デービッド・マタス/デービッド・キルガー/桜田直美訳「中国臓器狩り」感想。
人権原理主義者の主張。2013年12月29日読了。※追記あり
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中国では臓器移植が盛んである。
主な顧客は外国人である。金払いが良いから。
臓器の供給源は死刑囚である。
この話題に関して、中国政府は当初死刑囚の臓器を使っていることを否定していたが、そのうち肯定した。死刑囚かドナー同意書を取っているから問題ない、と主張している。
ちなみに、中国人は臓器提供に文化的な抵抗があるらしく、それが故、臓器提供に関する全国的ネットワークはないそうである。
中国では年間5,000~10,000人くらい死刑囚が処刑されている。つまり、それだけの数の臓器移植が可能だ。
で、最初に戻る。
中国では臓器移植が盛んである。
アメリカに次いで、世界第2位の臓器移植大国である。
チャイナデイリー紙によると、年間2万件(2005年)の臓器移植手術が行われているそうである。
死刑囚の数より多い。
ではその臓器はどこから来るのか。
答え。
法輪功を学んでいる連中を捕まえ、法輪功を辞めない且つ自分の名前を言わない場合、公安や軍関係者が拷問し、裁判所を通さず勝手に処刑する。
処刑に際しては、公安や軍の病院関係者と連絡を取り、臓器移植希望者を(病院経由で)募り、処刑日を決める。
これが臓器狩り。
気功の一種である法輪功は中国で禁止されている。禁止の理由は、法輪功を学ぶ人が増えすぎたため。
法輪功は現在、かなり酷い弾圧を受けている。弾圧の理由は、中国政府が法輪功を禁止したら、中国政府が全く気付かないまま北京に法輪功学習者が1万人以上集まって禁止反対のデモを行ったから。政府に気付かれることなく1万人もデモ人員を動員できるのはカルト集団である、と。
で、法輪功学習者は、公の場で法輪功を披露したり、法輪功の名称を言うだけで逮捕される。
逮捕された後、改宗ならぬ脱法輪功を押しつけられる。断ると、親族、勤務先、自分の住んでいる町の役人にまで罰が及ぶ。
なので捕まった法輪功関係者は自分の名前も住所も言わない。
逮捕した側は、名前や住所を言わせるため、ほぼ拷問する。
拷問を繰り返すうち、法輪功学習者はぐったりする。放っておくと死ぬ。こりゃまずい。
なので隠蔽する。
隠蔽=(法輪功を学んでいただけで西洋的価値観では無実の人間を)殺してしまえ。
隠蔽するためには、金が必要。
金を作るのに、臓器移植は打って付け。
臓器移植の手はずを整えて、死に至る薬を注射する。そして、完全に死ぬ前の、半分生きたまま臓器を取り出す。
この過程はシステマチックになっていて、
「ぐったりした人物を置いておくだけの病院」
「薬を注射するだけの係員」
「(薬で)ほぼ死んだ状態の人間から臓器を摘出する医師(臓器毎に違う医師が担当する)」
「臓器を運ぶ係員」
「どこからか届いた臓器を、病人に移植する医師(と病院)」
など、細分化されている。
というような告発が載っている本である。
噂には聞いていたが、なかなか凄まじい。
しかし、本書はこの実態を中国人医師、看護師、病院関係者などから主に電話で聞き取り調査し、中国政府の杜撰さを告発するに十分な証拠が集まって、著者が臓器狩りを確信したから書かれた本なのだが、著者がどこで臓器狩りを確信するに至ったかよく分からない程度の量の証拠しか示されていない。
この本に書かれている程度の少ない内容では、私が調査する側なら、全然確信するに至らない。
で、この本の終盤14章から16章は、著者がガチガチの人権原理主義者であることを示す内容である。
曰く、
・中国では法輪功学習者の人権が損なわれている(臓器狩りが事実ならその通りだ)
・これは許されることではない
・薄々分かっていながら、生きた人間から臓器を摘出している中国人医師は断罪されるべき
・この事態が改善されるまで、中国以外の国は、中国人医師に渡航ビザを発行するべきではない
・中国で臓器移植を受けた他国の患者も断罪されるべき。こういう患者は、中国以外で治療を受けられない(臓器移植した患者は、一生免疫抑制剤を飲み続けないとならない)ようにするべきだ
等々、法輪功学習者の人権を守るため、(間接的にであっても)法輪功学習者の人権侵害した人間の人権は侵害しても構わない
という論調が続く。
こういうことを書いていながら、「なぜ世間はこの重大な人権侵害に興味を示さないのか」と著者は零している。
簡単なことだよ、「臓器狩り」に関してだけ書いていればいいのに、人権原理主義者の奇妙な主張が混ざっているから、すべてが信用されなくなっているんだよ。
とても残念な本だった。
※2014/01/11追記
著者は、国家による人権侵害・弾圧があった事例として、ナチスのユダヤ人弾圧(ホロコースト)を引き合いに出している。北朝鮮に関する記述もあった(ような覚えがある)。
しかし、イスラエルのパレスチナ弾圧については一言も触れていない。明らかなダブルスタンダード。
また、p310
「しかし、人権侵害と戦ううえでもっとも大きな障害になるのは、事実を知らない人、または興味がない人たちだろう。
興味がない人たちは、冷淡な人と、葛藤している人の二種類に分けられる。冷淡な人はサディストだ。加害者と同じ残酷な人種である」
自分の味方以外は全部敵。
過激な自然保護・環境保護主義者、
過激な反原発主義者、
過激な動物愛護主義者、
過激なイスラム原理主義者、
この著者は上記の輩と同じレベルで、
過激な人権保護主義者である。
なんだかなあ。
4点/10点満点
私が読んだ臓器売買・臓器移植に関する本
・木村良一「臓器漂流」2010年09月09日読了。4点
・青山淳平「腎臓移植最前線」2010年10月17日読了。8点
・城山英巳「中国臓器市場」2011年01月24日読了。6点
・山下鈴夫「激白 臓器売買事件の深層」言い訳本。2011年01月25日読了。3点
・デイビッド・バットストーン「告発・現代の人身売買」2011年07月15日読了。10点満点
・デレック・ハンフリー「安楽死の方法 ファイナル・エグジット」安楽死指南書。2011年08月06日読了。6点
・ドナ・ディケンソン「ボディショッピング 血と肉の経済」2011年08月23日読了。8点
・岸本忠三・中嶋彰「現代免疫物語」2011年08月29日読了。7点
・粟屋剛「人体部品ビジネス」2011年09月06日読了。8点
・小松美彦「脳死・臓器移植の本当の話」2012年03月29日読了。8点
・スコット・カーニー「レッドマーケット 人体部品産業の真実」臓器売買ルポ。2012年04月30日読了。9点
・相川厚「日本の臓器移植―現役腎移植医のジハード」2012年05月28日読了。9点
・メアリー・ローチ「死体はみんな生きている」2012年08月01日読了。7点
・アンドリュー・キンブレル「すばらしい人間部品産業」2012年08月24日読了。8点
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