« 2023年1月 | トップページ | 2023年5月 »

2023/03/27

北澤豊雄「混迷の国 ベネズエラ潜入記」感想。2023年3月11日読了。

北澤豊雄氏は、2010-2011年に南米コロンビアの日本食レストランに住み込みで働き、スペイン語を習得。その後、スペイン語能力を生かし、中南米各地を取材しているフリーの記者。

氏のデビュー作、「ダリエン地峡決死行」感想。紀行文。2019年09月18日読了。この作品には8点をつけた。

 

本書は南米ベネズエラが舞台。

ベネズエラは反米ポピュリスト大統領チャベス(石油価格の上昇でイケイケのバラマキ政権運営が可能だった)が2013年に死に、無能な子分マドゥロに禅譲したところ、石油価格暴落、イケイケだったバラマキにほころびが出て、インフレ率が100万%という状態に。さらに、無能すぎるマドゥロ政権にブチ切れた改革派(?)は、若き政治家グアイドを担ぎ上げ大統領就任を宣言。世界各国がマドゥロを認める国(中国ロシアトルコだけじゃなくインドやスペインポルトガルなどもこっち)と、グアイドを認める国(アメリカカナダイギリスフランスドイツ日本など)に分かれた。
グアイドが一気呵成にマドゥロをぶっ倒して国をまとめるかと思いきや、国会も裁判所も軍も警察もマドゥロ派が占領しているため、グアイドの暫定政府は大したことができないまま、2022年には暫定政府が解散し、暫定大統領の地位もなくなった模様。

 

坂口安紀「ベネズエラ 溶解する民主主義、破綻する経済」感想。2021年01月31日読了。8点。なども参照されたし(グアイド失職前)。

 

マドゥロ政権下のベネズエラは、失業と貧困が蔓延し、暴力が国中を支配。
殺人率が世界一になったり(南アフリカより悪い)、3000万人以上いた国民のうち400万人以上が国外に脱出(出稼ぎ)したり、平均寿命がかつて75歳だったのが⇒70歳まで下がったり、無茶苦茶である。

 

さて本書。
修羅の国と化したベネズエラ。実態を調べるために著者は潜入を試みた。
コロンビアの新聞記者と一緒に、サッカーの取材と偽ってコロンビアから陸路でベネズエラに入国、メリダという都市に行く。驚くほど平和で、スーパーには普通にモノが売っているし、レストランもある(1食200円くらい)。ナイトライフのクラブまである。
2012年の最低賃金月額 約3万円
2020年の最低賃金月額 約400円(桁の間違いではない)
月の収入が400円で、どうして200円のレストランで飲食できるの?という謎も本書では明かしている。
この時の潜入は、ナイトクラブからの帰路で同行のコロンビア人記者が強盗に襲われたため、予定より大幅に早くコロンビアに戻る。

 

2回目の潜入は空路で首都カラカスへ。出会い系アプリで出会った女性に騙され、金を抜き取られる。

 

3回目の潜入も空路でカラカスへ。露天商(コーヒー屋)の女主人と行動を共にする。ベネズエラ国民は、良い靴を買う余裕がなくなったそうだ。
マラカイボからコロンビアへ出国する際、女主人にも同行してもらう。国境までのタクシー移動中、検問の警官が現れ金銭要求。

 

本書は330ページ、うち2/3は上記ベネズエラ潜入記であるが、ページ数が足りなかったのか残り1/3はメキシコ南部からアメリカ手前まで行く、通称「野獣列車」の取材である。

 

報道ではベネズエラの治安は無茶苦茶という印象があり、実際ベネズエラ人のtwitterでも「危険だから(特に)日本人は観光に来るな」的な話が流れていて、凄いことになっているのだろうという先入観があったが、本書を読む限り「治安が悪い国」程度の状況みたいだ。まあ、だからベネズエラのプロ野球リーグに戻るベネズエラ助っ人が多いのだろう(アレックス・ラミレスも一時ベネズエラに戻っていたはず)

 

7点(メキシコ編が1/3という構成に不満)/10点満点

| | | コメント (0)

2023/03/26

パラグ・カンナ/尼丁千津子訳「移動力と接続性(上)」感想。2023年3月7日読了

パラグ・カンナの本は3タイトル目(4冊目)。

・パラグ・カンナ/古村治彦訳「ネクスト・ルネサンス―21世紀世界の動かし方」感想。2011年11月23日読了。


・パラグ・カンナ/尼丁千津子・木村高子訳「「接続性」の地政学(上)」感想。2017年09月12日読了。


・パラグ・カンナ/尼丁千津子・木村高子訳「「接続性」の地政学(下)」感想。2017年09月21日読了。

 

本書そのものの感想は下巻に書く。

 

7点/10点満点

| | | コメント (0)

平山瑞穂「エンタメ小説家の失敗学」感想。2023年2月24日読了

いつも行く本屋で立ち読みして、出だしが面白かったので買った。
本書は面白かった。もしかしたら、著者の作品で一番売れる本になるのでは。

以下感想。

私はマンガが大好きで、マンガは編集者と作るもの、という理解はあった。
だが小説の世界でもそうなっていたとは驚いた。

本書に書かれているのは、エンタメ系小説の世界(その作家リストに熊谷達也(P38)が含まれているのは意外だったが)でも同様のことが起きており、小説執筆も編集者の意見がそれなりに重要であり、編集者の意見にある程度沿った内容で書かなければ出版してくれない。出版しても売れない状態が長引けば、執筆依頼すら来なくなる。売れない小説家平山瑞穂(本書の著者)には、もう出版社から小説執筆の依頼が来ない。

自由に書かせてくれた時もあれば、書籍編集者の指示に従った時代もあり、逆らった時代もある、結果としてほぼすべての小説が売れなかった著者。本書は、回想と反省と愚痴と若干の恨みで構成されている。

のだが、私的には面白く読め、痛快ですらあった。新潮社や角川はもう相手にしてくれないんだ、だったら(本書の版元)光文社で暴れてやる。

著者はもう商業小説家としての道を諦めたのかもしれない。じゃなければ、ここまであけすけな本は書けない。と思う。という意味で本書は、暴露本と同等レベルで面白かった。

ただ、まあ、私が著者の小説を読むことは無いかな(本書では、著者の自著を何冊も紹介しているが、どれもこれも「読みたい」と思わせる内容ではなかった)。

 

※どうでもいいが、マンガの世界でも「今、売れているジャンル」を模倣した作品をよく見た。今なら「転生したらスライムだった件」の亜種が山もりもりに出てくる。いわゆる異世界ものだ。あの亜種を書いている人たちは、3年後生きているのかね?(「葬送のフリーレン」は亜種じゃない方向性で成功した例だと思う)

 

8点/10点満点

| | | コメント (0)

河野啓「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」感想。2023年2月21日読了

栗城史多のエベレストチャレンジ(何回も挑んだ)と、エベレスト登山中に死んでしまったことを知っている人が読んだら、面白いノンフィクションだと思う。

*以下アマゾンより引用
第18回開高健ノンフィクション賞受賞作
「夢の共有」を掲げて華々しく活動し、毀誉褒貶のなかで滑落死した登山家。
メディアを巻き込んで繰り広げられた彼の「劇場」の真実はどこにあったのか。

両手の指9本を失いながらも〝七大陸最高峰単独無酸素〟登頂を目指した登山家・栗城史多氏。エベレスト登頂をインターネットで生中継することを掲げ注目を集めたが、8度目の挑戦となった2018年5月21日、滑落死。35歳だった。彼はなぜエベレストに挑み続けたのか? そして、彼は何者だったのか? かつて栗城氏を番組に描いた著者が、綿密な取材で謎多き人気クライマーの真実にせまる。
*引用終わり

イッテQのイモトアヤコが栗城にとどめを刺した的なことが書かれているが、実際そうなんだろうな。

 

8点/10点満点

| | | コメント (0)

恒川惠市「新興国は世界を変えるか」感想。2023年2月14日読了。

本書では29の新興国について書かれている。

アジア:高所得:シンガポール・韓国・台湾

アジア:中の上:マレーシア・中国・タイ

アジア:中の下:インドネシア・フィリピン・インド・パキスタン・バングラデシュ・ベトナム

中南米:高所得:アルゼンチン・チリ

中南米:中の上:ブラジル・メキシコ・コロンビア・ペルー

旧ソ連圏:高所得:ポーランド

旧ソ連圏:中の上:カザフスタン・ロシア

中東アフリカ:高所得:サウジアラビア

中東アフリカ:中の上:トルコ・イラン・イラク・アルジェリア

中東アフリカ:中の下:エジプト

サハラ以南:高所得:なし

サハラ以南:中の上:南アフリカ

サハラ以南:中の下:ナイジェリア

 

この29か国に関し、経済、福祉、民主化、政治体制、発展の条件、国際関係などの面から分析を行ったのが本書。

新書のボリュームで29か国も扱い、かつテーマも6個以上ある。

説得力を持たせるために図表を多用しているが、データ元は信頼できるところから引っ張ってきているものの、著者オリジナルの会社くくぉ加えた図表に加工しているため、説明を読んでも、なにを現した数値かわからないことがままあった。(立ち読みできる場合、24-25ページの表を見ると私の言いたいことがわかるのではないかと思う)

資料として役に立つ部分も多い反面、扱う幅が広すぎて堀が浅い印象も強い。一言でいうと「残念な本」である。

6点/10点満点

| | | コメント (0)

細野豪志著・開沼博編・林智裕取材構成「東電福島原発事故 事故調査報告」感想。2023年2月7日読了。

 

wikipediaより。細野豪志は29歳で衆議院議員に当選(民主党)、以降も当選し、2011年の大震災後、菅直人政権で原発事故の収束及び再発防止担当大臣、節電啓発担当大臣、内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)に任命され、初入閣。
野田政権後の選挙で民主党が惨敗し、民進党を経て無所属、のち2021年に自民党に入党。
(日本の政党の移り変わりは、教科書を作っていいる東京法令出版のここが分かりやすい)

 

第1章は、原発事故発生当時のキーパーソン6名との対話(文責細野)
第2章は、福島の復興に挑戦する6名の民間人との対話(文責開沼)
第3章は、原発事故発生時の政府責任者としての立場を振り返り、今後も残る6つの課題を提示(文責細野)

 

という構成になっている。

 

衆議院議員として活動しながら(2000年から8期連続当選)、自分の活動を振り返り、ここまで濃密な本を書けるのか!
細野豪志という政治家を見直した。

 

本書では以下のような提言がある
・処理水は一刻も早く海に流す。科学的に問題がないのだから、風評に負けて延々と先延ばしにするのは間違っている
・汚染された土(除染土)の中間貯蔵施設には希望がある。1mSVが独り歩きしている現状を変えなければ。
・被爆による健康への影響はなかった。福島の子供たちにだけ実施している甲状腺検査は(まだ継続しているらしい)もはや無意味。
・放射能の健康被害をことさら大げさに喧伝した科学者、マスコミ、芸術家、政治活動家は、むしろ風評の「加害者」である。(本書では明確な名指しはしていないが、原発の専門家面した京大の助手や、山本太郎、坂本龍一などを指していると読めた)

この本を出版することによって、細野豪志はかなり敵を作ったはずだ。

それでも出版したところに、政治家としての矜持を感じられる。

なお評点が7点の理由は、合計12名との対話がベースになっているため、同じ話題が何度も出てくる(福島イノベーションコースト構想や、除染土の中間貯蔵施設の話)。ここはどうにかできなかったのだろうか。

 

7点/10点満点

| | | コメント (0)

« 2023年1月 | トップページ | 2023年5月 »