アレクサンドラ・ハーニー/漆嶋稔訳「中国貧困絶望工場」感想。
ルポ。2013年02月19日読了。
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2008年に出た本。
いつ買ったのか覚えていないが、2007年から09年あたりは中国関連の本をよく読んでいたので(末尾に掲載)、その頃に買ったのかも。「中国農民調査」も未読だし。
◆著者(紀伊國屋bookWebより)
アレクサンドラ・ハーニー
日本語、中国語が堪能な香港在住の米国人ジャーナリスト。1997年、米プリンストン大学卒業後、東京大学留学など経て、98年にフィナンシャル・タイムズに入社。東京支局、サウスチャイナ支局特派員として主に製造業をカバーする。FT退社後、香港に拠点を移し、中国本土で工場経営の実態を調査、本書にまとめた。
◆内容(紀伊國屋bookWebより)
多発する労災、搾取工場、「ガン村」…元フィナンシャル・タイムズ特派員が明らかにした「世界の工場」の衝撃ルポ。
はじめに 妖しい魅力
第1章 路線変更
第2章 五ツ星工場
第3章 労災コスト
第4章 一攫千金を夢見て
第5章 立ち上がる労働者
第6章 従業員寮八一七号室の娘たち
第7章 損得勘定と社会的責任
第8章 新モデル工場
第9章 チャイナ・プライスの将来
元フィナンシャル・タイムズの中国特派員が、「世界の工場」の中心部である中国広東省の複数の工場地帯に潜入して、世界の製造業を席巻している破格に安い「メイド・イン・チャイナ」製品の秘密を抉り出した衝撃のノンフィクション。 社会主義とは思えないほど弱い立場の出稼ぎ労働者への抑圧、多発する労働災害、夫が労災死して未亡人だらけになった寡婦村、米大手スーパー、ウォルマートなど買い付け側の厳しいチェックをかい潜って操業を続ける搾取工場、塵肺による出稼ぎ労働者のガンが多発している内陸部のガン村など、リアルな現実が次々に浮き彫りになる。もちろん、救いもある。労働災害にあって手足が不自由になった労働者が、決して絶望せず、法律を勉強して仲間の訴訟の相談に乗り、勝訴を勝ち取るなど、新しい動向も描いている。
◆感想
本書は現代を「China Price : The True Cost of Chinese」といい、原著も2008年に出版された。原著のタイトルが欠片も感じられない邦題(中国貧困絶望工場)はちょっと酷いな。
本書は2008年以前の中国の実態をルポしたものである。リーマンショックが2008年9月なので、それより前である。リーマンショック以降、急激に産業構造が変化している世界経済のなか、中国もいろんな部分が変化しているだろう。本書に書かれていることのいくつかは早くも古い話になっていると思う。しかし、変わることのない中国人気質などは、いまでも通用する話だと思われる。
本書には幾つもの事例が掲載されている。
先進諸国の労働監視NGOが、「中国の工場は従業員に残業を無理強いしている」「残業代を払っていない」「子供を雇っている」「要するに労働者から搾取している」等々の告発を行い、中国の搾取工場で作られた商品を買わないような運動が起こった。
ウォルマートやホームデポなどの巨大小売店、ギャップやナイキなどのメーカー、いろんなところがやり玉に挙げられた。ウォルマートなどアメリカの各社は仕入れ先の中国の工場に対し、「労働時間は週60時間まで」「残業代はきちんと払うこと」等々を要求した。
すると中国の工場は、タイムカードを偽装したり、残業代の支払い明細を偽装したりして、アメリカの会社(発注元)をごまかすようになった。
するとアメリカの会社は、工場に立ち入り監査するようになった。いたちごっこが何回も続くと、さすがにアメリカの会社も偽装を見抜けるようになった。
すると中国の工場は、従来の工場をアメリカの要求(労働者から搾取しないクリーンな労働条件)を守る工場として、別な場所に監査に入られることのない「裏工場」を作ってしまった。
では実際に労働者は搾取されているのだろうか?
ウォルマートの取引先の工場長チャンは、
p92
「出稼ぎ労働者も法律の上限を飛び越えて働きたいというのが実情である。「この文化はとてつもなく根深い。中国人なら誰でも今以上にカネを求めようとする。それが文化だからだ。従業員は働いてカネを手にしたいのだ。ここ(天野才蔵注:工場のこと)にはあまり長居をしたくないからだ。数年後には帰郷し、小さくても自分で商売を始めたい。この欲求こそ、中国が圧倒的な競争力を持ち得た理由のひとつだ」
と語る。中国人はカネを稼ぎたいから、残業代が欲しいから、長時間働くのだ。
(p215では、広東省中山市の台湾人工場長が、「10年前なら労働者が「残業できるか」と聞いてきたが、今の労働者は「残業があるのか?」と聞き、そうだと答えると「それなら嫌だ」と去っていく」と嘆いている)
中国の工場における人材使い捨てはかなりすごい。
プラスチック工場で働き始めた少年は、働いて2週間目に、機械に挟まれ片腕を切断することになった。そして、会社から解雇された。途方に暮れた少年は、労働問題で有名な弁護士の元に通い、弁護をしてくれることになった。たぶん今は本書に書かれているより多少マシになっていると思うが、要するに労災コストは商品の価格競争力が落ちるから負担したくないのが中国の工場。
他、幾つか興味深かったこと。
p43
「日本は、戦後において米国の海外経済政策から恩恵を受けた初期の受益者であった。第二次世界大戦前、日本は繊維産業を大いに発展させたが、戦争中に米国の爆撃によって被害を受けてしまった。戦後、米国の綿花栽培業者が政府に対し、製品の販路として日本の繊維産業を復興させようとロビー活動を行った。その結果、米国政府は日本の繊維産業が立ち直るように支援し、1950年代半ばにはアイゼンハワー政権が様々な日本製品に対する輸入関税を引き下げた」
まったく知らなかった。1月に大学の授業で富岡製糸場に行き、日本の繊維産業は盛況であったという話を聞いたが、戦後、アメリカ政府が後押ししてくれたのか。
p53
「鄧小平は……四川省の広安県という農村の地主の息子として生まれ、10代の数年間をフランスで過ごした」
そうだったんですか。これも知りませんでした。
p141
「2006年夏、馬建国は家族のために夢を実現しようと思えば、国有炭鉱で毎月2000元の収入だけでは足りなくなると考えた。そこで、仕事をしばらく休み、雇用主の了解を得て丘陵地帯を歩き回った。石炭の交渉を求めて、静かな山々を徹底的に調べ上げたのである。その結果、8月までに6人を雇い、地表近くにある3ヶ所の鉱床を採掘するようになった。馬建国は、小さな村に登場した国家的疫病神-無許可民間炭鉱-になったのである」
無許可で石炭を掘ってもいいのですか。それはすごい。素晴らしき中国。
とりとめのない感想になりましたが、まあ面白かったですよ。
8点/10点満点
さくっと検索して出てきた、私が読んだ中国関連の本一覧。リンクは貼ってません。
富坂聰「中国マネーの正体」2011年11月04日読了
富坂聡「苛立つ中国」2011年04月17日読了
富坂聡「ルポ 中国「欲望大国」」2011年02月07日読了
城山英巳「中国臓器市場」2011年01月24日読了
綾野(リン・イエ)著/富坂聰編「中国が予測する“北朝鮮崩壊の日”」2011年01月05日読了
富坂聰「中国官僚覆面座談会」2010年11月20日読了
富坂聰「中国報道の「裏」を読め!」2010年11月09日読了
富坂聰「中国の地下経済」2010年10月23日読了
セルジュ・ミッシェル/ミッシェル・ブーレ「アフリカを食い荒らす中国」2010年03月07日読了
高橋五郎「農民も土も水も悲惨な中国農業」2009年07月22日読了
石平×三橋貴明「中国経済がダメになる理由」2009年06月03日読了
園田茂人「不平等国家 中国」2009年03月26日読了
杉野光男「中国ビジネス笑劇場」2008年07月02日読了
田中淳「中国ニセモノ観光案内」2008年05月29日読了
山本一郎「俺様国家 中国の大経済」2008年02月21日読了
何清漣「中国の闇 マフィア化する政治」2008年01月17日読了
東一眞「中国の不思議な資本主義」2007年06月18日読了
小川和久・坂本衛「日本の戦争力 VS 北朝鮮、中国」2007年04月10日読了
陳惠運「わが祖国、中国の悲惨な真実」2006年11月08日読了
井沢元彦・波多野秀行「そして中国の崩壊が始まる」2006年08月07日読了
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