マイケル・オースリン/尼丁千津子訳「アジアの終わり」感想。国際経済。2019年01月22日読了。8点/10点満点
原著2016年出版、邦訳2017年5月出版。著者はワシントンDCのアメリカンエンタープライズ公共政策研究所(AEI)上級研究員、日本部長。
◆以下、Amazonより
「アジアの時代」は終わった。トランプのアジア封じ込めはこれから始まる!
保守系シンクタンクのアジア研究第一人者が最新アジアのリスクマップを作成。
5つのリスク―
1経済成長の失速、
2人口問題、
3未完成の政治革命、
4政治的共同体の欠如、
5戦争の脅威―について分析する。
アメリカの最新アジア戦略を読み解ければ、日本の生きる道が見えてくる! トランプ政権発足後、アメリカで特に読まれているアジア分析本。
◆引用終わり
タイトルのインパクトが大きいが、内容はアジア経済の冷静な分析である。特に人口分布と人口減少によるデメリットについて、かなり正確な分析をしている(と感じられる)。
p127
1953年、中国の都市部人口は全体の13%だったが、2010年には49%にまで上昇している。
中国には100万人都市が170もあり、上位5つは1000万人以上である(重慶市、広州市(深セン含む)、上海市、北京市、天津市)(註:2019年ではアモイ市、成都市、広州市、武漢市なども1000万人都市になっていると思われる)。
急速な都市化というのは、歴史上、それこそ古代ローマの頃からどの国にも起こってきた。町が市になり、市が都市になる。すると働き口が増える。仕事があるところに人は集まる。
東南アジアは貧乏子だくさん。というイメージがある。だがそれはもはや誤りで、人口を維持するために必要な出生率2.07を切りそうな国々が東南アジアには多い。
・フィリピン(人口1億500万人)の出生率はまだ大丈夫2.99
・ラオス(人口700万人)は2.65
・マレーシア(人口3100万人)は2.48(既に2.04に落ち込んでいるとも)
・カンボジア(人口1600万人)は2.47
・インド(人口13億人)は2.40
・バングラデシュ(人口1億6000万人)は2.15
・ミャンマー(人口5500万人)は2.13
・インドネシア(人口2億6200万人)は2.08
・ベトナム(人口9700万人)は1.79
・中国(人口13億9000万人)は1.60
・タイ(人口6800万人)は1.52
・日本(人口1億2600万人)は1.42
・韓国(人口5100万人)は1.27(直近では1.0を切ったという報道もある)
・台湾(人口2300万人)は1.13
・シンガポール(人口600万人)に至っては0.84
ちなみに、ヨーロッパの主流じゃない国々(ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スペイン以外の人口1000万人以下の小さな国)の出生率はどこもかしこも1.5以下である。
人口の減少=高齢者が増えるというのは、全世界共通の現象であり、若者の代表であるグレタさんが国連で憤るのも無理ない話である。出生率が減る原因としては、発展している最中の国では、(どこの国でもいいが)国全体の平均的な世帯収入が上昇すると、国民は子供の教育に金をかけるようになる。子供一人一人に充実した教育を施すために、子供の数を減らそうとする。結果的に各国の世帯で育てる子供の数は2人、または3人、もしくは1人の選択になる。日本は子供を育てるコストが高いので2人もしくは1人の方向に寄り、フィリピンは2人もしくは3人の方向に寄っている。
インドやバングラデシュでも2人か1人の方向に進み、ベトナムやタイでは1人もしくは2人の方向に進んでいる。
30年後を想像してみよう。たぶんすべての東南アジア諸国は出生率2.07を下回り、高齢者過多となる。
これが著者の言わんとするアジアの終わりである。
そういう意味では、ヨーロッパはとっくに終わっているし、実際フランス(出生率2.06)以外は終わっている。アフリカ諸国は出生率4以上の国が多いけど、そういう国は乳幼児死亡率も高いから、大人になる頃には人口が調整されている。アフリカ諸国で乳幼児死亡率を改善させる試みをすると、大学に行っても就職できない高学歴プアが大量発生する(チュニジアがいい例で、高学歴プアがアラブの春のきっかけとなる抗議の自殺(イスラム法では禁止されている)デモを起こした)。高学歴プアの問題は、いまそこにある東南アジアの危機である。主に中国と韓国で。
上記は本書の内容そのものではないが、人口減少するであろうことが(ほぼ100%の確率で)予測される東南アジアに、未来はあるのか?! という視点で非常に面白かった。
8点/10点満点
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