長を務め、女性が蔑ろにされがちなイエメンであっても、異常なことだった。裁判官は親身になり、イエメンの女性弁護士シャーダーとの出会いもあり、ノジュオドは離婚に向かって夫と、(結婚契約を取り交わした)自分の父親を訴えることにした。(注:さすがにイエメンでも十歳の女性の結婚は許されていないので、父親同士で交わした結婚契約書で、ノジュオドの年齢を十三歳と偽っていたから、父親も訴えることになった)
これが2008年の話。
食べることよりもメンツを重んじるイエメン社会では、かつて無い出来事だった。
◆感想
10歳の幼女が離婚を申し出たことは、さすがのイエメン社会でも大きくニュースになったそうだ。本書は、そのニュースを聞き、取材に飛んだフランス人(とイライン人のハーフ)ジャーナリスト、デルフィヌ・ミヌイが、ノジュオド本人から聞いた話を、本人が書いたような感じで構成したノンフィクションである。
自分の年齢も正確に分からないノジュオドの話が元になっているので、ところどころ?となる部分もあるし、子供が書いた体裁を取るためか、漢字で書いた方が分かり易い単語をひらがな表記しているなど、大人が読むには違和感を感ずる部分もあるけど、イスラム社会の中でも特殊と言われているイエメンの側面を伝える良書である。
この離婚騒動の勇気ある行動に対して、ノジュオドは「Glamour」誌が選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2008」を受賞したんですって。
で、もっともっと勉強したいと思っているノジュオドのために、本書の印税は全てノジュオドに渡るようになり、本書がベストセラーになったもんだから、ノジュオドは自分の家を買い、相変わらず働き場所のない父親は、自分を訴えたノジュオドを疎ましく思いつつも、家族揃って暮らしているのだとさ。
ノジュオドのケースはハッピーエンドだったけど、同様のケースは世界中にあるので、これから人権団体はどのような活動をするのでしょうかねえ。
親同士が結婚を決めるのが当たり前という国(インドやイスラム諸国など)と、
親が結婚を決めるなんて子供の人権無視である、自由恋愛が当たり前という国(先進諸国ですな)、
この二つの間にある溝は、そう簡単に埋まらないと思うのだけれども。(結婚適齢期が何歳かってのは、また別の問題)
※メモ
「碧空」というブログより、イエメンの児童強制結婚 日本女性の社会的地位
LosAngels Times の記事 YEMEN: The child bride who sought a divorce and dared to dream big
7点/10点満点
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