泉谷渉「電子材料王国ニッポンの逆襲」感想。
元気になれるビジネス書。2006年05月24日読了。
泉谷渉 /東洋経済新報社 2006/05出版 249p 19cm ISBN:4492761608 ¥1,680(税込)
1980年代、世界シェア50%を超えていた日本の半導体産業。かつての栄光はどこへやら、今やシェア20%そこそこにまで落ち込んでいる。設備投資のタイミングを誤り、市場が落ち込んでいるときに大規模投資を行った韓国に追い抜かれてしまった。本書によると、世界の半導体市場は28兆円で、そのうち半導体世界首位インテル1社で3兆9000億円、2位サムソン1兆8000億円、3位テキサス1兆2000億円、4位にやっと東芝1兆円。日本の上位13社合計はおよそ5兆5000億円。日本が束になってかかっても、インテル+サムソンと同じくらいにしかならないとは。
かつては日本がダントツにリードしていたはずの液晶ディスプレイ。これも臨機応変な設備投資を行った韓国企業に惨敗の状態。ソニーの液晶テレビにサムソンの液晶ディスプレイを使用することは、経済ニュースで大きく取り上げられた。
しかし、半導体も液晶ディスプレイも、作るには材料が必要なのである。
その材料は、日本が圧倒的なシェアを握っていて、
日本のメーカー同士によるシェア争いはあっても、
韓国やアメリカには簡単に抜かれないぞ、
というのを数字を踏まえて検証解説しているのが本書である。
普通の半導体を作るには、シリコンウェーファーというものが必要である。これがなければ半導体は作れない。シリコンウェーファーの市場規模は9000億円。そのうち60%以上が、日本企業製品だという。
電解コンデンサという電子部品がある。1個3~50円くらいの小さな部品だ。これを作るのには、半導体ほど膨大な設備投資も必要なければ、技術も必要ない。電解コンデンサを作るメーカーは世界中にある。
しかし、この電解コンデンサを作るには、セパレータと呼ばれる紙が必要である。この紙は特殊な紙で、そんじょそこいらの企業では作ることが出来ない。このセパレータの世界シェア70%超を、日本の一企業が作り出している。
素晴らしいではないですか。
この本には、こういう話が随所に出てくる。日本の開発力、技術力、製造能力、どれをとっても素晴らしい。
本書の結論のひとつに、
材料開発は10年に渡る研究を行い、10年掛けて回収する、つまり20年スパンの商売。対して半導体は、3000億円とか5000億円とか設備投資しても、投資タイミングさえ間違っていなければ3~4年で回収できる商売。アメリカや韓国や台湾のように、短期で大もうけすることを望んでいる人種には、20年スパンの材料開発は向いていない。つまり、日本の材料業界はまだまだ躍進を遂げられる、とある。
素晴らしいではないですか。
かなり褒めちぎったのですが、本書は山のように欠点があります。
まず、対象読者層が判らない。専門用語を平気で使っており、それだけを考えたらこういう業界の人向けかと思うのだが、内容はどちらかと言えばこういう業界にいないビジネスマン向け。
それから日本語が時々おかしい。これは読み手の感覚的な部分もあるが、なんか妙。
さらに用語の統一が出来ていない。ガリウムヒ素と書いたりGaAsと書いたり、何の説明もなくAlGaInと出てきたり(アルミガリウムインジウムだと思うが)。
欠点が多いので本の評価としては低め。
でもコンセプトは大変よろしい。
4点/10点満点
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