木村元彦「終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ」感想。
ルポ。2012年02月26日読了。
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旧ユーゴ→セルビア代表サッカーをお追っかけているスポーツルポライターが見せつけられた、旧ユーゴの実態についての、一般市民目線のルポ。
これは読む価値あり。
必読書。と言っても過言ではない完成度。
◆本書の紹介(紀伊國屋Bookwebより)
1999年のNATO軍の空爆により、コソボ紛争は公式には「終結」したことになっている。
しかし現地では、セルビア系の民間人が三〇〇〇人規模で行方不明になるなど、空爆前とは違った形で「民族浄化」が続き、住民たちは想像を絶する人権侵害の危機にさらされている。
また、空爆による劣化ウラン弾の被害は甚大で、すべての回収には一〇〇年を要するという。
本書は、空爆終了後六年間にわたって現地に通い続けた唯一のジャーナリストが、九・一一やイラク戦争の開始以降ほとんど報道が途絶えてしまったセルビア・モンテネグロの現状を告発した、渾身のルポルタージュである。
第1章 大コソボ主義(二〇〇一年~二〇〇二年)(消えた一三〇〇人―セルビア人拉致被害者たち;真っ先に見た事務局長 ほか)
第2章 混迷の中で(二〇〇二年)(劣化ウランとユーゴスラビアの核;一〇月革命の裏側)
第3章 セルビア・モンテネグロの誕生(2003年)(新憲章発布とモンテネグロ;新憲章発布とコソボ ほか)
終章 語り部(二〇〇四年一〇月)(コソボ紛争終結後、最悪の暴動;スミリャネ―「民族浄化」された村にて ほか)
◆感想
ユーゴサッカー3部作(※)で私の心を鷲掴みにした木村元彦の、非サッカールポ本。
「悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記」10点満点
「誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡」8点/10点満点
「オシムの言葉」7点/10点満点
私は、旧ユーゴに関する本は上記3冊を除くと、千田善(ユーゴ研究家)の「ユーゴ紛争 多民族・モザイク国家の悲劇」(1998年01月09日読了)「ユーゴ紛争はなぜ長期化したのか」と高木徹「戦争広告代理店」、宮嶋茂樹「不肖宮嶋 空爆されたらサヨウナラ」くらいしか読んでいない。
ソ連のゴルバチョフがペレストロイカとグラスノスチを推進したことをきっかけに、ポーランドの「連帯」が政権奪取し、そこから東側諸国の崩壊が始まった。(wikipediaの東欧革命がわかりやすい)
旧ユーゴも崩壊した。
スロベニアが独立(戦争あり)、マケドニアが独立、クロアチア独立(戦争あり)、ボスニア・ヘルツェゴビナ独立(ボスニア・ヘルツェゴビナ内のセルビア人が更に独立を宣言したことで戦争に発展)。コソボ(アルバニア系住民が多数派)も独立を宣言したが、セルビアvsコソボ(+アルバニア)の内戦となり、結果コソボは独立できなかった。
残ったセルビア(この中にコソボ自治州がある)とモンテネグロが新ユーゴとなった。
本書は、セルビアとモンテネグロが分離独立すべきかどうか国民投票を3年後に投票する前提で作られた新ユーゴ(セルビア・モンテネグロ)発足間もない頃に、セルビア、モンテネグロ、コソボ、マケドニアに行き、取材した内容がまとめられている。
国際世論的には一方的被害者のように扱われているコソボ。
しかし、本書によると、コソボはコソボ紛争における戦争犯罪者が、その罪を償うことなくコソボを代表する政治家に転身してしまい、コソボ内に住んでいるセルビア人を虐殺しまくっている。それだけではなく、コソボ+マケドニアの民兵はマケドニアも侵攻し、マケドニアに住むアルバニア系住民をそそのかし、コソボへの併合を進め、マケドニア国内を崩壊させる方向に動いた。
モンテネグロは人口も少なく、産業も少なく、独立したところで国内経済が回るような状況ではなかった。モンテネグロ内にも独立を望まない声が少なからずあった。
ボスニア・ヘルツェゴビナは、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦とスルプスカ共和国(セルビア人共和国)のふたつの構成体からなる連邦国家で、セルビア人国家はボスニア・ヘルツェゴビナ政府から見捨てられている。
などなど、本書には興味深い話が数多く書かれている。
元々スポーツライターである著者が書く旧ユーゴの話は、堅すぎず且つ端折りすぎず、旧ユーゴに関心のある私の知的好奇心をそそる話を実に分かり易く書いている。この難しいテーマを扱うのに、スポーツライターであることがプラスとなっている。
サッカーの取材を通して旧ユーゴ、中でもセルビアが一方的に悪者にされていく状況を見て、そしてストイコビッチ(セルビア人)を長年取材してきた著者のスタンスは、ややセルビア寄りである。
それを差し引いても、本書は素晴らしい。
ユーゴスラビアに興味がある人は必ず読むべき一冊である。
10点/10点満点
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