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2018/07/17

工藤律子「マラス 暴力に支配される少年たち」感想。
ホンジュラスルポ。2018年05月01日読了。

◆Amazonより引用
殺人事件発生率世界一の中米ホンジュラスには、凶悪な若者ギャング団「マラス」がはびこる。
マラスの一員になる条件は、誰か人を殺すこと。そして、組織から抜けるときは、死を覚悟しなければならない。
なぜ少年たちは、死と隣り合わせの「悪」の道に進むのか。
元マラスや現役マラス、軍警察、そして若者ギャングの人生を変えようと奮闘する人々を取材し、暴力と貧困のなかに生きる少年たちの驚くべき現実が明らかになる。
殺人命令から逃れるためにメキシコへの決死の逃避行を果たした少年。マラスから抜けてギャング以外の道を若者に訴えるラッパー。そして、刑務所で囚人たちに救いの道を語りかける元ギャング・リーダーの牧師補佐。
今まで語られることのなかったマラスの姿を追った、衝撃のルポルタージュ!

第14回開高健ノンフィクション賞受賞作。
◆引用終わり


ホンジュラスは中米です。

著者(1963年生)はメキシコシティのストリートチルドレンを、大学院在学中の1990年から取材(&NGOを通じて自立生活の支援)しているとのこと。その著者をもってしても、ホンジュラスのマラスというギャング団の実態が見えない。

そこで著者は直接ホンジュラスに行き、取材を開始。

ホンジュラスは治安が悪い。人口10万人当たりの殺人事件発生件数が世界一である(本書によると2010年から5年連続1位)。特にサン・ペドロ・スーラという都市は、150万人の人口なのに年間1000件以上の殺人事件が発生している。1日3人殺されている。麻薬戦争が起きているメキシコより物騒な国である。

その原因は、マラスと呼ばれる若者ギャング団(いくつかの派閥がある)同士の抗争と、彼らが起こす犯罪と、彼らを取り締まる警察の弾圧による。

マラスは、2004-2005年ころまではそれほど凶悪ではなかった。貧困などで社会から落ちこぼれてしまった少年たちが徒党を組んでいただけだった。ホンジュラス政府(2002-2006年のリカルド・マドゥーロ政権)は、そういう若者を更生させるのではなく、暴力的に壊滅する道を選んでしまった。マラスに所属しているだけで、警察から暴力的に弾圧され、逮捕され、最高30年の懲役刑が課されるようになった。マラスは暴力で対抗せざるを得なかった。
(p39)

いったんマラスに入ってしまうと抜けられない。抜けると殺される。
従って、抜けるためには他国(メキシコやアメリカ)に逃亡するしかない。
もしくは(ここにホンジュラスという国の国民性が現れているのだが)キリスト教を振興する道に入る場合のみ、無傷で抜けられる。

”非情なギャングも、やはりどこかで「せめて神にだけは赦されたい」と願っているのだろうか。(p137)”


とても濃密で良質なルポでした。


9点/10点満点

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2018/07/11

朝日新聞ICIJ取材班「ルポ タックスヘイブン」感想。
ルポ。2018年04月26日読了。

パナマ文書に続いてリークされた、パラダイス文書を精査した朝日記者の記録。

少なくとも、この記事を担当した朝日新聞の記者は、経済に関して相当無知である。

タックスヘイブン=脱税という前提で調査していたら、パラダイス文書でリークされた私文書に「ほぼ犯罪性がない」という事実に突き当たり、茫然自失している間抜け面をさらけ出しただけの本である。


5点/10点満点

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工藤律子「マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々」感想。
ルポ。2018年04月22日読了。

メキシコ麻薬戦争

いったい、いつからメキシコはこんなに危険な国になってしまったのか。

1970年代、80年代はコロンビアが麻薬の供給減だった。1990年代に入り、アメリカの麻薬取締局(DEA)が、人員と予算を大幅に増やし、コロンビアの麻薬カルテルをぶっ潰した。

しかし(アメリカ国内の)麻薬の需要は減らない。

メキシコは、アメリカ・カナダ・メキシコの3か国間自由貿易協定(NAFTA)でアメリカへの輸入が簡単である。
そこでメキシコ人が、コロンビア人の麻薬利権を全部分捕ることにした。
気が付いた時には、アメリカに流入する麻薬の流入元は全部メキシコになっていた。
麻薬カルテル同士の抗争などでメキシコの治安が悪くなっていった。
そこでメキシコの大統領が、警察だけではなく、軍を投入して麻薬カルテルの撲滅を宣言した。

麻薬カルテルVSメキシコ軍。これがメキシコ麻薬戦争である。

しかしメキシコ麻薬戦争が一向に終息しないのは、麻薬カルテルのうち最凶最悪なロス・セタスはメキシコ陸軍特殊部隊の退役軍人が組織した武闘軍団で、並みのメキシコ軍では歯が立たない。軍人だって殺されたくないから、敵前逃亡するし、敵に捕まったら麻薬カルテル側に簡単に寝返る。


というようなメキシコで、麻薬カルテルが蔓延っている地域を中心に、麻薬カルテルと戦っている市井の人々を追ったルポが本書。


この行動力には感嘆するしかない。以下、わらわらと気になった部分を抜き出す。


アメリカのエル・パソと、隣町のメキシコのシウダーフアレスの間には、両国間にまたがって家族が住んでいる場合があり、そういう人たち向けに10年間で160ドルの往来自由ビザがある。但し、もともとこのビザは両国で所得がきちんとあり、悪さをしない人向けだったが、そこに目を付けた麻薬カルテルは、このビザを持つ良家のお坊ちゃんを麻薬の運び屋として利用した。

→ドン・ウィンズロウのメキシコ麻薬戦争を扱った小説「犬の力」で、なぜ金持ちのお坊ちゃんが出てくるのか、その理由が分かった。


カルデロン・メキシコ大統領が麻薬戦争を始め、実際の話としてこの作戦はそこそこ効果はあり、麻薬カルテルは資金繰りに行き詰まるようになった。その結果、麻薬カルテルは麻薬商売だけでは売り上げを確保できなくなり、それが故に外国人を誘拐したり、メキシコの一般人に対してみかじめ料を求めるようになり、メキシコの普通の街の治安がどんどんどんどん悪くなっていった。


1968年10月2日はメキシコにとって重要な日である。学生の大量虐殺が起きた日である。


メキシコ麻薬戦争における現在の最大の問題点は、麻薬カルテルの一員と断定され、警察や軍に殺された人物の子供が、何のケアもなく放置されていることである、と著者はいう。

こういうケースで殺されるのは末端の構成員であり、
もしくは麻薬とは無関係の人物が殺されるケースも多々あり、
基本的には貧困家庭である。

貧困家庭の課長(父親)が、軍に目を付けられ、麻薬とのかかわりを疑われ、結果殺される。

母親が残っていればまだましだが、両親とも(軍に)残された子供は、生き延びるために麻薬カルテルの使いっぱにならざるを得ない。

メキシコ軍は誰のために麻薬戦争をしているのか。

メキシコ市民のためではなく、アメリカからの支援金目当てなのではないか。そしてその支援金は政治家の懐に入るのかもしれない。


素晴らしい本です。


9点/10点満点

ロス・セタスの悪行は、ググれば簡単に画像が見つけられる。

メキシコの新聞は平気でグロ画像を載せるので、スペイン語で検索したらめっちゃグロイよ。

検索は個人の責任で。

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2018/07/02

杵島正洋・松本直記・左巻健男「新しい高校地学の教科書」感想。
地学。2018年03月15日読了。

本書は2006年に出版された。私は法政大学の地理学科(通信)に入学した2010年に購入。以後、必要な箇所だけつまみ読み(特に気象)。

改めて今回きちんと読んでみて、高校地学というのは結構幅広い分野を扱っていると感心させられた。

・地磁気、重力、マントル
・岩石、鉱物
・地震、火山、プレートテクトニクス
・地表の景観を決める堆積物、そこから読み取れる過去
・生物の進化を化石で見る
・大気と気象
・海、海流、
・太陽系、惑星
・恒星、銀河

の9章構成である。

本書は、佐野貴司「海に沈んだ大陸の謎」2018年02月14日読了。の前に読むべきだった。

悔やんでも後の祭り。

以下、面白かったところ抜粋

月食は必ず満月の時に起きる。

・人類が掘った一番深い穴は、ロシアのコラ半島で20年以上かけて掘られた穴で、12km

・高気圧の場所には下降気流が発生し、断熱圧縮で気温が上がり乾燥する

・太陽の起潮力(海洋を引っ張る力)は、月の起潮力の半分。潮に関しては月の影響の方が2倍大きい

・太陽夜数十倍思い恒星の中心部は、核融合の繰り返しにより鉄になる。鉄は極めて安定した物質なので、それ以上核融合しない。中心温度が40億Kを超えると、鉄は分解し、恒星は爆縮する。これを重力崩壊と呼び、その後には原子核同士が密になり、電子は原子核にめり込むため中性子の塊になり、中性子性ができあがる

などなど

良い本であった。


8点/10点満点

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