中西嘉宏「ロヒンギャ危機 -民族浄化の真相」感想。ルポ。2021年3月27日読了。
ロヒンギャとは、ミャンマーのラカイン州北部に暮らすイスラム教徒のことである。
ミャンマーは9割弱が仏教徒と本書の冒頭に書かれている(英語版wikipediaでは、仏教徒88%、キリスト教徒6%、イスラム教徒4%となっている)
ロヒンギャ問題とは、ロヒンギャはそもそもミャンマー人(ビルマ人)ではなくバングラデシュからやってきた不法移民である、生活様式も宗教も言葉も異なり同一国内にいること自体が許せない、という仏教過激派が主導し官民一体でロヒンギャに対し虐殺を行っている、そのためロヒンギャは住む場所を求めて難民になっているが、世界中から見捨てられている、という問題である。
ミャンマー軍部は、民主的に選挙で選ばれたアウンサンスーチー率いるNLDから政権をクーデターで奪ったが、ロヒンギャ問題はそれよりずっと前から発生している。人道支援団体は、ロヒンギャ問題に十分な対応をしていなかったアウンサンスーチーを非難していたほどだ。
ロヒンギャ問題が発生するもともとの原因(著者研究)は、第一次及び第二次世界大戦でビルマはイギリス領インドだった頃、入植してきたインド人が金持ちで、借金のかたにビルマ人の土地を奪い、それが「インド人憎し」へと発展し、インド人=ムスリム(イスラム教徒)のイメージが根付いていたことが発端だと書いている(p48)。
ちなみに本書は軍部によるクーデター前に出版されている。
本書はロヒンギャ問題の経緯を詳説し、そのうえで国際社会に何ができるか、何をすべきか提言している。
だが現実には、イスラム教徒が国民の87%を占めるインドネシア(全人口2億6000万人)、90%を占めるバングラデシュ(全人口1億6000万人)がロヒンギャ難民の受け入れを拒否している。この厳しい現実は、そう簡単に解消されない。
7点/10点満点
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