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2017/01/29

ジリアン・テット/平尾光司監修/土方奈美訳「愚者の黄金」感想。
ルポ。2017年01月02日読了。

2017年最初の一冊(読み始めたのは年末からだけど)は、日本ではリーマンショック(2008年)と呼ばれている、アメリカのサブプライム住宅ローンの崩壊(2007年)に端を発した世界金融危機についての、ものすごく丹念に取材したルポ。

本書は、1994年6月にJ・P・モルガンの世界中の若い社員がフロリダに集まったところから始まる。彼らはスワップ部門に属していた。デリバティブの一部門である若い彼らには、これからの金融界を担う新しい商品の開発を任された。

そこで生まれたのがクレジット・デフォルト・スワップCDS。すさまじく単純化していうと、

銀行が融資を行うのに際し、貸し倒れリスクが高い場合、普通は利息を高くして貸し出す。しかし相手が長年取引している名門企業で、高い利息に不満を言ってきた場合、銀行は悩む。

そこでCDS。これは名門企業が倒産するリスクを数値化し、倒産しない限りずっと配当がもらえます、でも倒産したらパーになる。という証券。J・P・モルガンがCDSを作ったばかりの頃は、CDSは一般に流通させるものではなく、保険会社や資金がある大手企業に直接売り込んで(相対あいたい取引)、引き受けてもらっていた。

名門企業が銀行への借金を完済させたらCDSはそこで終わり。元本は引き受け先の会社に戻ってくる。

通常銀行は自己資本規制(貸出残高の8%(国によって違う?)はキャッシュを持っていなければならない)により、常に数百億円から数兆円のキャッシュを持っていた。これを貸し出せないのはもったいない。そこで銀行が倒産することをCDSにして売ったらどうなる? ということをFRS(連邦準備制度)とのバトルを経て、FRSが折れて、自己資本規制を下回ってもCDSで保障されてりゃ余ったキャッシュを貸しても良い。

ということになり、全世界中の銀行が狂喜乱舞。

でもCDSを作り出したJ・P・モルガンは中途採用をほとんど行わない保守的な銀行だったため、世界の動きがイマイチわからなかった。(J・P・モルガンはチェース・マンハッタンに買収されJPモルガン・チェースになった。その経緯なども詳しく書かれている)

世界中のメガバンクが独自のCDSを大量に作り、証券化し、一般人手を出せるようになり、挙句の果てにはJ・P・モルガンが「これはやったらアカン」と判断していたプライム住宅ローン(※)でもCDSが設定され、

※プライム住宅ローン:サラリーマンのように定期収入がある人向けの住宅ローン。
 サブプライム住宅ローン:住宅ローンの審査に落ちた人向けに、高利息で貸し出す住宅ローン。通常は変動金利を用いていて、ローン借り入れ後5年くらいは低金利、6年目から金利が倍増となる。

これはまずいんじゃないの?とJ・P・モルガンのチームが懸念していたら、サブプライム住宅ローン危機が発生し、世界金融危機につながった。

というお話。

ルポなので実在する多くの銀行員に取材し(J・P・モルガンが多いけど、いろんな銀行員の話が載っている)、金融工学と呼ばれる難しい学問を何とか平易な言葉で表している。

これは素晴らしい名著だ。ルポとしての真実味、金融工学を平易な言葉で伝える力(日本語翻訳も非常に良い)、そしてルポでありながら登場人物に魅力を与える著者の文章力。

この本を一冊読むだけで、大学の経済学学部の単位がもらえそうなくらいの圧倒的な内容である。

素晴らしい。

べた褒めなのに10点満点じゃないのはなぜ?

それはやっぱり難しいから。平易な言葉で書かれていても、金融工学が難しいのは変わらない。この本を読んでいる途中で何度wikipediaを開いたことか。

そして今、知ったような気になってこの感想文を書いているけど、読んでから既に1か月経っていて、この感想文に書いたことが間違っていないかビクビクである。(「理解した」と「たぶん理解した」にはすごい隔たりがあるんだよね)


9点/10点満点

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