←儚いものだ
シリグリの宿のフロントに、
「朝飯はどこで食うの?」と聞いたら、
「部屋に持って行く。何食う?」とメニューを見せてくれた。
オムレツ頼んで、ぼけーっと待つ。小僧が朝食を持ってくる。チップはやらん。チップを払うほどのサービスは受けとらんのだ、わかるかね、小僧。
タバコを買いに行く。すげえ二日酔いだ。近所じゃマルボロが売ってない。20分くらい歩きまわって、ようやくマルボロゲット。
ツアーエージェントのマイクと落ち合う。マイクも相当飲んだはずなのに、けろっとしている。見た目と違って若いのだろう。きっとそうだ。昨日のドライバーは既にダージリンに戻ってしまったので、空港までタクシーで行ってくれ、代金はもちろん払っておくから。ということでマイクともお別れ。
タクシーで30分走り、バグドグラ空港に着く。噂には聞いていたけど、フライトチェックインの段階で機内持ち込みのセキュリティチェックがあり、かなり厳しい。リュックにタグが取り付けられる。このタグがないと、機内に搭乗できないのだそうだ。
で、タバコが吸いたくなった。セキュリティチェックのお姉さんに「タバコ吸う場所ある?」と聞くと、「んー、どこかしら、私は吸わないから……ねえあなた(と男の係員に)知ってる?」「トイレだ」「そうね、トイレなら大丈夫よ、大便用の個室で吸えばOKよ」
マヂっすか? いいんすか、そんなとこで吸って?
よくわからないけど、いいと言っているからいいのだろう。便所に行く。すると、大便用個室は全部埋まっていて、しかも行列が出来ている。行列の最前列にいる若者は、靴を脱ぎズボンも脱ぎ始めた。脱がないと用を足せないタイプなんだろう。しかし、公衆の面前でブリーフ一丁になるって、我慢の限界が近いんだろうな。
5分待っても行列がちっとも進まないから、タバコ(をトイレで吸うの)は諦めた。
そろそろ昼なので飯を食いたかったのだが、バグドグラ空港に3カ所くらいあったレストランは、どこもかしこもインドのきつい臭いが漂っており、どう考えても胃に優しくなさそう。機内で飯を食うことにする。
搭乗に並ぶと、警察のような連中によるセキュリティチェック。フライトチェックイン時のセキュリティチェックでOKだったのに、「何だこれはー、カバンを開けて中の荷物を見せろー」と言われる。
「これは何だー」
「ウィスキーの小瓶です」
「没収だー。これは何だー」
「チェキって言う日本のインスタントカメラです」
「何ぃっ、じゃあ写真を撮ってみろー」
「フィルム無いから無理です。ふたを開けます。シャッター切ります。フラッシュ焚いてみます」
「むぅ。こっちは何だー」
「ノートパソコンです」
「電源入れてみせろー。よーし。これは何だー」
「ゴリラポッドというクネクネする三脚です」
「何ぃ。これが三脚だとぉ。どうやって使うんだー」
「こんな感じで、クネっとさせて適当なところに巻き付けるのです」
「これは便利そうだな。うむ、行って良し」
面倒なセキュリティチェックだ。
機内に乗りこむ。私はもちろん通路側。すると、隣に座っている親子連れが「私たちは通路をはさんだ向こう側に座っている男と家族なの。席変わって」というから、即答で「ヤダ」。親子連れはぶんむくれる。冗談じゃない、飛行機で最もいい席は通路側なんだよ、誰が変わるか。
機内で昼飯を食おう、早く売りに来なさい(格安航空会社のジェットエアウェイズだったので、機内食は販売方式)。
腹減って胃が痛くなってきたので、とにかくもう早く飯を食いたかったのに、全く何も売りに来ない。そうこうしているうちに、経由地のゴーハチという空港に到着。まだ売りに来ない。いい加減インド人乗客も「のど渇いたー」「腹減ったー」と騒ぎ出す。
さすがにCAが水の無料サービスを始めた。トレイに紙コップのっけて、2リットルのペットボトル持って前の席から順番に配る。2リットルごときのボトルなので、10人に配ったらペットボトルを取りに戻る。また配りに来る。既に水を配った客から「もう一杯ちょうだい」と言われ、CAは素直におかわりを注ぐ。おかわりOKか、と気づいた他の乗客が、「俺もおかわりー」「私もおかわりー」
ちっとも私のところまで来やしない。
あー、のど渇いたー、腹減ったー。
もう面倒だから、CAのところに行って直接「俺にもくれ」と強奪。ね、通路側って便利でしょ。
飛行機がバグドグラ空港を飛び立ってから2時間以上経った頃に、ようやく機内販売開始。メニューは実に貧弱で、まともなものが何もない。ノンベジタリアンサンドイッチを頼む。これが、かなり辛くて不味くて、食った直後に吐きそうになった。しかし、胃に何か詰め込まないともっとひどい事態を招きそうだったので、無理して食う。
すると、だ。
隣の親子連れが「ねえ、トイレ行きたいからどいて」だとよ。
お前なあ、今飯食ってるだろ、食い終わるまで待てないのかこのクソインド人。それともアレか、席変わってやらなかった事への仕返しか、コラ。
飛行機は、経由地ゴーハチでの乗換客の搭乗に手間取り1時間遅れでデリーに到着。ああ、づがれだ。
さあ、ダッシュで降りてパハールガンジに行くぞ、と通路に並んでいたら、目の前の客が棚から荷物取り出す際に落として、それが私の頭に直撃。結構でかいトランクがまともに当たった。「いってえ」「オォ、ゴメンゴメンゴメン」「っぁっ、いってぇぇぇ」「オォ、ゴメンゴメンゴメン」
ああ、もう踏んだり蹴ったり。
プリペイドタクシーでパハールガンジに向かう。気温40度超え。ああ、暑い。
泊まろうと思っていた宿は満室。紹介してもらった宿(有料Wi-Fiあり)にチェックイン。小僧が荷物を部屋まで運んだので、しょうがないから10ルピー(20円)渡すと、「少ない。1USドル寄越せ」と文句を言う。ナニコラクソガキ、と思ったけど怒鳴りつける体力が残っていないので1ドル上げてしまう。
シゲタトラベルのラジェンダさんに挨拶。「いやぁ、ダージリンでひどい目にあったよ」「それは大変でした。インドじゃこういうことがときどきある。残念だったけど、仕方がないね。今晩、日本の方と食事するので、一緒に行きましょう」
ということで、グリーンチリ(という有名なレストラン)で、ラジェンダさんのおごりで飯。旨いは旨いけど、辛くて胃が痛くて食が進まない。困った。日本の方々ともお話しする。同じ宿に泊まっていることがわかり、「いやあ、さっきクソガキに1ドル渡しちゃった」と私が言うと、「それはいけないなあ、あれでしょ、あの小僧でしょ、それはいけないなあ、あのガキは後できっちり躾けときましょう」と空手の得意な方が憤られておりました。
宿に戻って早く寝ようとするのだけど、胃が痛くて眠れない。
0:00頃から吐き出す。30分に一回吐く。大して物を食っていないのに、なぜこんなに吐けるのだろう、というくらい大量に吐く。吐く。吐く。
4:00になっても眠れず吐き続ける。こりゃだダメだ。直接的な原因は昨日の夜にストロングビールを飲み過ぎたせいだけど、自分で思っている以上に精神的なショックがあったのかもしれん。この状態で、パハールガンジの安宿街に泊まり続けるのは難しい気がしてきた。厳しい。また吐く。
デリーで有数の高級ホテル「タージマハル」のサイトを見ると、通常価格1泊2万ルピー(4万円)が1万ルピー(2万円)に値下げしている。
1日1ドル以下で暮らす人が大勢居るインドで、1泊1万ルピー。
まあいいや。予約ボタンをポチッ。
また吐く。