北澤豊雄「混迷の国 ベネズエラ潜入記」感想。2023年3月11日読了。
北澤豊雄氏は、2010-2011年に南米コロンビアの日本食レストランに住み込みで働き、スペイン語を習得。その後、スペイン語能力を生かし、中南米各地を取材しているフリーの記者。
氏のデビュー作、「ダリエン地峡決死行」感想。紀行文。2019年09月18日読了。この作品には8点をつけた。
本書は南米ベネズエラが舞台。
ベネズエラは反米ポピュリスト大統領チャベス(石油価格の上昇でイケイケのバラマキ政権運営が可能だった)が2013年に死に、無能な子分マドゥロに禅譲したところ、石油価格暴落、イケイケだったバラマキにほころびが出て、インフレ率が100万%という状態に。さらに、無能すぎるマドゥロ政権にブチ切れた改革派(?)は、若き政治家グアイドを担ぎ上げ大統領就任を宣言。世界各国がマドゥロを認める国(中国ロシアトルコだけじゃなくインドやスペインポルトガルなどもこっち)と、グアイドを認める国(アメリカカナダイギリスフランスドイツ日本など)に分かれた。
グアイドが一気呵成にマドゥロをぶっ倒して国をまとめるかと思いきや、国会も裁判所も軍も警察もマドゥロ派が占領しているため、グアイドの暫定政府は大したことができないまま、2022年には暫定政府が解散し、暫定大統領の地位もなくなった模様。
坂口安紀「ベネズエラ 溶解する民主主義、破綻する経済」感想。2021年01月31日読了。8点。なども参照されたし(グアイド失職前)。
マドゥロ政権下のベネズエラは、失業と貧困が蔓延し、暴力が国中を支配。
殺人率が世界一になったり(南アフリカより悪い)、3000万人以上いた国民のうち400万人以上が国外に脱出(出稼ぎ)したり、平均寿命がかつて75歳だったのが⇒70歳まで下がったり、無茶苦茶である。
さて本書。
修羅の国と化したベネズエラ。実態を調べるために著者は潜入を試みた。
コロンビアの新聞記者と一緒に、サッカーの取材と偽ってコロンビアから陸路でベネズエラに入国、メリダという都市に行く。驚くほど平和で、スーパーには普通にモノが売っているし、レストランもある(1食200円くらい)。ナイトライフのクラブまである。
2012年の最低賃金月額 約3万円
2020年の最低賃金月額 約400円(桁の間違いではない)
月の収入が400円で、どうして200円のレストランで飲食できるの?という謎も本書では明かしている。
この時の潜入は、ナイトクラブからの帰路で同行のコロンビア人記者が強盗に襲われたため、予定より大幅に早くコロンビアに戻る。
2回目の潜入は空路で首都カラカスへ。出会い系アプリで出会った女性に騙され、金を抜き取られる。
3回目の潜入も空路でカラカスへ。露天商(コーヒー屋)の女主人と行動を共にする。ベネズエラ国民は、良い靴を買う余裕がなくなったそうだ。
マラカイボからコロンビアへ出国する際、女主人にも同行してもらう。国境までのタクシー移動中、検問の警官が現れ金銭要求。
本書は330ページ、うち2/3は上記ベネズエラ潜入記であるが、ページ数が足りなかったのか残り1/3はメキシコ南部からアメリカ手前まで行く、通称「野獣列車」の取材である。
報道ではベネズエラの治安は無茶苦茶という印象があり、実際ベネズエラ人のtwitterでも「危険だから(特に)日本人は観光に来るな」的な話が流れていて、凄いことになっているのだろうという先入観があったが、本書を読む限り「治安が悪い国」程度の状況みたいだ。まあ、だからベネズエラのプロ野球リーグに戻るベネズエラ助っ人が多いのだろう(アレックス・ラミレスも一時ベネズエラに戻っていたはず)
7点(メキシコ編が1/3という構成に不満)/10点満点
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