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2023/05/29

パラグ・カンナ/尼丁千津子訳「移動力と接続性(下)」感想。2023年3月22日読了

 

本書のサブタイトルは「文明3.0の地政学」
原著のタイトルは「MOVE」

 

パラグ・カンナの本は3タイトル目(5冊目)。

 

人間の歴史は、常に移動が伴っていた。
古くは200万年前、アフリカから猿人がユーラシア大陸へ移動し、30万年ほど前に「ホモ・サピエンス」へ進化を遂げ、モンゴル帝国は世界中をまたにかけ、ジャガイモ飢饉でアイルランドからアメリカへの大量移住が発生した。

 

世界中の多くの人たち(著者推定では40億人。多くがアフリカやアジアの貧国に住む人々)が、自国を離れ移住したいと考えている。携帯電話とインターネットがあれば、移住は昔ほど困難なことではない。ただし、受け入れてくれる先進国は少ない。

 

本書は、人々がより良い暮らしを求めて移住(移動)する流れは止まらないし、止められない。そして、その移動力こそ、2050年の未来を形作る源である。移住先は先進国の都市とは限らない。気温上昇で、グリーンランドやシベリアの永久凍土地帯が快適な移住先になるかもしれない。
的なことを、詳細なデータをもとに書かれた本である。

 

アメリカはメキシコ経由でやってくる中南米の移民を追放している。
スペインやイタリアはアフリカからの不法移民を追放している。
シンガポールは移民によるスラム化を防ぐため、多民族共生を選んだ。
チェコやポーランドは優秀な移民(戦争前のウクライナ人が多い)を積極的に受け入れる政策を進めた。
ドイツは移民(シリアなどの中東難民が多い)を受け入れすぎた。
フランスは移民(旧植民地のアルジェリア系など)とフランス系の間で分断してしまった。
カナダは移民大歓迎。
(この辺りまでが上巻)

 

カザフスタンは豪州とほぼ同じ面積で、人口は2000万人に満たない。国庫は石油ガスで潤っている。カザフ政府が本気になれば人は来る。
インド人はウズベキスタンにビザなしで入国できる。それもあってインド系の承認が多くいる。
日本は優秀な人が出ていく国である。上級学位(修士号や博士号)を取ったのに仕事がなく、8,000人もの人が中国で研究活動をしている。

 

下巻p188
「より大きな国が一定の居住権や生活水準を保障せずにさらに多くの移住者を呼び込んだ場合、自国民と外国人、技能を要している人といない人、富裕層と貧困層という階層化が定着するのは避けられないだろう」

 

本書には結論めいたことは書かれていない。「こうなるだろう」という示唆にとどまっている。

 

移住を考える人々は減らないし、移住の意欲も止まらない。
移住を受け入れる国は今のうちに受け入れ態勢を整えていかなければならない。
先進国はほぼすべての国で人口減少に直面している(もっともましなフランスでも出生率は2.0⇒人口維持には2.1必要。日本は1.4、スペイン1.3、イタリアとシンガポールは1.2、韓国は1.0)。

 

先進国は、いつまで先進国でいられるのか。

 

7点/10点満点

 

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