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サスペンス小説。2015年08月04日読了。 »

2015/08/23

マリン・カツサ/渡辺惣樹訳「コールダー・ウォー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争」感想。
2015年08月01日読了。


◆端的に言うと

アメリカとサウジアラビアは1970年代のオイルショックを機に、石油の取引はドルのみで行う、という密約を交わした。そしてそれはOPEC加盟国にも適用された。

この密約は世界中に適用され、石油の取引は産油国がどこであれ、輸入国がどこであれ、すべてドル払い。

今もこの密約は有効で、石油の取引価格はドルでしか発表されない。

ユーロで取引されているんじゃないの?と思うかも知れないが、ヨーロッパの産油国は北海油田を持つイギリスとノルウェーで、両国ともユーロではない。

輸入国は、輸出国が望む通貨で支払わなければならない。


サウジなど産油国は、石油の代金をドルで受け取る。そのドルを使って、アメリカを筆頭に諸外国から物を買い輸入する。それでも余ったドルは、アメリカの国債などを買う。


アメリカは、石油を買うのに何の苦労も要らない。ドルを刷ればいい。


◆内容紹介(Amazonより引用)
東西冷戦をしのぐ米露の熾烈な戦いが始まっている。プーチンは今、膨大なエネルギー資源を武器に強力な資源外交を展開している。狙いは資源取引のドルベース・ルール(ペトロダラーシステム)に変更を迫り、アメリカ覇権を転覆させることだ。その長期戦略はもはや経済制裁や原油安では阻止できない。米国有数のファンドマネージャーが資源開発現場で得た最新情報をもとに、ドル崩壊の危機を予測した全米ベストセラー!
(引用終わり)

◆帯より引用
プーチンが仕掛ける新冷戦(コールダー・ウォー)がアメリカの覇権を終焉させる!?
ペトロダラーを標的とするプーチンの驚くべき戦略が米国支配の世界システムを崩壊させつつあると指摘!
全米ベストセラー!
(帯引用終わり)

◆表紙折り返しより引用
東西冷戦をはるかに超えら熾烈な戦いが始まった。
ロシア・プーチンは膨大なエネルギー資源を武器に、
アメリカ覇権の核心たるペトロダラーシステム(ドルベースの資源取引)を打ち砕き、
大ロシア帝国を再興するべく世界各地で着々と歩を進めている。
ヨーロッパ各国は半ばプーチンの軍門に下り、オバマのアメリカは敗色濃厚だ。
この劣勢は挽回できるのか。
日本は一蓮托生、アメリカとともに沈むのか。
資源開発現場で得た最新情報をもとに、
世界激震の背後にあるプーチンのしたたかな資源戦略を洞察、
目前に迫るドル崩壊の危機を予測して全米ベストセラーとなった戦慄の書!
(表紙折り返し引用終わり)


◆著者紹介(本書裏より引用)
マリン・カツサ
ケイシー・リサーチセンター・エネルギー部門主任研究員。
エネルギー産業に特化した投資ファンドマネージャーとして大きな成功を収める。世界各地の資源開発現場に飛び、第一線の最新情報を持つ。「ケーシー・エネルギー・リポート」を執筆、多くの講演をこなす。「フォーブス」、ブルームバーグ、CNBCなどへ寄稿多数。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)卒。
(引用終わり)


◆感想の前に

ロシアの大統領プーチン。

日本のマスメディアを含め、いわゆる西側メディアはプーチンを粗暴な独裁者として捉えており、その行動は軍国主義であり、狙いは現代的植民地の拡大である。的な論調が多い。

ウクライナ危機(2014年クリミア危機)でロシアが介入し、クリミアをロシアに編入したのはプーチンの独裁者っぷりが如実に現れている、的な論調が多かった。

ウクライナは、ロシアにすり寄ったかと思えば、EUにすり寄ったり、その行ったり来たりでEUとロシアから借金を重ねてきたり踏み倒してきたような国である。

2014年のクリミア危機では、ウクライナの極右(ウクライナ愛国主義・ネオナチ系)が暴動を扇動していたのだが、その辺りは西側マスコミは無視。EUに加盟したいと思っている国は良い国で、独裁者プーチン率いるロシアになびくのは悪い国。

結果としてプーチンはクリミア自治共和国をロシアに編入し、ウクライナ自体には直接介入しなかった。ウクライナは暫定政府をつくり、ネオナチ系極右の右派セクターが閣僚入りした。(日本で比喩すると、武装ゲリラ中核派の支援で政治に興味のない馬鹿な日本人の票を獲得して国会議員になった山本太郎が大臣になる、的な事態)

私の知る限り、ウクライナはロシア以上に汚職、腐敗、犯罪が蔓延っていてろくでもない国。


◆本書の感想

本書は、プーチンは西側政権や西側メディアが思っているほど単純な独裁者ではなく、かなり深い考えの基に行動している慎重な政治家である、ということを、西側であるアメリカの資源シンクタンクの主任研究員が最新情報を元に書き記した本。


私は以前より(下記プーチン関連読書履歴を見て下さい)、プーチンは西側マスコミが思っているより賢い大統領なのではないかと思っていた。

何と言っても、ソ連解体のどさくさに紛れてあくどいことをやって大金持ちになったオリガルヒたちを、脱税だ何だかんだでとにかく捕まえたことが大きいと思っている。

※ソ連崩壊→各国独立→ロシアは急に資本主義経済になる→国営企業を民営化しその株を民衆にばらまく→民衆は資本主義経済の意味が分かっていなかった→資本主義に関する知識を持っている一部の人間が国営企業の株を民衆から買い占める→暴力的な手段を含めて買い占める→時価総額1兆円を超えるような国営企業が、数億円で手に入る→元国営企業を私物化→モスクワ証券取引所ができる→上場する→あっという間に数千億円(元は兆円単位なので実際は元の価値より減っている)→大金持ち誕生→こういう経緯で数千億円を手にしたのが数百人とも言われている。これがオリガルヒ。


プーチンはオリガルヒを(強引な手段ではあるが)合法的に捕まえ、ソ連崩壊時に民営企業になってしまった多数の資源会社を、ロシア国内で合法的に取り戻した。


私がロシアに興味を持ったのは、チェチェンに於ける苛烈な弾圧のルポを目にしてからである。上述したプーチン関連書籍でも、チェチェンでいかにロシア軍が非道を働いてきたのかを告発するルポを中心に読み出している。

チェチェン紛争は、どのルポを読んでも酷い戦場だったと記されている。民間人が多数犠牲になり、チェチェン兵士には容赦ない弾圧を加え、ロシア軍兵士も多数犠牲になった。その陣頭指揮を執ったのがプーチンである。


(p15)
「チェチェン人はソビエト時代からロシアの犯罪組織を牛耳っていた。彼らはチェチェン・マフィアと呼ばれていた。彼らがロシア国内での国情を不安定にする要因でもあった。チェチェン・マフィアはロシア軍の誰が賄賂に応じるかを知っていた。チェチェンが必要な武器は、ドル紙幣で現金を用意するか、チューリッヒの銀行口座に代金を振り込めば簡単に手に入った」


そもそもチェチェンは、帝政ロシア時代からロシア人に虐げられてきた。そういう歴史があってのチェチェン紛争(ソ連崩壊のどさくさに紛れて独立しようとしたが、独立要件が満たなかったのでロシアが独立を却下したことで発生した紛争)だが、チェチェン人の全員が素晴らしい人格を持っているわけではなく、プーチンが断固たる決意をもってチェチェン紛争を終わらせなければ、もっと戦禍が拡大していた可能性もある。このあたりは結果論なので、民間人に多数の死者が出たことをもってプーチンを悪と決めつける西側諸国・西側マスコミと、乱暴者のチェチェン人を封じ込めた立役者としてプーチンを賞賛するロシア人と、要するに評価は東西で二分されている。


(p75-76)
第二次世界大戦が連合国側勝利で終わることがほぼ決まってきた1944年7月、連合国側44カ国の代表がニューハンプシャー州ブレトンウッズに集まり、連合国通貨金融会議(通称ブレトンウッズ会議)を開いた。

参加各国は、自国通貨をドルとリンクさせること。

アメリカはドルの価値を担保するため、ドルと金(Gold)の兌換を保証した。

ドルと金の兌換の約束は27年間守られたが、1971年8月、ニクソン大統領はドルと金の兌換を止めた。

などという話を中心に、ロシアは、というよりプーチンは、石油取引に於けるアメリカドルの絶対的立場を崩すために、EU諸国を中心に様々な取引を試みている。


ウクライナがEUにもロシアにも強気でいられるのは、ロシアから産出される天然ガスパイプラインがウクライナを経由しているからで、ウクライナがロシアにガス代金を払わなくても、ロシアはEU諸国にガスを供給しなければならない義務を負っているので、やむなくウクライナ経由でガスを送り続けている。

しかし、ロシアはウクライナを回避するパイプラインを何本も建設している。(1ルートで1兆円単位の金がかかる)

バルト海を経由してドイツ・ポーランドに送るノルド・ストリーム

黒海を経由してブルガリアに送るサウス・ストリーム(ただしこちらはトルコが計画していたパイプラインと計画統合の模様)


腐敗が蔓延する面倒な国ウクライナを経由せずにロシアからEUにガスを送れるとなれば、ロシアとEUの関係はかなり良好になる。

ロシアは今は普通の資本主義社会であり(腐敗はある)、有り余る豊富な天然資源を売り外貨を稼ぎたい。支払はドルじゃなくても構わない。


本書はとても面白かった。


9点/10点満点

私はプーチンが出てくる書籍をけっこう読んでいる。以下、読んだ順(上が古い、下が最近)。

林克明「プーチン政権の闇」2007年11月13日読了。4点
林克明「岩波フォトドキュメンタリー チェチェン 屈せざる人々」2007年02月ころ読了。9点
横村出「チェチェンの呪縛」2007年11月21日読了。9点
大前研一「ロシア・ショック」2008年11月17日読了。7点
福田ますみ「暗殺国家ロシア」2011年07月12日読了。9点
リトヴィネンコ/フェリシチンスキー「ロシア 闇の戦争」2011年11月11日読了。4点
東郷和彦「北方領土交渉秘録―失われた五度の機会」2012年08月13日読了。7点
輪島実樹「カスピ海エネルギー資源をめぐる攻防」2012年09月16日読了。6点
廣瀬陽子「ロシア 苦悩する大国、多極化する世界」2013年03月17日読了。5点
アンナ・ポリトコフスカヤ「プーチニズム」2013年06月12日読了。8点
佐藤優「国家の罠」2013年07月09日読了。8点
廣瀬陽子「強権と不安の超大国・ロシア」2013年11月26日読了。6点
エレーヌ・ブラン「KGB帝国」2014年07月21日読了。6点
下斗米伸夫「プーチンはアジアをめざす」2015年01月16日読了。7点

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