島田覚夫「私は魔境に生きた」感想。
終戦を知らずニューギニアで10年暮らした日本軍兵士の記録。2013年08月05日読了。
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昭和17年12月、著者は出兵を命ぜられた。不敗皇軍の報道しか知らない著者は、戦地で活躍することにに憧れていた。
昭和18年1月、現在のパプアニューギニアのニューブリテン島に向かって出航した。(ニューブリテン島は、ラバウルがある島。現首都のポートモレスビーがあるのはニューギニア島)
昭和18年11月、ニューギニアのブーツに上陸したが、戦局悪く、
昭和19年4月、ニューギニア島の後方基地ホルランヂアに向かって撤退開始。
撤退まで徒歩で2ヶ月(くらい)、撤退している間にも部隊の上官や戦友が次々と病死、餓死していく。
著者は仲間十数人とともにホルランヂア近郊まで行くも、敵兵(オーストラリア兵っぽい)が機銃掃射してくるので近づけず。
そして、著者ら一行は、ホルランヂアから奥に入ったニューギニアのジャングルで、篭城作戦を決行する。
敗戦を知らぬまま、仲間が死に、著者を含め4人にまで減った。
それでも著者ら一行は、ニューギニアの奥地で篭城を続けた。
昭和29年9月に、現地を監督していたオランダ官憲に見つかるまで、ずっと篭城していた。
ホルランヂア近郊の日本軍食料貯蔵庫から、米や乾パンや乾燥醤油などを持ってきた。乾パンの缶詰は、だんだんと湿気を帯び酷い状態になっていったが、黴びていても腐っていても、干して食った。食う物がなくなると、缶詰の缶の鉄を煮出し小麦粉が抽出して食った。鉄分も取れるしちょうど良い。他、食えるものは何でも食った。蛇や蛙はご馳走だ。虫ですら美味い。草も食った。キノコも食った。わけのわからない動く物を食った。
そのうち、篭城が長引きそうだと感じ取り(実際は既に敗戦していた)、畑を作り、甘藷やパパイヤやバナナを栽培した。
メガネのレンズを使って太陽光を集め火を点けた。
開墾するのに必要な道具は、その火を使って元もと持っていた鉄製品を改造して作った。切れが悪くなると鍛え直した。
鉄を使って針を作った。針で着ているものを修繕した。そのうち着るものがなくなってきた。バナナの葉っぱなどでふんどしを作り、半裸で生活していた。
しかし、塩気が足りない。ニューギニアの奥地は内陸なので塩分が確保できない。
そのうちニューギニアの部族と知り合いになった。鉄製品と交換で塩を手に入れた。
畑を荒らす猪や鳥がいるので、重心の曲がった銃で撃ったら何とか獲れた。動物性タンパク質は美味かった。
篭城してから約10年。
やっとオランダ兵に捕まる覚悟が固まり、捕まったら、信じられないくらい良い待遇だった。
という実話である。
あとがきによると、著者は昭和30年に帰国し、昭和31年夏までに本書をまとめたが、30年間どこの出版社からも相手にされなかったが、昭和61年にようやく日の目を見たのが本書だそうである。
鬱蒼としたジャングルの中、ろくな食料もなく(塩すら限られている)、ろくな道具もなく、マラリアなどの病原体がうようよしている中で、10年間のサバイバル生活をしていた著者の記録は、実話だから出せる真実味に溢れている。
小説家には、ここまでの真実味は出せないだろう。
8点/10点満点
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