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2011/09/02

ドナ・ディケンソン/中島由華訳「ボディショッピング 血と肉の経済」感想。
ルポ?哲学?2011年08月23日読了。

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ボディショッピング―血と肉の経済

原著は2008年に出版され、邦訳本(本書)は2009年に出版された。わりと最近出た本である。

◆本書概要(紀伊國屋Bookwebより)
たとえば臓器、組織、細胞、さらには遺伝子さえも商業目的に用いられ、大金を生みだしている。
不妊治療用の卵子の売買、インプラント用の遺骨の売買、遺伝子特許、臍帯血バンク、幹細胞研究、美容整形、手や顔の移植…。
いま、世界で進行する人間のからだのすべての商品化のおそるべき実態の全貌をあきらかにしつつ、その問題のありかを気鋭のフェミニストが問う衝撃の書。

1 揺りかごから墓場までのボディショッピング―赤ん坊も遺骨も商品になる
2 自分のからだは自分のものだといえる根拠は?
3 「クリスマスに愛をこめて―幹細胞を贈ります」
4 幹細胞、聖杯、卵子のなる木
5 ゲノムの大争奪戦―フランケンシュタイン博士の怪物の特許化?
6 「ノー」といいたがるバイオバンク
7 “ほんとうの私”を買うこと―顔のショッピング
8 からだは資本なのか?

人の臓器や細胞が売買の対象になっていいのか。からだの商品化の驚くべき実態を多くの事例によって暴きつつ、そのあり方を問う問題作。

◆感想

本書のタイトルおよび概略を見ると、臓器売買に関する海外ルポかと思っていた。

ところが違った。

どちらかと言えば、広い意味での臓器売買に関する裁判記録や、広い意味での臓器売買に関する現状のルポを交えながら、その実、本書の中心は生命倫理に関する深い考察である。


第2章で、ジョン・ムーア事件を引き合いに出している。

ジョン・ムーアは有毛細胞白血病という珍しい血液ガンを患っていた。ムーアは治療のためUCLAに、血液、骨髄、精液などを採取された。UCLAの治療チームは、ムーアの細胞から通常では考えられないくらい多くのT細胞(免疫の働きで重要な作用をする細胞)が作られていることを発見し、その遺伝子を解明すれば研究用と治療用のT細胞を作ることが出来ると考えた。

ムーアの脾臓は常人の20倍の大きさに肥大しており、医療チームは脾臓切除手術を行っていた。

治療チームはムーアの脾臓の切片を研究チームに渡し、研究チームはバイオテクノロジー企業および製薬会社と手を組み、遺伝子解読そしてT細胞の生産を行おうとしていた。

ムーアに無断で。

さて問題です。

切除されたムーアの脾臓は誰の物でしょうか?

金銭的な話に置き換えると、ムーアの脾臓がなければ、研究チームもバイオテクノロジー会社も製薬会社も誰一人、儲けることは出来ない。しかし、ムーアには一銭も入らない(むしろ治療してもらったんだから金を払う側だ)。

再度、同じ問題です。

切除されたムーアの脾臓は誰の物でしょうか?

ムーアの一件は裁判になった。結果として、医療チームのインフォームドコンセントが不十分であったことに関しては勝利したが、ムーアの脾臓の所有権は、ムーア自身には認められなかった。(英米法=コモンローに基づく判決。フランスやオランダの大陸法=シビルローでは解釈が異なる)


これを皮切りに、著者は「遺伝子」は誰の物かと読者に問いかける。バイオテクノロジーの発達により、遺伝子を利用した特許が多数出願成立されているが、「遺伝子」は、発明発見者の功績を保護する「特許」に値する物なのだろうか?「遺伝子」は人類すべてが共有するべき財産なのではないか?

と、様々な実例を出しながら著者は読者に問いかける。


私はこんなこと考えたこともなかったですよ。


◆そのほか1

臍帯血バンク

というのがある。臍帯血とは、へその緒の中に含まれる血液で、白血病の治療に有効な造血幹細胞が多量に含まれていることから、普通の献血とは別に扱われる。

万が一、自分の子供が白血病になったときのことを考え、母親が子供を出産する際、臍帯血を自分の子供用に保管する民間の臍帯血バンクもある。

だが著者によれば、母親の臍帯血が必ずしも有効とは限らないらしい。

◆そのほか2

著者によれば、女性の卵子提供も臓器売買の一種と考えるべき、と本書で述べている。

卵巣に異常があって出産できない女性のために冷凍卵子を提供する場合や、卵子にも幹細胞が多数含まれていることから研究や新薬開発などに卵子が用いられる。

提供する側の女性は、どうせ毎月来るものだし、ちょっとだけ苦痛に耐えたら数万円も貰えるからと、小遣い稼ぎ感覚で提供する人も多い。

しかし、卵子を採取するために排卵誘発剤を多用し、女性の体を無用に痛めている可能性も多々あるらしい。

女性が一生の間に生み出すことが出来る卵子の数には限りがあり(もちろん個人差はある)、限りある生体資源を人為的に取り出して利用することは、臓器売買といっても過言ではない。と著者は言う。


本エントリーの冒頭に、広い意味での臓器売買と書いたのは、上記卵子に関することが含まれているからである。


◆というわけで

このような話が山盛り250ページもある。しかも最近の本にしては珍しく、文字も小さめ、1ページの行数も字数も多く、読み応えたっぷりである。


倫理的・哲学的な内容が多く、読むのは疲れたが、読んで損のない一冊だった。

臓器売買や臓器移植について関心を持たれている方は、一読することをお奨めする。


8点/10点満点


◆余談:臓器売買に関する最近の読書

最近、私は好んで医療関係、なかでも臓器売買及び臓器移植についての本を読んでいる。
◆デレック・ハンフリー「安楽死の方法 ファイナル・エグジット」2011年08月06日読了(安楽死本)
◆岩田健太郎「「患者様」が医療を壊す」2011年07月17日読了(医者の思想エッセイ)
◆一橋文哉「ドナービジネス」2011年02月16日読了(作り話っぽく信頼性に欠ける)
◆山下鈴夫「激白 臓器売買事件の深層」2011年01月25日読了(臓器売買犯の言い訳)
◆城山英巳「中国臓器市場」2011年01月24日読了(ルポ本としての構成はイマイチだが取材内容は良)
◆青山淳平「腎臓移植最前線」2010年10月17日読了(これは良書)
◆木村良一「臓器漂流」2010年09月09日読了(本としては残念だが事実関係は興味深い)

単純に興味があるのです。

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