ピーター・ピオット/宮田一雄+大村朋子+樽井正義共訳「NO TIME TO LOSE エボラとエイズと国際政治」感想。
自伝ノンフィクション。2016年05月31日読了。
◆内容紹介(Amazonより)
アフリカの熱帯雨林から国際政治のジャングルへ――
元UNAIDS事務局長が綴る、波乱万丈の回想録。
1976年、ベルギーの若き医師ピーター・ピオットは、恐ろしい感染症を引き起こしていた未知のウイルスを調べるためアフリカ・ザイール(現コンゴ民主共和国)に赴いた。死と隣り合わせの任務のなかで、この「エボラ」がどう広がったのかを突き止めるべく現地の文化や風習に深く身を浸した彼は、感染症との闘いに一生をかけようと決意する。
その6年後、彼は再びザイールの地を踏む。もう一つの新たな流行病、「エイズ」の感染が広がろうとしていたためだ。世界的に流行が拡大した80年代から、彼は国際的なエイズ対策を先導する役割を担い始める。その後、UNAIDS(国連合同エイズ計画)の初代事務局長として、国際的な協力体制を築くためネルソン・マンデラ、フィデル・カストロ、温家宝ら世界の名だたる指導者たちと、あるときは盟友関係を結び、あるときはタフな交渉に臨んでいく。国際機関の非効率や官僚的対応に苦しみながらも少しずつ歩を進めていくその過程には常に、有名無名の人びととの力強く、そして広範な「連携」があった――。
21世紀を迎える激動の時代に、世界の仕組みを変える。ユーモアを交えながらもストレートに、そしてスリリングに綴られる三十余年の回想録は、今日もなお世界で猛威をふるう感染症と、個人そして社会がどう対峙すべきか、多くの示唆を与えてくれる。
◆感想
上記のように、UNAIDS(国連合同エイズ計画)の初代事務局長を任命されるなど、公衆衛生の改善に多大な貢献をした著者の自伝である。
自伝なので、自分にとって都合の悪いこと、自分と対立していた者の考え方、についてはあまり触れられていない。自伝だからしょうがないのだが、優秀なノンフィクションライターが対立している側にも取材して、本書と同じようなコンセプトの本を書いたら、もっと面白くなったと思う。(例:第4代世界保健機関(WHO)事務局長、中嶋宏博士は、著者の活動を妨害する国連関連組織内のダースベイダー的に書かれている。私は中嶋博士のことをよく知らないので、著者の見解が正しいのかどうかは判別できない)
また本書は、国連に関する記述も多く、国際政治のど真ん中にいた人による国連という組織が機能不全に陥っている様を表した本ともいえる。
本書は450ページあり、内容の密度が濃く行間を飛ばして読むことはできず、しかし正直なところ翻訳が今一つで、読むのに大変苦労した。私はわりと多読な方と思っているが、本書は読むにに3週間もかかってしまった。
しかし、書かれている内容はエイズやエボラと真正面から戦った医学者の奮闘記であり、一行たりとも読み飛ばすことなくきちんと読了したいという気持ちが勝った。
良書である。
7点/10点満点
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