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2023/01/23

ニコラ・シャクソン/平田光美・平田完一郎訳「世界を貧困に導く ウォール街を超える悪魔」感想。2022年12月5日読了。

 

2012年に本書の著者ニコラ・シャクソンの「タックスヘイブンの闇」8点を読んだ。この本を読んだのは橘玲氏が推薦していたから(橘玲氏の著書を読み始めたのも2012年から)。

 

「タックスヘイブンの闇」では、バナナの国際取引についての事例が印象に残っている。(以下は例)
アメリカにバナナ会社の本社がある。
ホンジュラスに生産(収穫)子会社がある。
ルクセンブルクに金融子会社がある。
マン島(イギリス領)に輸送子会社がある。
ルクセンブルクからホンジュラスに50万ドル貸し付ける。
ホンジュラスはバナナを収穫し、20万ドルの価値とする。
ホンジュラスは50万ドルの借金から10万ドルをマン島に払って輸送してもらう。
ホンジュラスはルクセンブルクに金利7万ドルを払う。
ホンジュラスは残り3万ドルを現地従業員の給与とする。
ホンジュラスに利益は残らない。
アメリカは、マン島とルクセンブルクから株主配当(親会社なので100%株主)を受け取る。
というようなプロセスを、世界中どこの国の税法にも引っかからないようにしなが=払う税金を最小限にする=会社経営をしているのがグローバル企業である。アップルもグーグルもマイクロソフトもamazonもユニクロもソフトバンクもみなやっている手口である。
詳しくは「タックスヘイブンの闇」をご一読ください。

 

◆本書「世界を貧困に導くウォール街を超える悪魔」
本書が指摘している「ウォール街」を超える悪魔は、ロンドンの金融中心地「シティ」と、世界中に増殖しているプライベートエクイティファンドのことである。

 

500ページ近い本なのに、いまどき2200円+税という安価である(2200円が安く感じる出版不況の昨今である)
通常こういう翻訳書の場合「原注」が巻末に数十ページ載っていることが多いのだが、ばっさりカットしてWeb公開に踏み切っている。ページ数を切り詰める苦肉の策なのだろう。

 

以下、私が付箋を貼ったところから抜粋。

 

P87
本書の初めの方に出てくる興味深い点として、アメリカの各州・各市町村が、大企業を誘致するための減税合戦に陥っている点。Amazonの第2本社の誘致に際して「どれだけ魅力的な減税パッケージ」を提案するか入札したところ、238の市町村が候補地として名乗りを上げた。

 

P125
世界中の租税回避情報が詰まった「パナマ文書」の出どころ、パナマの法律事務所モサック・フォンセカは、太平洋の小さな島国ニウエ(人口わずか1,500人・一応独立国)でオフショア企業を登記する独占権を得て、ニウエの国庫収入の8割を生み出していた。

 

P168
パキスタン人銀行家アベディが1972年に作った「国際商業信用銀行(BCCI)」は、巨大なポンジスキーム(ねずみ講もしくは自転車操業)だった。

 

と世界のウラ的な話が一通り書かれた後、第5章から「シティの闇」や「アイルランドの見せかけの反映」、「世界4大会計事務所(デロイトトーマツ、アーンストヤング、KPMG、PwC)は脱税指南会社で、会計監査はしていない」、「信託の真実⇒プライベートエクイティファンドの闇」に迫っていく。実に様々な観点から、現代金融(業界)の不都合な部分を書き表している。ボリュームがあり過ぎて、私の読書ペース(ここ数連劣化が激しいが)で読了まで3週間かかってしまった。この手の本で読了まで3週間かかると、冒頭の話題は何だっけ?となってしまい、ときどき前の十数ページを読み返す必要も出てくる(私が老いただけかもしれないが)

 

P439

プライベートエクイティファンドを用いた減税効果が行き過ぎた世界では、企業の役員に払う報酬が高く、役員が所得税をたくさん払う必要がある場合、起業は役員個人に報酬を払うのではなく、役員が設立したプライベートエクイティファンドに払い込んだ方が税金が安くなる。というブラック(とは言えないあり得る)ジョークが載っていた。

 

著者の言わんとするところは、「全世界で公平な税制を」「金持ち企業だけが脱税指南会社(4大会計事務所)を雇えるのは不公平」的なことで、行き着く先は金。金のあるやつが偉い、それが今の世界であり、それを打破するには政治しかない。ということっぽい。

 

8点/10点満点

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