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2015/08/09

リチャード・マーティン/野島佳子訳「トリウム原子炉の道」感想。
科学。2015年07月14日読了。


よく行く本屋というのは、私の場合だいたい決まっていて、本書はその本屋で見つけた。

(余談:最近あまり行かなくなった本屋=駅から自宅に向かう反対側にある=が新星堂なんだけど、前回行った時までは3階4階の2フロアあったのに、久しぶりに行ったら3階のみに売り場縮小されていた。リアル本屋は本当に厳しい時代になってきていると実感した)

タイトルの感じから、かなり昔に出た本なのかな?と手に取ってみると、2012年に原著が出版されていた。つまり本書は、2011年3月11日の東日本大震災とそれに続く福島原発の事故後に出版された本である。


本書は、ウランの3倍以上の埋蔵量があるトリウムを使った原子炉がなぜ世界で普及していないのか、そもそもトリウム原子炉とはどういうものなのか、を400ページ近くにわたって解説した本である。


著者はたまたまトリウム原子炉について知ったサイエンスライター。2009年に「ワイアード」誌上でトリウム原子炉についての記事を書いたところ、好評だったので追加取材をすることになった。取材を勧めていくうち、1960年代のアメリカはトリウム原子炉の先駆者だったのに、なぜその技術を捨て去らなければならなかったのか、実際調べれば調べるほどトリウム原子炉は現在のウラン原子炉よりも優れているのに、なぜアメリカはこの技術を捨ててしまったのか。トリウム原子炉には、ウラン原子炉の欠点を補って余りある、とても魅力的な技術である。


トリウム原子炉に関する歴史と現状を、サイエンスライターが丹念な取材に基づいて書いた本が本書。


トリウムは自然界ではトリウム232しか存在しない。放射性物質であるが、半減期が140億年とほぼ安定した物質である。トリウムはウランと違って、そこら中で採れる。特にインドで多く採れる。

トリウム原子炉は、トリウム232が中性子を一個捉えるとウラン233になり、ウラン233が連鎖反応を起こし発電する。更に、ウラン233が核分裂してできる生成物は(高温のため)ガス状なので発電中に不純物を分離できる。

トリウム原子炉は燃料棒というものが無く、万が一暴走した場合は崩壊熱によって炉内下部が溶解し、燃料であるトリウムが重力で落下し、

トリウム原子炉は一般的に溶融塩原子炉と言われている(トリウム以外の物質でも発電可能)。その現状はwikipediaを参照されたし。


本書で指摘されていることは、現在のウランによる原子力発電が儲かりすぎるため、世界中のウラン閥がトリウム原子炉の普及を阻止している、的な内容になっている。陰謀論的な話ではなく、数々の論拠を挙げている。


後半は、木乃伊取りが木乃伊になったかのごとく、トリウム原子炉を推進しないアメリカ政府への批判とトリウム原子炉の素晴らしさを、同じことを何度も繰り返すだけになっているのが残念。


前半部はたいへん面白かった。


なお現在は、インドが国策としてトリウム原子炉に(唯一)取り組んでいる。


6点/10点満点

現在、世界中で主流の原子力発電所はウラン235を使っている。

天然ウランには3種類の同位体がありウラン238 (99.28%)、ウラン235 (0.71%)、ウラン234 (0.0054%)である。
ウラン238は半減期が44億年である(=ほとんど放射線が出ない)。
ウラン鉱から採掘された天然ウランを化学処理し、イエローケーキという状態にする。
その後、イエローケーキを化学処理し六フッ化ウランにする(転換)。
この状態のウランから、原子力発電が可能になるようにウラン235の濃度を3-5%に濃縮する(低濃縮。原爆に使う場合50%以上に濃縮しないとならない)。
濃縮した六フッ化ウランを加工し、燃料棒や燃料ペレットに成形する。

原子力発電で使用されたウラン燃料(ウラン235が低濃縮されたもの)は、最初は3-5%だったウラン235が1-0.8%に減り、核分裂生成物が約1%、プルトニウム239が約1%になる。これが使用済み核燃料。ウラン235が残っているけど、放射線が大量に発生するので、ウラン235だけを取り出すことは難しい。


また、採掘可能なウランの量には限りがあり、しかしウランを使った原子力発電所が(CO2を減らすという目的のため)世界中でどんどん建設されているため、近い将来ウラン不足になることが懸念されている。

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