国枝昌樹「「イスラム国」最終戦争」感想。
いわゆる新書。2016年09月09日読了。
著者は2006‐2010年在シリア特命全権大使。著者の情報ソースはシリアのアサド政権関係者が比較的多く、著者自身アサド政権寄りの見解を示すことが多い。そのため、一部のジャーナリスト(アサド政権がIS壊滅作戦と称して反政府ゲリラおよび一般市民を攻撃しているのは政府による虐殺である、と主張している人たち)からとても嫌われている。
国際情勢を知る上で、片方だけの見解で物事を知った気になるのはよろしくない。シリアは「アラブの春」の流れでアサド政権下ろしが始まったが、アサド政権が倒れた後の具体的な出口戦略が無いまま内戦をたきつけた欧米政府や西側マスコミの責任はどうなのよ? と私は思うのである。
アサド政権(先代の父親から息子現大統領まで1971年からずっと続いている)下では言論の自由はなく、住民同士による監視社会だったが、旅行者にとって世界で一番安全な国と言われ、世界中のバックパッカーが安心安全な旅をできた国だったのに。
結果論でいうと、「アラブの春」での政権転覆が曲がりなりにも成功したのは、最初に起きたチュニジアだけ。
・エジプト→ムバラク政権崩壊、選挙でムスリム同胞団が第一党になるもイスラム寄りの憲法改正を強引に進めて軍部がクーデターを起こし、現在は軍政
・リビア→カダフィ政権崩壊、その後国を東西に分けて士族による石油利権分捕り合戦が始まり内戦勃発。そのすきにISが勢力拡大中
・イエメン→サーレハ政権崩壊、その後ハディ副大統領が暫定大統領に就くも、フーシがクーデターを起こし内戦勃発。
・バーレーン→反政府勢力が政権打倒を目指して集会を企画した段階で政府による武力弾圧、アメリカ黙認(アメリカ軍が駐留しているから)、反政府派撃沈。
アサド政権が良いとは言わないが、アサド政権だけを批判しているジャーナリストはあまり信用できない。というのが私のスタンス。
で本書。
地域的に著者の専門外であるナイジェリアのボコハラムまで盛り込んだ(なーんか上っ面の解説に終始している)のは失敗だったんじゃないかなあ。と思う次第。
(とはいえ著者は在カメルーン特命全権大使も務めていたので、ナイジェリアが全くの専門外というわけではないのだが)
5点/10点満点
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