松本仁一「カラシニコフ 2」感想。
ドキュメンタリー。2006年06月07日読了。
松本仁一/朝日新聞社 2006/05出版 285p 20cm ISBN:4022501650 ¥1,470(税込)
私的10点満点に推した「カラシニコフ」の続編。
前作は、主にアフリカで起こっているカラシニコフの悲劇を書いていた。政権を握った連中が国民を顧みることなく私腹を肥やし、軍を私物化し、治安をないがしろにし、満足に稼ぐことができない国民や給料を貰えない警官が強盗になり、強盗から身を守るために国民は銃で武装する。その際に使われる銃が、カラシニコフ。なぜなら、安くて壊れにくいから。
作者松本仁一は、そういうアフリカの国々を「失敗国家」と名付けた。シエラレオネ、ソマリア、ナイジェリアなどが代表的な失敗国家だという。
本書は、アフリカ以外の地域でのカラシニコフを取材したものである。
国家が機能し、国家は国民を守ろうとしているが、山岳や密林に阻まれ治安が行き届かないコロンビア。そのコロンビアへカラシニコフを供給しているアメリカの銃砲店と中国最大の兵器会社。ペルー政府の側近も、私腹を肥やすためコロンビアへカラシニコフを密輸出する。コロンビア側の代金支払い方法は現金とコカイン。
パキスタンのパシュトゥン人地区では、カラシニコフを家庭内手工業で製造している。
アフガニスタンでも制式銃はカラシニコフ。
フセインなき後のイラクでも、カラシニコフは蔓延している。
相変わらず剛胆な取材をする。コロンビアでは、一昔前まで麻薬供給の最大拠点であったメデジンで取材を行い、アメリカがイラク(のバグダッド)を制圧した10日後にヨルダン経由で陸路バグダッドに入り、取材を開始しているという。
並みのジャーナリストにはできない取材を通して書かれた本書は、事実が持つ厚みがある。作者の取材の切り口がシンプルなことも手伝ってか、平易な文章でありながら、実に深く鋭い。
アフガニスタンやイラクは、なぜいつまでも内乱のような状態になっているのか、ニュースや新聞などではわかりにくいその理由が、本書ではすっと理解できた。
しかし、ここまでの内容をカラシニコフの切り口だけで終わらせるのは勿体ない、そう思うので今回は8点。
8点/10点満点
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