山田敏弘「モンスター 暗躍する次のアルカイダ」感想。
ルポ。2012年04月24日読了。
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私的10点満点の本。
日本人ルポライターが書いたとは思えないくらい綿密な取材に基づいた、良質なルポ。
2008年、インドのムンバイで起きた同時多発テロ。日本人も一人犠牲になったことで、日本でもそれなりに報道された。
AFPニュースのWebサイトでは、こんな映像がまだ公開されている。
テロは11月26日の夜に始まり、
ムンバイ市内のターミナル駅で、駅舎が世界遺産のチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅。
5ッ星ホテルのオベロイ・トライデント・ホテル。
同じく5ッ星ホテルのタージマハル・ホテル。
ユダヤ教の施設ナリマン・ハウス。
若者や外国人に人気のレストラン、レオポルド・カフェ。
これら混雑する場所で、テロリストは無差別に、そこにいる人間に向けて銃弾を発射し、手榴弾を投げつけ、普通の人々を殺しまくった。
そしてテロリストは人質を取り立て籠もり、事態が完全に収束するのは29日の朝、つまり3日もかかったのである。
(テロの詳細はwikipediaの「ムンバイ同時多発テロ」を参照されたし。但し、この感想文を書いている2012/4/24現在、日本語版wikipediaではテロの犯人は確定していないと書かれている)
本書によると、犯行グループは「ラシュカレ・トイバ」というイスラム過激派組織で、印パ戦争(※)の原因であるカシミール紛争を機に組織された過激派であると書かれている。
すごく大雑把に言うと、カシミールに駐留するインド軍が、カシミール住民(イスラム教徒)を誘拐したり拷問したり強姦したり殺したりしているとんでもない状況で、テロという手段を使ってインド軍に対抗すべく組織されたグループである。らしい。
本書は、ラシュカレ・トイバに属するテロリストが、どうやってムンバイ同時多発テロを実行したのか、見てきたかのような感じで状況を説明しつつ、
テロリストは10人で、2人ずつ小グループを作ってムンバイで同時多発テロを粛々と実行したことや、
ラシュカレ・トイバの背景についての詳細な説明が加えられ、それはつまり今のカシミール地方はインド軍のやりたい放題になってしまっていること、
ラシュカレ・トイバの創設者はオサマ・ビンラディンともつながりがあり、
それを辿ると、旧ソ連軍がアフガニスタンに侵攻した際、アメリカのCIAがアルカイダに資金援助していた話は今では有名だが、ラシュカレ・トイバも同様であること、
ラシュカレ・トイバはアメリカ国籍を持つパキスタン人のエリート層をも取り込んでいて、ムンバイ同時多発テロの事前準備で下見させていたこと、そのパキスタン系アメリカ人はデンマークでも下見を行っていて、コペンハーゲンでテロを行う準備中だったこと、
ラシュカレ・トイバは、現代文明を駆使しており、GPS、衛星携帯電話(インマルサットとかイリジウム)、無料で作れる捨てメアド、GoogleMapで予行演習、そういうことを当たり前のようにやってくること、
などなど、本書の帯に依れば1500日の取材、本書を読めば分かるがパキスタンのかなり危険なエリアあちこちや、インドのカシミール地方(外務省は退避勧告~渡航の延期をお勧めします。を出しいる地域)など様々名場所で取材を行い、本書を仕上げた。
本書は段組がそれほどきつくない250ページほどであり、文字数はそれほど多くない。
しかし、文字数以上に、内容がぎっしりと詰まっている。
素晴らしい! 皆、読め!
10点/10点満点
※カシミール地方はインドとパキスタンがイギリスから独立する際、領主はヒンドゥー教なのでインド帰属を、住民はイスラム教徒が多いのでパキスタン帰属を望んでいたが、インド政府とパキスタン政府の思惑が交差し、単純にどちらかの国に帰属するような問題ではなくなってしまい、今までに実質4回の印パ戦争を引き起こしている。
※カシミールは、インドにはまって何度もインドを旅して、しまいにゃインド人と結婚してしまって、今ではインドエッセイマンガばかり書いているマンガ家「流水りんこ」が、「カシミールって史上最高に美しい」というようなことをマンガに書いていたけど、その流水りんこも、印パ紛争のせいでカシミールには行けなくなって残念がっていた。
※そのカシミール州の州都スリナガル(シュリナガルとも言う)は、デリーをうろついていると、「スリナガルに行きませんかー」とバックパッカー初心者をやたらと勧誘することで有名。
※以下に紹介する動画は、ムンバイ同時多発テロは延べ3日間も続いたテロのため、あちこちの現場で生中継されていました。そのうち、Youtubeでさくっと検索して引っかかったものを以下に紹介。
どれもグロい部分があります。
こんな感じでテロが生中継されていたみたい。(ヒンドゥー語?)
50分の特集番組(再現もの+実際の映像アリ)(英語)
静止画で、(たぶん)時系列に構成されている。一般人が編集した感じ。
こっちの方がビデオとしての完成度が高いかも。
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