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2015/02/08

国枝昌樹「報道されない中東の真実 動乱のシリア・アラブ世界の地殻変動」感想。
中東政治解説。2014年12月14日読了。


私的10点満点の本。


著者は1946年生まれ、一橋を出て1970年外務省入省。1978年在エジプト日本大使館一等書記官、在イラク日本大使館参事官、在ヨルダン日本大使館参事官、ジュネーブ軍縮会議日本代表公使、在ベルギー日本大使館公使、在ベトナム・ホーチミン市総領事を経て、2002年在カメルーン(兼チャド兼中央アフリカ)特命全権大使、2006年在シリア特命全権大使、2010年に退官した方。

30年以上、日本の中東外交に携わってきた方である。

チュニジアのジャスミン革命(2010-2011年)でベンアリ政権を倒したことから始まったアラブの春(2010-2012-現在)は、すぐにエジプトに飛び火しムバラクを失墜させ、しかし(日本ではあまり報道されていないが)バーレーンではデモを行った市民に対し国軍が発砲し政府側が勝ち、リビアではカダフィ大佐が自国民に対し空爆を行いそれはあまりに酷いとNATOがリビアの制空権を奪ってカダフィ大佐は殺され、シリアでも同様にアサド大統領が自国民に空爆をしたが世界は無反応、イエメンでもサレハ大統領が退陣に追い込まれた。


リビアはカダフィ大佐が自国民を空爆し、NATOが介入した。

シリアはアサド大統領が自国民を空爆したが、どの国も介入に及び腰(ロシアがアサド大統領を支援)。

※リビアは石油埋蔵量世界第9位

その結果、シリアではいまだに続く長い長い内戦に陥っている。

本書は、シリア政府側の悪行に関しては欧米諸国のマスメディアが色々と伝えているので、それについての詳述は割愛し、

シリア政府側の言い分を聞いてみよう。そして、今シリアで何が起きているのか紹介しよう。

という本。


在シリア日本国大使館特命全権大使だった著者は、ジャーナリストでは接触することすらできないようなシリア政府高官とのコネクションもあり、内容の信頼度は高い。著者の来歴から、シリア政府側に共感している部分があると思われるが、それはさておき、本書は面白い。知らなかったことが山ほど出てくる。

シリアでは政権政党バアス党(アサド大統領)とムスリム同胞団が、長年にわたって抗争を繰り広げていた。1982年、先代アサド大統領(現大統領の父)が、ハマー市で武装蜂起したムスリム同胞団を殲滅した(ハマー虐殺)。

2011年2月、現アサド大統領は、米国の圧力もありインターネットを解禁した(私が2010年にシリアに行ったとき、ネットカフェに入るにはパスポートが必要で、基本全て検閲されていた)。

解禁したと同時に、ハマー虐殺を逃れスウェーデンに移住したシリア人が、現アサド大統領に対する蜂起を呼びかけるサイトを立ち上げ、シリア中からアクセスされた。

3月に入り、ヨルダン国境近くの町ダアラでもデモがが発生。軽い気持ちで参加した中学生13人が壁に落書きしたところ、治安当局が連れ去り、行方が分からなくなってしまった。18日、中学生の安否を心配する市民数千人が治安当局などに対しデモを行い、この最中4人の市民が死亡した。この死亡事件はシリア中に報道され、首都ダマスカスと第二の都市アレッポを除く全ての町で、政権交代を要求するデモが巻き起こった。

ここから、シリアは一気に血で血を争う内戦に陥っていく。

市民4人に葬儀には大統領名代が弔問吏が派遣され、中学生はその後解放された。

23日、政府系報道機関は、治安部隊と医療部隊が武装グループに襲われ死者が出た斗発表したが、国際社会は一切見向きもしなかった。

そして、この頃の欧米諸国の報道機関は、「アラブの春」に呼応して、遂にシリアでも民衆が立ち上がった」、的な内容の報道に終始した。

シリア政府側のウムラン・ズアビ情報大臣によると、「民衆が子どもたちの解放を求めてデモに出たのは表向きの口実で、彼ら(デモ隊)の背後にはカタールに在住するムスリム同胞団の導師からダアラ市内の導師に、デモ煽動の資金提供を申し出るような電話があった」

※カタールはスンナ派の分派、ワッハーブ派(イスラム教を忠実に守ろうとする原理主義)。
※アサド大統領率いるバアス党はシーア派の分派、アラウィー派(シーア派の中でも異端)。
※アラウィー派に似た言葉で、サラフィーというのがあるが、これはサラフィー主義(スンナ派の中でも厳格なイスラム)のことで、ワッハーブ派はここから生まれた。
※さらに似たような言葉で、スーフィー(スーフィズム)というのもある。


というような感じで、国際社会がほとんど取り上げない情報が数多く載っており、とても面白い。


現アサド大統領は元もと眼科医で、イギリスに留学していた。父アサド大統領のような強権独裁的なやり方を続けていては国際社会に相手にされなくなるとの危機感から、徐々にではあったが欧米諸国が好むような国づくりを目指そうとしていた。

しかし、「アラブの春」は待ったなしで襲ってきた。現アサド政権側(シリアでも少数派のアラウィー派)にとっての落としどころがないまま、アサド政権およびアラウィー派で政府の要職に就いている者を全て追い落とす反政府勢力の勢いと、それを後押しするスンナ派の資金源。


というようなことが書かれているので、現在のシリア情勢を知りたい人は一読をお勧めする。


10点/10点満点

ちなみに、在○○国日本国大使館で国家公務員がどんな働きをしているかをさっくり軽く知りたい場合は、北ベトナムと南ベトナムが戦争してサイゴン陥落が起きたときに在ラオス日本大使館参事官の娘としてラオスで暮らしていたマンガ家、西山優里子の「ジャポニカの歩き方」を読むといいです。

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