武田邦彦「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」感想。
啓蒙書?。2007年02月27日読了。

武田邦彦 /洋泉社 2007/03出版 221p 19cm ISBN:9784862481221 ¥999(税込)
私が環境問題に興味を持つようになったのは、7~8年前に見たテレビ番組がきっかけである。正確な放送時期や番組名などは忘れてしまったが、日本乾電池工業会というような名称のメーカー団体のわりと偉い人が、乾電池のリサイクルがなぜ進んでいないかの説明をしていた。曰く、
「乾電池をリサイクルするためには、作るよりもコストがかかってしまう。コストというのはエネルギーのことで、乾電池1個リサイクルするためには、乾電池の新品を1個作るよりもエネルギーが必要になってしまう。そのため現時点ではリサイクルが普及していない」
という内容だった。数日後の読売新聞のテレビ欄読者お便りコーナーに、これに対する一般主婦からの意見が載っていた。曰く、
「コストコストって何でもかんでもコストで考えて、企業がそんな考え方だからリサイクルが進まないのよっ」
といった感じ。更に後日、乾電池工業会から改めてコストとはエネルギーのことである旨の説明が読売新聞に掲載されていた。はず。かなりうろ覚えなので間違っていたらすいません。
私は、作るよりエネルギーを要するのならリサイクルの意味がないじゃないか、何を阿呆な投書をしているのだこの馬鹿主婦は、と思ったのだが、世の中はこの主婦のような感想の方が多いとも思った。
この話では両者の見解がかみ合っていない。乾電池工業会が言っていたのはエネルギーを無駄に使ってしまったらリサイクルの意味がないという話なのに、主婦が言っていたのは限りある貴重な材料をリサイクルしないとはけしからんという話だ。
さて本書。2007年3月12日発行の超最新刊である。(話は違うが、初版発行日と店頭に並ぶ日が1ヶ月ずれる出版界のこの悪習は何とかならんのかね)
奥付によると、著者は昭和18年生まれ、現在名古屋大学大学院教授、多摩美術大学および中部大学非常勤講師、更に内閣府原子力安全委員会専門委員および文部科学省科学技術審査会専門委員とのこと。
本書のタイトルを見たらすぐ判るように、本書は環境問題に関して疑問を持っている読者が読むと「なるほどなあ」と思い、環境問題解決推進派が読むと「こういう危機感のない学者がいるから環境問題は悪化の一途をたどるのだ、バカ学者め」と著者に対して殺意を抱く、ような内容になっている。
私は、二酸化炭素排出量を少々削減したぐらいで地球の温度はほとんど変わらないと思っているし、北極の氷が溶けたからといって海面が上昇するわけないだろう、と思っているような人間なので、著者が書いている説にいちいちごもっともと頷くことしきりであった。
ただ推進派を逆なでする(もしくは環境問題についてあまり考えていない人を洗脳する)内容に寄りすぎでいるため、疑問派の私が読んでも、おやぁ?と思ってしまうようなことも多い。
例えば、二酸化炭素を吸収させるため森を育てようという環境保護案に対し、著者は「若い木は生長するため二酸化炭素を吸収するが、老木になってくるとほとんど吸収しなくなり、枯れ木は腐る過程で(木を分解する微生物が)二酸化炭素を排出する。ある一定の面積の森林で考えると、若い木と老木・枯れ木はほぼ同数存在すると考えられるから、二酸化炭素の吸収・排出はトントンになる」と述べる。
環境問題の推進派にその理屈は通用しないでしょう。
疑問派の私ですら、「管理された森林を作り、若い木を育て、老木になる前に伐採する」と、木は二酸化炭素を排出しないでしょう、と思いますが。
本書でもっとも意外だったのは、日本で使われている紙の原料となるパルプは、先進国の木材を使っているから、日本人が紙の消費を減らしても途上国(インドネシアやフィリピンやブラジルなど)の森林伐採は止まらない、という話。
それは知りませんでした。結構ショックです。
意外ではなかったが数字を出されて唖然としてしまったのは、1985年を境に新油田の発見数(推定埋蔵量)よりも石油の消費量の方が多くなってしまっており、このまま行けば2030年頃に石油が枯渇してしまうだろう、という話。
それも知りませんでした。
そして石油が枯渇すると、トラクターが動かせなくなるため日本の農業生産効率は現状よりも落ち、現在40%の食糧自給率が25%くらいにまで低下するであろう予測。
改めて日本の食糧自給率ってホントに低いんだなあと実感。
全体的な感想として、本書はその主張がちょっと強引な気がする。上梓する前にもっと一般人に読ませ、著者の独りよがりになっている部分をもう少し判りやすく伝えることが出来るようにすれば良かったのではないだろうか。惜しい本である。
とはいうものの、読んで損はない本だと思う。
この著者には、次作を期待したい。
5点/10点満点
| 固定リンク
「◇ノンフィクション」カテゴリの記事
- 野村進「島国チャイニーズ」感想。
ノンフィクション。2012年01月14日読了。(2012.01.20) - 石井光太「遺体―震災、津波の果てに」感想。
ノンフィクション。2011年11月09日読了。(2011.11.27) - 木村元彦「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡」感想。
ノンフィクション。2011年10月20日読了。(2011.11.21) - 石井光太「飢餓浄土」感想。
ノンフィクション。2011年10月28日読了。(2011.11.23) - 藤野眞功「バタス 刑務所の掟」感想。
フィリピン刑務所ノンフィクション。2010年08月22日読了。(2010.08.23)
コメント