片山正人「現代アフリカ・クーデター全史」感想。
アフリカ史。2015年08月31日読了。
2005年に発行された本書の値段は3200円ですが、写真を載せるためのAmazonリンクを作っていたら、本書は既に絶版で、古本の値段が17,450円! 定価の5倍に高騰!
版元である叢文社のWebサイトを見ると、まだ普通に在庫がありそうな感じなのですが、少なくともAmazonでは古本しか置いていないのです。
で。
第二次世界大戦終了時、アフリカで独立を保っていた国はエチオピア(大戦中イタリアに占領された時期あり)、エジプト(第一次世界大戦後にイギリスから独立)、リベリア(1800年代にアメリカから解放された黒人奴隷が建国した国なので世界大戦中は常にアメリカの庇護下)の3カ国だけ。
1950年代にリビア、スーダン、モロッコ、チュニジア、ガーナ、ギニアが独立を果たし、
1960年には1年で17カ国が一気に独立を果たした。故に1960年を「アフリカの年」という。
で、本書。
1950年代、60年代、70年代、80年代、90年代の5つの時代に分け、アフリカ諸国でどういうクーデターが発生したのかを、可能な限り網羅した本である。
内容はかなり細かい。
例として1970年代のベナン(本書ではベニンと表記されている)のクーデターの項(適当にページをめくったところが本項だった。深い意味はない)
(p246)
「先述したように、1969年12月10日にエミール・デルリン・ザンスー大統領の誘拐事件に端を発するモーリス・クアンデテ参謀長のクーデターで、軍はクアンデテと憲兵隊長ベンワ・シンゾンガンと国防相ポール・エミール・ドソウザの3人で構成する「最高軍事評議会」を設け、政権を握った。とはいえ、軍として軍人と政治家の二種構造の下で動きがとれず、結局、真の権力ブローカーといわれるフォン族のジャスティン・アホマデグベ、ヨルバ族のフソワロウ・ミガン・アピティと北部人のフベルト・マガの三頭を呼び戻すことになった。」
「三頭が「大統領評議会」を設け、交代で2年ずつ議長に就任することになり、まずマガがその席に就いた」
「マガの2年間、ベニンの沖合に油田が発見され経済的には安定していたが、マガはアピティと組んでアホマベルデ(注:たぶんアホマデグベが正しいのだが、こういう誤植が本書には多い)を追い出す工作をしていた」
(p247)
「一方軍では不敗将校を追い出したにもかかわらず、1971年と72年にウィダ基地で氾濫が生じていた」
「1972年2月23日、クアンデテ参謀長はクーデターを起こし、ドソウザ議長の暗殺を試みたが失敗し、未遂に終わった。この事件には裏があり、クアンデテの下でクーデターに参加した将校たちは、ドソウザ大佐の暗殺後、クアンデテを排除し、ザンスー元大統領を政権に復帰させる計画であった」
という感じで、クーデターの詳細が書かれている。この項に限った話ではなく、本書は全体がこのような作りになっている。
よくもまあ、こんな細かいところまで調べたなあ、と感心するくらい細かい。クーデターの首謀者は誰で、その背景には誰と誰が絡んでいて、結果的にクーデターが成功(または失敗)し、その結果誰と誰から恨みを買い…
日本人の99.98%くらいの人は本書に書かれていることに興味がないだろうなあ(0.02%=25,000人くらいは興味があるような気がする)、と思いつつ。
8点/10点満点
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