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警察小説。2018年05月18日読了。 »

2018/09/15

ヨアン・グリロ/山本昭代訳「メキシコ麻薬戦争」感想。
ルポ。2018年05月10日読了。

◆内容(Amazonから引用)
メキシコとアメリカの歴史的な関係を背景に、近年のグローバル化と新自由主義の進展のひずみの中で急拡大した「メキシコ麻薬戦争」の内実を、綿密な調査に基づき明らかにするルポルタージュ。米墨国境地帯で麻薬取引と暴力に依存して生きる「ナルコ(麻薬密輸人)」たちに密着し、犯罪者たちの生活や文化、彼らを取り巻く凄惨な暴力の実態を明らかにすると同時に、世界各地で注目されている「麻薬合法化」の議論など、問題解決に向けた方向性も指ししめす。

◆著者(Amazonから引用)
2001年より、『タイム』誌、CNN、AP通信、PBS News Hour、『ヒューストン・クロニクル』紙、CBC、『サンディ・
テレグラフ』紙など国際メディアに、ラテンアメリカに関する報道を行ってきた。
軍事作戦、マフィアによる殺人、コカイン押収などについて報道し、麻薬戦争について2人のメキシコ大統領、3人の司法長官、アメリカ合衆国大使らと議論した。
イギリス出身、メキシコシティ在住。本書は彼の最初の著書である。
本書は、オーウェル賞にノミネートされ、ロサンゼルスタイムズ・ブックフェスティバルで最終選考に残り、BBCラジオ4の「今週の本」に選ばれた。

◆感想
・第1章より。

著者はバックパッカーとしてラテンアメリカを訪れ、メキシコにはビセンテ・フォックス・ケサーダ(国民行動党=PAN) が大統領に就任する前日に来た(2000年11月30日と思われる)。そして著者は、異国で現地通信員になった。

メキシコはGDPが1兆ドルを超え(世界ランク15位前後)、若者の4人に1人は大学に行き、高学歴な中産階級を抱えている。

メキシコは制度的革命党=PRIが1929年から2000年まで政権を独占していた。長期政権は不敗を生み、政治家は私腹を肥やしていた。フォックス大統領(国民行動党=PAN)の登場に、メキシコ国民は多大な期待を抱いた。

前政権のPRIは麻薬密売人(メキシコではナルコと呼ばれる)を抑え込んでいた。何人かのギャングを逮捕するが、逮捕しなかったギャングから税金(というか賄賂)を徴収する。

PAN政権は、組織犯罪をコントロールするすべを知らなかった。フォックスの後に大統領になったカルデロン(PAN)は正面から喧嘩を仕掛けた。その結果、内戦状態といっても過言ではないほど、マフィアによる犯罪が増大した。カルデロン政権になってからの4年間で、34,000人が死んだ。そのうち2,500人が公務員である(2,200人の警官、200人の兵士、裁判官、市長、知事候補、国家公務員など)。国民はPANに失望した。

2012年、国民は新しい大統領にPRIのエンリケ・ペーニャ・ニエトを選んだ。(メキシコの大統領は6年任期で再選なし)

著者はナルコに興味を持ち、逮捕や押収の記事を書いていた。しかしそれらはうわべだけであると感じ、実際のナルコと話をすることにした。

コカの葉が取れる山岳地を這い、麻薬王の弁護士と食事をし、麻薬カルテルに潜入したアメリカ麻薬取締局(DEA)の捜査官と酒を飲み、街中で嫌というほど死体を見、子供を亡くした(殺された)母親の悲しみに満ちた声を聴いた。

そうしてやっと、ナルコと会うことができた。

コカや大麻を栽培する農家、スラムの若き殺し屋、麻薬をアメリカに運ぶ「ラバ」と呼ばれる運び屋、紙に救いを求める元ギャング。

本書は、10年にわたってナルコを取材した著者の集大成である。

原著は2011年に出版され、日本語版は2014年に出た。私は、工藤律子「マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々」2018年04月22日読了、で本書の存在を知り、買った。


・第2章以降
(p70)
1969年6月、ニクソン政権の担当者がメキシコに赴き、ケシ畑に枯葉剤を撒くように要請したが、断られた。仕返しとしてアメリカは、メキシコからアメリカへの入国検査を徹底した。通常の農作物などの輸出にも支障が出て、メキシコが折れた。アメリカのエージェントを、メキシコ国内で活動することを許した。

このあたりのことがベースになっている小説が、ドン・ウィンズロウの
「犬の力(上)」 「犬の力(下)」 「ザ・カルテル(上)」 「ザ・カルテル(下)」である。

(p142-)
アルトゥーロ・グスマンはメキシコの貧困層出身で、貧困から逃れるために軍に入った。ずば抜けて優秀で聡明だったグスマンは、空軍特殊部隊GAFEに入った。GAFEは、イスラエル軍やアメリカ軍からもトレーニングを受けた。

1994年、メキシコの反政府ゲリラ組織サパティスタが反乱を起こした。政府はGAFEに鎮圧をさせた。GAFEはサパティスタ33人を殺し、翌日さらに3人を殺した。3人は耳や鼻がそぎ落とされていた。サパティスタは反乱蜂起から12日後、休戦協定を結んだ。

司令官グスマンは、ヌエボ・ラレド(街)に赴任した。そこはナルコの街で、麻薬で稼いだ連中の豪邸が立ち並び、夜通しパーティが開かれ、何千人もの娼婦がいた。

グスマンは当初、ゴルフォカルテルから賄賂を受け取り、犯罪行為を目こぼししていた。しかし政権が交代し、軍の高官が収賄で50年の実刑判決を受けるなど、軍の先行きに不安が生じた。

グスマン派軍を辞職して、ゴルフォの傭兵に転身した。

ゴルフォの最高幹部カルデナスは、グスマン経由で軍のエリート十数人をリクルートし、最高の傭兵部隊を作った。これがメキシコで最もいかれた狂気の集団「ロス・セタス」の始まりである。

その後グスマンは、グアテマラの陸軍特殊部隊「カイビル」の元メンバーたちもリクルートした。カイビルは、グアテマラの反政府組織とその家族を、何万人も殺してきた屈強の部隊だった。

「ロス・セタス」は、ケシをや大麻を栽培していた山岳地の村に行き、「今日から麻薬を売るときは俺たちに金を払え」と宣言し、払わなかったものを次々殺した。


ここに書いたのは本書のほんの一部で、とても丁寧に、そしてとても深く掘り下げて書かれている。

また、訳者あとがきで、メキシコの農家は1994年に発効されたNAFTA(アメリカ、カナダ、メキシコの自由貿易協定)によって、自分たちで作って売るより安いトウモロコシがアメリカから輸入されるようになり、食い扶持を稼ぐために農村から都市部に移動する必要が出てきたことについて触れられている。


良書


9点/10点満点(原著が2011年のため、最新情報が少ないという部分でちょっとだけマイナス評価)

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