東野圭吾「たぶん最後の御挨拶」感想。
エッセイ。2007年02月13日読了。
東野圭吾 /文藝春秋 2007/01出版 273p 19cm ISBN:9784163688107 ¥1,260(税込)
東野圭吾最後のエッセイ集、という触れ込みなので読んだ。
私は本格ミステリが好きではないので、東野圭吾はあまり読んでいない。たぶん「天空の蜂」「秘密」「白夜行」「超・殺人事件」「手紙」の5冊だけ。「鳥人計画」は読んだような気がしていたのだが、本棚を見たら私が読んだのは響堂新の「超人計画」という本だった。
東野圭吾のファンというわけではないのに、なぜかエッセイを買ってしまった。なぜなんだろう。我ながら謎だ。
さて本書。
いろんな媒体で発表されたエッセイが寄せ集められている。東野ファンなら楽しめるだろう。
意外だったのは、デビュー作「放課後」が10万部越えたあと、「秘密」までろくすっぽ売れない作家だったと述懐していること。「天空の蜂」は良かったのに売れてなかったのね。
本書は私が私の好みで評価すると4点か5点しか付けないところなのだが、今回は6点を付ける。
なぜかというと、図書館の功罪に関する考え方が私にきわめて近く、そこに共感したからだ。本書59ページから、かなり長く引用する。
【わからないといえば出版界の先行きだ。本当にもう本の売れない時代になった。不況の影響はもちろんあるだろう。書籍代というのは、真っ先に倹約するのが可能なものだからだ。図書館に行けば、ベストセラーだって無料で貸してくれる。レンタル業なんかも登場しつつある。どういう形にせよ、読書という文化が続いてくれればいいとは思う。しかし問題なのは、本を作り続けられるかどうか、ということだ。本を作るには費用がかかる。その費用を負担しているのは誰か。国は一銭も出してくれない。ではその金はどこから生み出されるか。じつはその費用を出しているのは、読者にほかならない。本を買うために読者が金を払う。その金を元に、出版社は新たな本を作るのだ。「読書のためにお金を出して本を買う」人がいなくなれば、新たな本はもう作られない。作家だって生活してはいけない。図書館利用者が何万人増えようが、レンタルで何千冊借りられようが、出版社にも作家にも全く利益はないのだ。だから私は「本を買ってくれる人」に対して、これからもその代価に見合った楽しみを提供するために作品を書く。もちろん、生活にゆとりがないから図書館で借りて読む、という人も多いだろう。その方々を非難する気は全くない。どうか公共の施設を利用して読書を楽しんでください。ただし、「お金を出して本を読む人たち」に対する感謝の気持ちを忘れないでください。なぜならその人たちがいなければ、本は作られないからです。】
私も図書館で本を借りて読む人を非難する気は全くない。しかし、図書館で借りてきた本を評価するブログには否定的である。著者にも出版社にも書店にも一円の貢献もしていない人たちは、ネガティブ評価もポジティブ評価も公にすべきではないと思っている。
私はこのブログを立ち上げたとき、「図書館で借りてきて読んだ本のレビューをする」系のブログのうちネガティブ評価が多く掲載されていたいくつかに対し、「著者に一円も払ってない奴が偉そうにレビューするな」とコメントした。多くのブログ主催者からは無視された。まあ当然だろう。
しかし私は、本は図書館で無料で借りて読み、気に入らなければ「私の時間を返せ」などと平気で書き込めるブログ主催者の精神が理解できない。
今後、出版社はますます売り上げが下がり、それこそサバイバル状態に突入していくだろう。倒産間近で断末魔をあげている出版社が、ネガティブ評価を書き込んだブログに対して「おまえのブログのせいで売り上げが減った。損害賠償せよ」という裁判を起こすかも知れない。そうなったとき、図書館で借りて読んでレビューしている人と、ちゃんと新刊で買って読んでいる人では差が出るような気がする。
もちろん、ネガティブ評価をブログに書き込むことと、図書館で借りて作者に一円も払わずに読むことは、直接は関係ない。著者や出版社も、文化事業に携わっているメンツにかけて、簡単には裁判など起こさないと思う。しかし、程度の低い著者と程度の低い出版関係者が増えているのも事実だし、作家や出版社や役人や法曹関係者やその他諸々の想像を超える速度で、ブログが進化しているのも事実だ。2ちゃんねるに誹謗中傷の書き込みがあったからといって、ひろゆきを訴えるのは「そりゃ違う」と思っていたけど、法曹界はひろゆきに損害賠償の支払いを命じた。今の世の中、何が起きるか判らない。ネガティブ評価をブログに書き込む人は、覚悟を持って書き込まねばならないと思う。
ちなみに私が真保裕一(または新潮社から)、「最愛」が売れなかったのはおまえのブログで糞味噌に書かれたからだ、と訴えられたとしたら、私は戦う。如何に「最愛」が駄作であったかを、全国10万人くらいにアンケートを採り(有効回答数はせいぜい200人)と、客観的に駄作であることを証明する。
私はそのくらいの覚悟を持って、駄作という感想を世に公表している。
6点/10点満点
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感想アップした30分後、ちょっとだけ追加。
こういうことを書くから私は敵を作ってしまうのだなあ。判っちゃいるのだが...
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コメント
はじめまして。ここ最近毎日のように拝読させて戴いていますサイトーです。
天野さんのような読者がいるからこそ、作家が鍛えられていくのだと、ふと今日のブログを読んで思いました。それが言いたくてコメントをさせて頂きました。
また、敵をつくってしまうと書いていましたが、今回のような文章を書くことで天野さんに共感し、味方になる方もきっといるはずです。どうぞこれからも本をたくさん読み、率直な意見をお聞かせください。陰ながら応援しています。文章が下手なのは、お許しください。
*映画『模倣犯』の感想には思わず笑ってしまいました(全くの同意見です)。
投稿: サイトー | 2007/02/14 21:05
サイトー様
こんばんは。コメントありがとうございます。
私の基本スタンスは、どんなに好きな作家の作品でも、作品単位で感想を書くように努めています。宮部みゆきの作品だってつまらなければつまらないと書き、福井晴敏の作品は長すぎて冗漫だと思ったらそう書いています。
とはいっても私は文学的な素養があるわけでもなく、結局は個人的な好き嫌いが感想のベースになっているので、自分の感想がきちんと伝わっているのかに自信が持てないときも多々あります。
そんなとき、読んで下さる方がいるというのは、本当に励みになります。
これからも偉そうなことを書いてしまいますが、お読みいただけると幸いです。
(すいません、すごく堅苦しい返しになってしまいました)
投稿: 天野才蔵 | 2007/02/15 00:10