カテゴリー「●海外作品(原著英語)」の記事

2017/09/17

ジーン・マリー・ラスカス/田口俊樹訳「コンカッション」感想。
ノンフィクション。2017年08月07日読了。

脳震盪は今まで思われていた以上に、脳に深刻なダメージを与える。

脳震盪で脳にダメージを受けた人は、奇行が目立ち、死後に脳を解剖すると、特定の痕跡がみられる(CTEと呼ばれる)

本書は、ナイジェリアからアメリカに医学留学し、その後アメリカに定住、検視官の職を得、数多くの遺体を解剖してきたベネット・オマルが、偶然NFL(アメフト)のスーパースター(引退後奇行が目立った)の脳を解剖したところ、顕著な特徴がみられたことから、従来ボクシングのパンチドランカー特融と思われていた脳障害は、実は脳震盪によって引き起こされるということを突き止めた実話を、ベネット・オマルを主人公に据え、オマルの半生を描きながら、脳震盪が引き起こす様々な悪影響を解明したノンフィクション。

脳震盪に関する部分は面白いのだが、主人公があまりにも変人(人と接することが嫌いな鬱病持ちの異邦人)なので、イマイチのめりこめない。

悪くはないのだが。


6点/10点満点

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2017/09/07

エドワード・フレンケル/青木薫訳「数学の大統一に挑む」感想。
数学ノンフィクション。2017年08月01日読了。

本書は数学の本ではなく、現代最先端の数学者が挑んでいる「数学の大統一」とは一体何なのか、それに挑もうとしている著者の生い立ちから始まり、著者を数学に導いた数学者たちの話、そして最先端の数学者はどのよう大統一に取り組んでいるのか、について書かれた本。

とはいえ、数学についての記述も多々ある(数式はあまり出てこない)

◆本書の概要(Amazonより)
xのn乗 + yのn乗 = zのn乗

上の方程式でnが3以上の自然数の場合、これを満たす解はない。
私はこれについての真に驚くべき証明を知っているが、ここには余白が少なすぎて記せない。

17世紀の学者フェルマーが書き残したこの一見簡単そうな「フェルマーの予想」を証明するために360年にわたって様々な数学者が苦悩した。

360年後にイギリスのワイルズがこれを証明するが、その証明の方法は、谷村・志村予想というまったく別の数学の予想を証明すれば、フェルマーの最終定理を証明することになるというものだった。

私たちのなじみの深いいわゆる方程式や幾何学とはまったく別の数学が数学の世界にはあり、それは、「ブレード群」 「調和解析」 「ガロア群」 「リーマン面」 「量子物理学」などそれぞれ別の体系を樹立している。しかし、「モジュラー」という奇妙な数学の一予想を証明することが、「フェルマーの予想」を証明することになるように、異なる数学の間の架け橋を見つけようとする一群の数学者がいた。

それがフランスの数学者によって始められたラングランス・プログラムである。

この本は、80年代から今日まで、このラングランス・プログラムをひっぱってきたロシア生まれの数学者が、その美しい数学の架け橋を、とびきり魅力的な語り口で自分の人生の物語と重ね合わせながら、書いたノンフィクションである。

◆引用終わり

著者(1968年ソ連生まれ→ゴルバチョフのグラスノスチでアメリカに留学→ソ連崩壊ヒャッハーッ)が数学に魅せられるようになったきっかけ、ユダヤ人差別が残っていたソ連時代の勉強法、モスクワ大学に行けず腐っていた、などの著者自身の話は大変面白い。

しかし、本書後半から大統一の話になり、超高等数学の話になるとほぼほぼ理解できなかった。著者は易しく書いたと「はじめに」で書いているが、そこは超高等数学、易しく書かれていても理解するの無理。

まあ、根性で最後まで読みましたが。


数学ノンフィクションの最高傑作(というより、我が読書人生ベスト10に入る超大傑作)
サイモン・シン/青木薫訳「フェルマーの最終定理」2015年06月11日読了。10点満点

と訳者が同じ。日本語でこれ以上の翻訳は望めないという状態なので、超高等数学は私には理解不能の領域なのだろう(理解できないのが普通だと思うけど)。

著者の人生は面白いので、そこだけでも読む価値あり。


7点/10点満点

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2017/09/02

R.D.ウィングフィールド/芹澤恵訳「フロスト始末(下)」感想。
多重発生事件解決ミステリ。2017年07月16日読了。

フロストシリーズは、イギリスの架空都市デントン市警察に勤務するフロスト警部が、同時多発する事件(毎回毎回5件くらいの殺人事件が同時に発生する)を、夜勤超過手当削減に取り組むマレット署長の妨害に愚痴を言いながら、下品で受けないなジョークを飛ばしつつ、見当違いの捜査をしたり、勘がズバリと当たったり、へとへとなのに新しい事件が発生して呪いの言葉を吐き出したりしながら、どうにかこうにか事件を解決する物語である。

ミステリー小説なので、事件は毎回解決する(事件が解決しないのはミステリーではない。クライム<犯罪>小説である)。

1994年末に発売された「このミステリーがすごい」を読んで、第1作「クリスマスのフロスト」を知った。この第1作邦訳版は、原著発売後11年も経過してからの発売である。原著はすでに第3作まで出ていた。この辺りの事情はよく分からないが、全巻邦訳版が出版されたことは素直にうれしい。

著者は2007年に鬼籍に入られた。新刊が出ることはない。しかし、この作品のファンである別の作家が、スピンオフ作品を出しているとのこと(本書「フロスト始末(下)」巻末解説より)。

なお、訳者はすべて芹澤恵氏である。

◆以下リスト。

・第1作「クリスマスのフロスト」(原著1984年出版)
 読了日(1995年と思われる)、点数ともに当ブログに記録なし。

・第2作「フロスト日和」(原著1987年出版)
 1997年12月06日読了。7点

・第3作「夜のフロスト」(原著1992年出版)
 2001年09月23日読了。10点満点

・第4作「フロスト気質(上)」(原著1995年出版)
 2009年01月23日読了。8点

・ 〃 「フロスト気質(下)」(原著1995年出版)
 2009年01月26日読了。7点

・中 編「夜明けのフロスト」
 2009年01月28日読了。5点(複数作家のアンソロジー)

・第5作「冬のフロスト(上)」(原著1999年出版)
 2014年04月07日読了。8点

・ 〃 「冬のフロスト(下)」(原著1999年出版)
 2014年04月08日読了。8点

・第6作「フロスト始末(上)」(原著2008年出版)
 2017年07月12日読了。10点満点


本書の上巻は10点満点、下巻は7点。

フロストはしばしば違法捜査をするが、下巻の違法捜査はちょっと強引すぎる。いくらなんでも、それはダメなんじゃないか? & スキナー主任警部の退場の仕方が気に入らなかった。まあ、個人的な好みの問題である。

今年の年末に出版されると思われる「このミステリーがすごい2018年版」で、本書が上位に来ることは確実である。(第1作4位、第2作1位、第3作2位、第4作2位、第5作3位)


堪能した。


7点/10点満点

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2017/08/25

R.D.ウィングフィールド/芹澤恵訳「フロスト始末(上)」感想。
多重発生事件解決ミステリ。2017年07月12日読了。

フロストシリーズ最終巻。

なぜ最終巻かというと、著者が亡くなったから(2007年)。

本書が出版されたのは著者逝去後の2008年。日本語版は2017年(今年)6月に出版。

出版社もフロストシリーズを引っ張りに引っ張ったってことです。


で、今までのフロストシリーズの中でも最高の出だし(上巻ですので)。


私がフロストシリーズのファンということもあるけど、これは面白い


10点/10点満点

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2017/08/21

ダン・ライオンズ/長澤あかね訳「 スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家」感想。
中年再就職ルポ。2017年06月25日読了。

「ニューズウィーク」のテクノロジー・エディター(技術系の記事を書くライター)である著者は、52歳で「ニューズウィーク」を解雇された。理由はもちろん雑誌が売れなくなったから。

ハブスポットというスタートアップ企業(資金調達済み・上場準備中)のCMO(最高マーケティング責任者)クラニアム(仮名)に誘われ、ハブスポットのマーケターとしてお世話になることになりました。

意気揚々と初出勤。ところが、クラニアムはいません。その部下もいません。受付で電話をかけまくったら、ようやくザックという20代の若者がきて、「ようこそ、たぶん私があなたの上司です」的なことを言います。

「ニューズウィーク」のテクノロジー・エディターってのは、ハブスポットのCEOですら小物過ぎて相手にしない立場だったのに、そのハブスポットCEO、より下のCMO、の部下よりさらに下の下のザックが上司!?

私は何のために雇われたの?

で、所属部署に連れていかれたら椅子がバランスボール。「クールでかっこいいでしょ」とぬかしやがる。ふざけているのか?

そこで著者は観察した。
椅子がバランスボールなのはクール、
キャンディは無料だ、どんどん食べろ、
会社でハロウィンパーティやるときは朝から仮装が当たり前、
というか目茶目茶高い頻度で会社でパーティやっている、

「Webマーケティングを効果的にかつ効率よくするためのツール」を売っている会社なのに、営業は電話で売り込んでいる、
電話で売り込んでいる連中は大学出て間もないインターンばかりで、とにかく電話をかけまくれ、売れ、売れ、売れ、給料は安いが成功報酬はあるぞ、だから売れ!

よくよく自社製品を見てみたら、セールスフォースの劣化プラグインじゃねーか、
そのくせ、セールスフォース主催のカンファレンスに参加して悪ノリ大はしゃぎ、

でも資金調達に成功しちゃっているから、経営陣は上場(経営陣にとってのゴール)まっしぐら、
赤字垂れ流しでも、資金調達に成功しているからキャッシュフローは困らない、

赤字で上場ってアリなの?


結論からいうと、著者はストックオプションを行使できる「採用1年」を経過して辞めた。ハブスポットは上場した。

内幕を暴露した本書を執筆中、何人かのIT系の大物知人から「お前、喧嘩を売る相手が分かっているのか、時価総額1000億円の会社だぞ、殺されるとは言わないが潰されるぞ」と忠告されるも、本書の出版にこぎつける。

本書の登場人物はほぼ仮名なのだが、エピローグで、ハブスポットの広報が「本書の出版前にハブスポットの幹部が本書の現行を入手しようと違法行為を働いた形跡がある」と発表し、著者自身の身の安全のため?に、仮名で書いたのは実は誰それでしたと明かしている。

シリコンバレーのスタートアップはカルト宗教と似たり寄ったりなんだなあ。ということがよくわかる一冊でした。

私の知り限り、日本のスタートアップの一部もこんなレベルですけどね。


ちなみにハブスポットの株価は、日本でもYahooファイナンスで業績を見ることができる(https://stocks.finance.yahoo.co.jp/us/annual/HUBS)
(Yahooじゃなくてもアメリカ株を扱っている証券会社ならデータは見られる→ティッカーシンボルHUBS)

9点/10点満点

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2017/06/30

ティム・マーシャル/甲斐理恵子訳「恐怖の地政学」感想。
地政学。2017年06月19日読了。

原題は「Prisoners of Geography」なので、「地理学の囚人たち」という意味になる。最近日本では地政学の本が流行っているのでこのようなタイトルになったのだろう。とはいえ、「恐怖の」の意味が分からない。なんでこんな邦題なのだろう?

本書は下記各章のようにエリア別に、「地形(地図)」が政治や民族構成、紛争に与える影響について、各章おおよそ30ページとコンパクトにまとめられている。

第1章 中国
第2章 ロシア
第3章 日本と朝鮮半島
第4章 アメリカ
第5章 西ヨーロッパ
第6章 アフリカ
第7章 中東
第8章 インドとパキスタン
第9章 ラテンアメリカ
第10章 北極圏

全世界で起こっている紛争の原因を読み解くカギとして、地形がある。

中国とベトナムは何度か戦争をしているが、それは平地で両国がつながっているから。
中国と隣接するラオスやミャンマー、インドやパキスタン、アフガニスタンとの間には、山脈が挟まっている。
インドの侵攻を阻止するため、チベット高原は中国にとって必須の土地である。なので、現在の政治体制が続く限り、チベットが中国(漢民族)から解放されることは無い。

ヨーロッパがロシアに攻め入るには、モスクワまでは行けても、そこから先はウラル山脈に阻まれる。
ロシアはだだっ広い土地を持っているが、不凍港は(日本に近い)ウラジオストクなど数か所だけである。カリーニングラードという飛び地(リトアニアの下)があるが、ここから大西洋に出るには、バルト海を抜け、デンマークとスウェーデンの間にあるエーレスンド海峡を通らなければならない。ウクライナのクリミア半島を強奪したが、ここから大西洋に出るには、トルコのボスポラス海峡とダーダネルス海峡を抜け(ここでようやくエーゲ海)、ここから地中海を通り、スペインとモロッコ(&イギリスの飛び地ジブラルタル)に挟まれたジブラルタル海峡を抜けないと出られない。ちなみにシリア紛争に肩入れしているのは、シリアに借りているタルトゥース港を確保したいからと言われているが、ここも地中海に面しているので、結局のところジブラルタルを抜けない限りロシア海軍の動きは制限されたままどうにもならない。だからロシアがソ連だったころ、アフガニスタンを占領し、その後イランかパキスタンンと同盟を結んでインド洋に面した港を確保したかった。

南アメリカ大陸の沿岸部は浅瀬が多く、水深の深い良質な港がほとんどない。これは貿易を行うのに重大な欠点になる。

現代トルコとイランは今まで一度も仲良くなったことが無い不倶戴天の敵である。


などが結構わかりやすく書かれている。

地政学初心者が読んでも十分理解できると思う。邦題以外は良書。


8点/10点満点

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2017/06/05

トーマス・フリードマン/マイケル・マンデルバウム/伏見威蕃訳「かつての超大国アメリカ」感想。
アメリカ分析。2017年04月23日読了。

タイトルの通り、アメリカが凋落していった理由を考える本。原著は2011年に出版。

この本で最も面白かった考え方は、アンディ・ケスラーという元ヘッジファンドマネージャーが呈した概念で、

p121
「ブルーカラー、ホワイトカラーという区分は捨てよう。私たちの経済には二種類の労働者しかいない。クリエイターと仕える人(サーバー)だ。生産性を向上させる原動力は、クリエイターだ。ソースコードを書き、マイクロチップを設計し、癖になる商品(ドラッグ)を作り、検索エンジンを運営する。一方サーバーは、家を建て、食べ物を提供し、法的助言を行い、陸運局で働いて、そういったクリエイター(や他のサーバー)に奉仕する。サーバーの多くは機械、コンピュータ、ビジネスの運営方法の変更に取って代わられるだろう」

ここから著者は、クリエイターとサーバーをさらに分割する。

・創造的(クリエイティブ)クリエイター:独自のノンルーチンなやり方で、ノンルーチンの仕事をやっている:最高の弁護士、最高の会計士、最高の医師、最高のエンターテイナー、最高の作家、最高の教授、最高の科学者。

・ルーチンクリエイター:ルーチンなやり方で、ノンルーチンな仕事をやっている:平均的な弁護士、平均的な会計士、平均的な放射線技師、平均的な教授、平均的な科学者。

・クリエイティブサーバー:ノンルーチンの仕事をやる低スキルの労働者だが、的確な基地とした仕事をやっている:特別なレシピを考え付くパン屋、患者との関係性を大事にする看護師、ワインの知識で客をうならせるソムリエ。

・ルーチンサーバー:ルーチンなやり方でルーチンなサービスを提供し、それに何も付け加えない人。


医師、弁護士、ジャーナリスト、会計士、教師、教授のような仕事であっても、ルーチンクリエイターの範疇にいる人たちは、海外へのアウトソーシング、機械化、デジタル化で職を失うかもしれない。


著者は、アメリカを凋落から救うには「教育の充実」が必要であると訴える。

全体的に説得力も高く、なかなか面白い本であった。

8点/10点満点

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2017/06/03

モイセス・ナイム/加藤万里子訳「権力の終焉」感想。
政治・近未来。2017年04月08日読了

世界中のいたるところで、権力は衰えてきている。

政治の世界では、国連はもうあまり機能していない。
国の最高権力者(大統領や首相)も、かつて(第二次世界大戦の頃)ほどの権力はない。
上場企業の経営者は、四半期決算、年度決算、配当に縛られ、かつて(オイルショックの頃か?)ほど自由に商売ができなくなっている。

民主主義が行き過ぎると、小さな主張だけを取り上げる小さな政党が多数生まれ、絶対多数が生まれにくくなる(例として、2009年のインドでは実に35もの政党が議席を得ていたとのこと)

資本主義が行き過ぎると、株主の言うがまま利益を求める無分別な企業が増える。(例外はいる。Amazonのジェフ・ベゾスやテスラのイーロン・マスクなど)

そういうような趣旨のことを膨大な傍証とともに描かれたのが本書であるが、いまいちピンとこなかった。


6点/10点満点

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2017/04/24

ダヨ・オロパデ/松本裕訳「アフリカ 希望の大陸」感想。
アフリカ経済。2017年03月24日読了。

アフリカ経済に関する前向きな情報が満載の、とても良い本でした。

著者はナイジェリア系アメリカ人(親が移民)の女性ジャーナリスト。本書の原著は2014年に出版され、日本語版は2016年8月に出版。日本語版出版までに時間がかかっているため、本書に書かれているサービスのうち既に廃止に追い込まれているのもあり。

本書ではナイジェリアの公用語の一つヨルバ語の「カンジュ」という言葉をキーワードに設定し、アフリカ経済の行動様式を「カンジュ」で説明しようと試みています。「カンジュ」とはヨルバ語直訳で「焦る」「急ぐ」という意味。意味合いとしては「精を出す」「努力する」「ノウハウ」「やりくり」といったことになるとのこと。

非常に面白かった。が、あまりにも楽観的過ぎるので私的な評価は9点。


9点/10点満点


以下、つらつらと付箋をつけたところを列挙。

P21
2007年のケニアの大統領選挙で、キバキ派(キクユ族)とオディンガ派(ルオ族)に国内が分断され、暴力が渦巻き1200人の死者を出す事態になった。ケニアはアフリカの中でも(旧宗主国イギリスの流れを汲む)民主主義優等生と思っていた西欧の人は皆驚いた。TVやラジオなどマスコミは傍観していた。それに怒ったたケニアのソフトウェア技術者が、暴力行為を発見したら即座にマッピングできる「ウシャヒディ」というソフトを立ち上げた。そして秩序は回復に向かった。

「ウジャヒディ」は世界中に広がった。パレスチナのガザの混乱を監視し、スーダンや南米の選挙を監視し、
豚インフルエンザの蔓延を追跡し、メキシコ湾原油流出事故で流れ出た石油を監視した。


P39
アフリカでいちばん裕福なナイジェリア人のアリコ・ダンゴート
→調べたら、セメントで財を成した2兆円以上の超金持ちだった。


P41
スーダン生まれの億万長者で国際通信会社セルテルの創業者モハメッド・イブラヒム
→調べたら、この人も1000億円の桁の金持ちだった


P49
ナイジェリアは世界で2番目に映画が多く作られていて(私は知っていた)、オンライン配信はナイジェリアのNetflixといわれる「iROKOtv」という会社が最大手。ナイジェリア出身者で他国に出稼ぎに行っている人は多く、異国でこのサービスを楽しんでいるナイジェリア人も多いのだとか。


P93
1997年、ナイジェリアの繊維産業では137,000人が働いていた。6年後、57,000人にまで激減した。「太った国(=アメリカ)」からの善意の古着の寄付によって、繊維産業が壊滅してしまった。「善意の無償寄付」とは勝負にならない。

太った国の善意により、マラウィ最大の繊維メーカーが閉業した。エチオピアとエリトリアでは古着の輸入を禁止した。

サハラ以南で最大の綿生産国であるマリでは、国内では1枚もTシャツを生産していない。


P104
国連という、アフリカの普通の人にとっての部外者が勝手に立てたミレニアム開発目標で、万人の初等教育を充実させる、というのがある。

アフリカ各国は目標到達に尽力した。目標を達成したら国連からいろんな金がもらえるから。

その結果、「給料がろくに支払われない教師たちが」 「(教師なのに)学校に来なかったり」 「退屈で時代遅れのカリキュラムすら教えることができない」 という事態に陥った。

→その結果として、本書の違うページで、アフリカのスラム街で「1か月5ドル」の私立小中学校に入学させる親が滅茶苦茶増えているとのこと。こういう私立学校が保証するのは「教育の質」。やる気のない教師がいる公立学校(一応無料)よりも、金を払ってでも教育の質が高い学校に通わせる親が多いのだとか。

→P215に続報的に書かれていて、ケニアのスラムの40%、DRCコンゴの71%、ナイジェリアのラゴス州の3/4、ウガンダの中学校5600のうち4000が私立。


P125
アフリカ諸国では、隣人の噂、評判がかなり重要な情報源になる。これを「近傍情報」と呼び研究したところ、「xxさんはこの時期に種を撒いて大豊作だった」的な情報が集まった。

これってビジネスになるんじゃね?


P138
アフリカの優等生と言われているボツワナ。国債の格付けも高い。
しかーし、官僚の主要ポストはカーマ大統領の親族が占めている!!! マジで!!!


P140
頭脳流出について、まあ普通に優秀なアフリカ諸国の人たちはアメリカを目指す。
スーダン人はアトランタ。
ソマリ族はミネアポリス。
エチオピアとエリトリアはワシントンDC。
フランス語圏アフリカ人はニューヨーク。

→へえー。そうなんだ。つまり逆を言えば、そういう国とコネを持ちたいときはアメリカのそういう都市に行けばいいのね。


P145
ソマリア発祥の国際送金サービス「ダハブシール」。現在144か国で国際送金ができるとのこと。

→この手のサービスはウエスタンユニオン銀行(日本の代理店は大黒屋)しか知らなかったが、やっぱりこういう送金サービスってのは需要がすごいんだなあ。


P149
アルセロール・ミッタル(世界最大の鉄鋼会社。インドのミッタルスチールが買収に買収を重ねた結果出来た会社)がリベリアのグランドバッサ郡に拠点がある。

→西アフリカだって鉄鋼需要はあるんだろうけど、リベリアに工場があるというのは意外だった。


P170
Mペサ(知らない人はググってください)の成功を受けて、同様のサービスが世界中で広まった。

パガ、エコキャッシュ、スプラッシュモバイルマネー、ティゴキャッシュ、エアテルマネー、MTNモバイルマネー。

中でもセネガルのワリという会社は22カ国で使えるサービスを開発した。


P184
南アフリカで最大のSNSは「Mxit」。5000万人以上が利用している

→2017年3月に調べたら潰れていた


という話がまだまだたくさん載っているんだけど、書き飽きたのでこれでおしまい。

興味がある人は本書を定価で本屋から買って読んでください。(じゃないと翻訳者に印税が1円も入らない→こういう本を翻訳してくれる人が減る→日本語では情報入手が遅れてしまう→冗談抜きで日本国経済の危機)

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2017/03/04

ダニエル・カーネマン/村井章子訳「ファストアンドスロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?」感想。
行動経済学。2017年02月25日読了。

下巻も非常に面白かった。読むのに時間がかかったが、とても有意義な時間を過ごせた。

この本(上下巻)は内容が詰まっている。詰まっているというのは、余計なことがあまり書かれていなく、斜め読みをすることができない状態のことである。一言一句、かみしめるように読み進めないと、次に書かれていることが理解できなくなるのである。

翻訳に関しては、無理に日本語化した部分が悪目立ちしたが、これだけの内容を伝えたという点では良い翻訳と言える。


下巻のポイント(ほぼ私的メモです。分かりづらくてすみません)

p53
アメリカでスタートアップ企業の存続率は35%である。しかし、スタートアップ(起業)する人のほとんどは、自分が成功すると信じ、失敗する側(65%である)になると思っていない。

p67
所属している会社で、ある新規事業を始めるとする。事業を進めたがる人たちは概ね自信過剰に陥っているので、そういう人たちに「いまが1年後だと想像してください。私たちは、先ほど決めた計画を実行し、大失敗しました。なぜ失敗したのか、簡潔に答えてください」と問うと、新規事業への楽観は消える。

これを「死亡前死因分析」という。


これから後は、ギャンブルをベースにした問いが増える。これこそがノーベル経済学賞を獲ったプロスペクト理論。

問1:あなたはどちらを選びますか
・確実に900ドル貰える。
・90%の確率で1000ドル貰える。

問2:あなたはどちらを選びますか
・確実に900ドル失う。
・90%の確率で1000ドル失う。

たいていの人は、問1では確実にもらえる方を、問2では損をしない可能性が少しでもある方を選ぶ。(期待値の考え方なら、どちらの選択肢も同じである。問1なら+900ドル、問2なら-900ドル)

これは問題の内容をいろいろ変えても同じ結果になり、得をするときは確実な方を、損をするときは少しでも損する額が小さくなる方を選ぶ。


これは株式の売買にも通じ、

あなたは資産をすべて株で運用しています。突然1万ドルが必要になりました。現在儲かっている株を売りますか(利益確定)、それとも損している株を売りますか(損切り)?

多くの人が利益確定に走る。

人間の心理的に、損を確定させることは「自分の失敗を認めることになるので苦痛」に対し、利益確定は「自分の勘が正しかった確かめる作業なので精神的に楽」ということである。


p147
100万ドル貰えるかもしれない確率について、5%ずつ上昇するときの気分の変化
A) 0%から5%に上がる
B) 5%から10%に上がる
C) 60%から65%に上がる
D) 95%から100%に上がる

このうち最も嬉しいのはAであり、次に嬉しいのはDである。

Aは簡単に言うと宝くじ。当たる確率は低いけど、買わなければ絶対に当たらない。買えば買うほど当籤確率は上がる

Dの例は遺産相続。普通に考えたら遺産を全額相続できる立場にいるが、万が一、自分の知らない親族がいて、遺産の相続権を要求してきたら困る。そんな時、あなたの遺産相続権を満額の90%で買い取りますよ!と言ってくる弁護士が居たら、弁護士に権利を売る可能性が高い。


というようなことが満載で書かれている本書は、とにかく面白かった。


9点/10点満点

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