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2013/03/29

酒井啓子「<中東>の考え方」感想。
いわゆる新書。2013年03月20日読了。

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<中東>の考え方

※本エントリーは2013年3月29日にアップしましたが、3月30日に誤字訂正、一部修正をしました。

◆本書p10より
「中東がいかに世界のど真ん中で政治に振り回されてきたか、世界で起きているさまざまなこととつながり連動してきたか--。本書が目指すのは、そこに焦点を当てることである。中東を、欧米の政治のただの「材料」としては見ない。「材料」として振り回されてきた中東を主人公にすることを試みたい。」


著者の酒井啓子氏は、日本で数少ないイラク研究家で、日本人が書いたイスラム関係の本を読むと参考文献に必ず名前が出てくる人といっても過言ではない人(注:比較的最近書かれた本の場合)。2012年から千葉大学の教授らしい。

イラク研究家の著者が、自分のフィールドではない「中東」全域の入門書として書いたのが本書。

あとがきに、イラク研究家で中東全てを研究しているわけではない自分がこのような本を出しても良いのだろうか? と自己葛藤があったみたいだが、第三者視点で結果論的に言わせてもらうなら、本書は大成功である。

ある程度中東に関しての下知識がある人が本書を読むと、様々なことが「ああなるほどそういうことだったのか」と納得いく。(いわゆる真面目な新書(※)を正しく理解するには、読者はそれなりの知識が必要である)

下知識がなくてもそれほど難しい話は出てこないが、A国とB国は仲が悪い(例えばイランとサウジアラビア)、というような現状を知らないと、本書で語られる、コロコロ変わる情勢に戸惑うかも知れない。


以下、私が気になって付箋を付けたところの紹介。

◆p37
「19世紀末、ドイツがバグダード(イラクの首都)鉄道の敷設権を得て、バグダードからクウェートまで進出しようとしていた」
→ドイツがそんなことを計画していたのか。

◆p38
「今ではアラビア半島南東部の一角に四分の三ほどの面積を占めるオマーンだが、かつてはザンジバル(アフリカ大陸タンザニアの島)を拠点に東アフリカ一帯を支配下に入れ、インド洋全体の海洋交易を牛耳っていた海洋帝国だった」
→イスラム教イバード派はオマーンとザンジバル島とアルジェリアの一部にだけ存在する宗派。このような経緯があったからなのですか。

◆p51~52
(1962年頃の話)
北イエメンでは王政が廃止された。新生共和制政権を支持するため、エジプトは軍を派遣した。イエメン内戦介入である。一方サウディアラビアは、旧王政を支持する王党派を支援したため、北イエメンでエジプト・サウディアラビアの代理戦争ともいうべき状況が発生した。
→エジプトは旧イギリス領で、アメリカから支援(援助金)をもらっていて、王政(独裁制)が嫌いな欧米の意向に沿って動く国。サウジアラビアはサウド家が支配する王族の国。
→1800年代中頃、南イエメンはイギリス領、北イエメンはオスマン帝国領になり、両者が合併してイエメンになったのは1990年。

◆p68~69
1979年イランのホメイニ師がイラン革命(イスラム革命)を起こし、イランはイスラム教シーア派の国になった。サウジアラビアを筆頭にイスラム教スンナ派が政権を握っていて人口の少ない国々は、シーア派で人口も多く石油も取れるイランの台頭に困った。(シーア派とスンナ派は基本的に超仲が悪い)

スンナ派に頑張ってもらうため、サウジアラビアやクウェートなどの(人口が少ないけど金持ちの)国々は、300億ドルを超える金を人口が多くスンナ派が実権を握っているイラク(シーア派も多いけどフセインはスンナ派)に渡した。その金でイラクはフランスやソ連から最新兵器を買いまくり、1988年イラン・イラク戦争が終わり、イラクが勝利すると、その後欧米諸国から「ならず者」呼ばわりされた。

イラン・イラク戦争が終わると、クウェートはイラクに金を返せといってきた。

戦争で金がなくなったイラクは、石油を輸出して稼ごうとしたのに、安値攻勢(=価格調整の減産をしなかった)でイラクの邪魔をしたのがクウェートである。そのクウェートが金を返せといってきた。スンナ派主流の人口の少ない国々に代わって、シーア派のイランと戦ったのに、金を返せとは何事だ!

というわけで、イラクはクウェートに侵攻するのだった。

※イラン・イラク戦争は1988年8月に停戦、イラクのクウェート侵攻は1990年8月、それに怒った父ブッシュ・アメリカ率いる国連多国籍軍がイラクを空爆したのが1991年1月(これが湾岸戦争)、さすがにイラクも敵わず2月末に白旗を上げる。

◆p97~98
「イスラエルの発想は単純である。戦争とは国と国との戦いである。戦争を避けるには、交戦相手であるアラブ諸国の、それぞれ一カ国ずつを個別に相手して、戦争しないという「和平協定」を結べばよい」

例えば1967年の第三次中東戦争で、イスラエルはエジプトからシナイ半島を奪った。その後1978年に、エジプトと平和条約を結ぶことで、シナイ半島を返却している。(シリアとケンカしてゴラン高原を奪ったのも、そのうちシリアと「和平交渉」するつもりだったのだろう)

◆p121
アメリカはイスラエルに多額の援助をしている。1970年代以降に顕著になる。
2006年までに軍事援助が658億ドル、経済援助が324億ドルに達している。

◆p138
冷戦時代に、陸路でソ連と国境を接していた国は、フィンランド、ノルウェー、トルコ、イラン、アフガニスタンの5カ国。西側の北欧2カ国はともかくとして、ソ連の防衛線としてトルコとイランは西側諸国にとって重要だった。だからトルコはNATOに加盟した。


などなど、本書は中東がなぜ今のような中東になったのかを、米ソ冷戦時代や第一次世界大戦の頃にまで遡って解説している。

良い本。


時間があれば再読したい。


9点/10点満点

(※一昔前、20~30年くらい前までは、新書は難しいのが当たり前だったのだが、幻冬舎や講談社がエッセイを新書で出版するようになってからおかしくなった。幻冬舎と講談社とアスキーと扶桑社が元兇)

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