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日本史特講の教科書。2012年08月25日読了。 »

2012/08/30

アンドリュー・キンブレル/福岡伸一訳「すばらしい人間部品産業」感想。
啓蒙書。2012年08月24日読了。

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すばらしい人間部品産業


臓器売買に興味があり、関連する書籍をいろいろと読んでいるのです。

ただ、臓器売買そのものをテーマにしたルポ本というのは意外に少なく、紀伊國屋bookWebとamazonの検索で引っかかるものは片っ端から読んでいるけど、その結果が文末に載せている臓器関連の読了リスト程度なのです。

本書「すばらしい人間部品産業」は、紀伊國屋bookWebとamazonで「臓器」で検索すると出てくる書籍で、臓器売買がテーマではないのだが、内容が興味深かったので買ってみた。


◆本書の内容(紀伊國屋bookWebより)
血液、臓器から胎児、遺伝子、はては新種生物やクローン人間までもが効率的に生産され、市場で売買される時代。
その萌芽はすでに半世紀前から始まっていた…人間部品産業のリアルな実態を警告した歴史的名著に、新エピソードを加筆した改訂&決定版。

1 人体と部品のあいだ(血は商品か;臓器移植ビジネス ほか)
2 赤ちゃん製造工場(赤子産業;生命の種 ほか)
3 遺伝子ビジネス(遺伝子をデザインする;他人に差をつける薬 ほか)
4 人間部品産業との闘い(移動機械と神の見えざる手;機械論的な「からだ」 ほか)
「私の問題意識はこの本から始まった」 福岡伸一

★臓器や組織の効率的な売買のために、胎児の生体解剖が行われている?
★凍結されたままの胚(受精卵)に、人権や遺産相続権はあるのか?
★ある調査で、「生まれる子供が肥満体とわかれば中絶したい」と答えた人が11%
★ヒトの遺伝子をもつように改良された「動物」に次々と特許が与えられる
★「背が高くなるように」と、毎日ヒト成長ホルモンを注射する少年
★クローン技術によって生まれた生物には、なぜ「異常体」が多いのか?
福岡ハカセの“原点”が名訳とともに甦る。

人間は「人間部品の商品化」に答えを出せるのだろうか?


◆感想

本書の趣旨としては、人体の一部を売買することは果たしてどこまで許されるのか、ということを哲学的に問うもので、ドナ・ディケンソン「ボディショッピング 血と肉の経済」(2011年08月23日読了。8点)に近い内容である。

大見出しでPart1~4まであるのだが、Part4は哲学であり、少々読みづらく感じる(というか飽きる)部分もあったが、私が知らなかった話も多数掲載されており、参考になる部分が多々あった。

ムーアの脾臓に関する裁判沙汰(ムーアは脾臓切除手術を受けた。医者達はムーアの脾臓に特殊なT細胞が含まれていることを突き止め、製薬化した。ムーアは「俺の脾臓から作った薬なんだから俺にも分け前よこせ」と裁判した)などは「ボディショッピング」でも取り上げており、そのほかにも幾つかネタが被っているな、と感じた。

奥付を見ると「ボディショッピング」の原著が2008年、本書の原著は1995年+1997年増補+2010年頃に更に増補改訂されているみたいで、要するにこの手の本の源流は本書「すばらしい人間部品産業」なのだな、ということが分かった。


とはいえ。
増補改訂があったとはいえ1995年に出た本を、今さら高い金出して読むのは何か悔しい。


愚痴はさておき。


本書のPart1が、私が一番知りたい臓器売買の話である。


売血の話で、ニカラグアの独裁大統領アナスタシオ・ソモサ・デバイレ(これの父アナスタシオ・ソモサ・ガルシアもニカラグアの大統領で、つまりニカラグアはソモサ家に独裁されていたっぽい)は、1973年にキューバからの亡命医者とともに、血液買取センターを開設。買った血液の2/3はアメリカやヨーロッパに輸出していて、血の品質は問わず、ウィルスに汚染されていたってお構いなしで売りまくり、とにかく血を仕入れては売りまくっていた。売血しすぎた献血者が病気になろうと死のうとほったらかし。医者の倫理は欠片もなく、ただ単に売血ビジネスを行っていた。

この実態を新聞記者チャモロ(新聞社社主かも)が告発して、国際赤十字や国際的医学組織がチャモロ支持に回ると、1978年ソモサはチャモロを暗殺。これに怒った市民がソモサを追い詰め、ソモサはチャモロ暗殺の8ヶ月後、最終的にパラグアイに逃げる。

キューバ人医師はアメリカに逃げ、マイアミでまた同じ売血センターを開設しようと画策する。

暗殺された新聞記者チャモロの妻ビオレタは、10年後にニカラグア大統領に選ばれ、1990年~1997年まで大統領を務めた。

ニカラグアと言えばオルテガ将軍しか知らなかったけど、さすがキューバ危機とかで東西冷戦の嵐に巻き込まれた中南米、激動の歴史を送っているのだな。


本書でもっとも衝撃を受けたのは、P55に掲載されている「モンテデオーカ精神衛生研究所」事件である。


アルゼンチン、ブエノスアイレス近くの州立病院「モンテデオーカ精神衛生研究所」では、患者を殺した後、患者の血や角膜、その多臓器を取り出して売っていた。患者の家族には、患者は脱走したとか死んだなどと伝えていたという。同研究所では、1976年~1991年までに何と1400人以上が脱走し、ほぼ同数が死亡したことにしていた。家族からの訴えでこの研究所は捜査され、脱走したとされる何人かの遺体を収容した。中には眼球が摘出された16歳の少年が含まれていた。病院長および11人の関係者が逮捕された。


そんなに昔の話ではなく、20年前まで行われていた事件である。病院が組織だって患者を殺し、臓器を密売するのである。

逆に言えば、それだけ臓器を買う連中が居て、殺人を犯してまで臓器をぶんどろうとすることに罪悪感が無くなってしまうほど魅力的な高収入が得られた、ということだろう。


Part2は赤ちゃん製造工場と見出しがつき、産み分けに関する倫理、そこから発展して人工授精や、代理母に踏み込んでいる。

この章では幾つか踏み込んだ例が出ている。特に親権については考えさせられる。

・正常な妻と、精子に異常がある夫のカップルが、第三者の男性の精子と妻の卵子を人工授精させ、妻に着床させ、妻が出産した場合、精子提供者は父親となり得るか?(遺伝的には精子提供者が父である)

・卵子を作れない病気の妻(ただし子宮は正常)と、正常な夫のカップルが、第三者の女性の卵子と夫の精子を人工授精させ、妻に着床させ、妻が出産した場合、卵子提供者は母親となり得るか?(遺伝的には卵子提供者が母である)

・正常に卵子を作れる妻(但し子宮に病気があり出産できない)と、正常な夫のカップルが、妻の卵子と夫の精子を人工授精させ、代理母を雇って代理母に着床させ、代理母が出産した場合、代理母は母親となり得るか?(代理母が産んだ子に、代理母の遺伝子は入っていない)

・正常な妻と正常な夫のカップルが、自分の遺伝子を引き継いだときに起きる子供の健康、能力を憂慮し、優秀な遺伝子(例えば頭が良い)を持つ第三者の卵子と、優秀な遺伝子を持つ(例えば身長が高くハンサム)第三者の精子を人工授精させ、妻に着床させ、妻が出産した場合、その子供はカップルの子供と言えるのか?(この子供にカップルの遺伝子は一欠片も入っていない)

・胎児の段階で深刻な病気(ダウン症など)だと判明した場合、中絶することは許されるべきなのか否か。つまりこれは、人間は、どの段階から人間たり得るのか、という倫理・哲学になる。

受精したばかりの卵子は人間か?

脳が出来る前の、妊娠3ヶ月くらいの胎児は人間か?

例えば、妊娠20~24週を堺に人間と定義するならば、妊娠24週目に中絶した場合殺人罪に問われることにならないか?

胎児と人間は、どこから人間と線引きすべきなのか?


そのようなことや、その他いろんなことが書かれている。


難しいと言うより、似たような異なる話が多数出てくるので、読んでいて若干飽きる。飽きるのは私の個人的な感想であるが。


訳文もかなり読みやすく、この手の問題に関心がある人は、読んで損のない一冊と言えよう。

ただ、元もと1997年に出た本の増補なので、最新事例は期待しない方が良い。


8点/10点満点


※本エントリー公開後に、誤字脱字ヘンテコ文章の直しなど、ちょこちょこ修正しておりまする。


※ここ数年に読んだ製薬・臓器移植・臓器売買・医療関係の本
・メアリー・ローチ「死体はみんな生きている」死体の使い道ルポ。2012年08月01日読了。7点

・相川厚「日本の臓器移植―現役腎移植医のジハード」臓器移植の現実。2012年05月28日読了。9点

・スコット・カーニー「レッドマーケット 人体部品産業の真実」臓器売買ルポ。2012年04月30日読了。9点

・小松美彦「脳死・臓器移植の本当の話」生命倫理の書。2012年03月29日読了。8点

・広野伊佐美「幼児売買-マフィアに侵略された日本」ルポ。2011年09月10日読了。評価不能(内容が嘘っぽい)

・粟屋剛「人体部品ビジネス」ルポ兼思想書。2011年09月06日読了。8点

・岸本忠三・中嶋彰「現代免疫物語」講談社ブルーバックス。2011年08月29日読了。7点

・ドナ・ディケンソン「ボディショッピング 血と肉の経済」ルポ?哲学?2011年08月23日読了。8点

・岩田健太郎「「患者様」が医療を壊す」エッセイ。2011年07月17日読了。6点

・デレック・ハンフリー「安楽死の方法 ファイナル・エグジット」安楽死指南書。2011年08月06日読了。6点

・一橋文哉「ドナービジネス」ノンフィクション……?2011年02月16日読了。評価不能(内容が嘘っぽい)

・山下鈴夫「激白 臓器売買事件の深層」言い訳本。2011年01月25日読了。3点

・城山英巳「中国臓器市場」ルポ。2011年01月24日読了。6点

・青山淳平「腎臓移植最前線」ノンフィクション。2010年10月17日読了。8点

・木村良一「臓器漂流」ルポ。2010年09月09日読了。4点

・佐藤健太郎「医薬品クライシス」いわゆる新書。2010年04月29日読了。7点

・里見清一「偽善の医療」エッセイ。2009年06月10日読了。8点

・小松秀樹「医療崩壊」医療ドキュメント。2007年06月22日読了。8点

・マーシャ・エンジェル「ビッグ・ファーマ」製薬業界告発ドキュメンタリー。2006年09月04日読了。8点

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