カテゴリー「☆私的10点満点」の記事

2011/08/14

木村元彦「悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記」。
旧ユーゴルポ。2011年07月25日読了。

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今年2冊目の10点満点。

悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記

千田善という方がいるのです。サッカー日本代表のオシムの通訳をやっていた方です。この方の本業はユーゴスラビア研究家で、「ユーゴ紛争 多民族・モザイク国家の悲劇」(1998年01月09日読了)という本を出されています。まあ他にも本は出していますが。(私は他に「ユーゴ紛争はなぜ長期化したのか」という氏の著書も読んだ→当ブログ未掲載)

私の持っていた「世界」という概念がブチ壊れたベルリンの壁崩壊は私が22歳の時で、以降の東欧諸国崩壊に興味があり、まあそれなりにニュースには注目していた(当時はノンフィクションやルポやドキュメンタリーなんてほとんど読んでいなかった)。けど、東欧崩壊に引きずられるように始まったユーゴスラビア瓦解に何故か違和感を覚え、それはボスニアヘルツェゴビナがやたらと被害者になっているニュース報道が原因で(後日この違和感の原因が高木徹「戦争広告代理店」を読んですっきりした)、30歳を過ぎてから旧ユーゴの本を読み出すようになったんですよ。


旧ユーゴは、要するにセルビアが一方的に悪者にされたのであって、たぶんセルビア人も相当酷いことをやったんだろうけど(民族浄化と名付けられた虐殺とか)、それと変わらないくらい酷いことをクロアチア人もやっているし(現在のクロアチア領に住んでいるセルビア人を追い出す際に虐殺強姦強奪しまくった)、ボスニアの連中も酷いことをやってただろうし(現在のボスニア領に住んでいるセルビア人を追い出す際に虐殺強姦強奪しまくった)、結局のところとても後味の悪い戦争だったってことだ。

まあ数冊程度ではあるけれども旧ユーゴ内戦に関する本を読んでいて、それなりに知ったつもりになっていたんですよ、私は。

そんな程度の私が思うに、日本人が書いた旧ユーゴの本は、どこかの民族への肩入れが少ないので、わりと公平に書かれているんじゃないかな、と思うのですよ。


で、本書。

本書は、私が敬愛するエンターテインメントノンフィクション(通称エンタメノンフ)作家、高野秀行氏が、氏のブログ「ムベンベ」で絶賛していたから買いました。

本書の著者木村元彦は元々はスポーツライターで、ユーゴスラビアサッカーに取り憑かれた人。中でもピクシー=ストイコビッチ(セルビア出身)のプレーに魅せられた人である(違ってたらすみません)

で本書は、コソボ紛争でセルビアがNATOに空爆されている前後にセルビア、クロアチア、コソボ、モンテネグロ、スロベニア、マケドニアに「サッカーを見に」行き、その現場で見聞きした旧ユーゴの現状を、サッカー中心にまとめたルポ。

細かな内容は省きます。


旧ユーゴに関心のある方は、絶対読め!


というくらいの名著。

これぞルポ。

素晴らしい。


10点/10点満点

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2011/07/25

デイビッド・バットストーン「告発・現代の人身売買」感想。
ルポ。2011年07月15日読了。

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告発・現代の人身売買―奴隷にされる女性と子ども

今年初めての10点満点本。

本書を読むつもりのある方に言っておきます。本書を読み切るには、かなりの覚悟が必要です。不用意に読み始めてしまうと、信じがたい現実に打ちのめされるかも知れません。

◆本書で紹介されている人身売買の例

現代でも世界中の至るところで奴隷売買がされている。

アフリカの話である。
東南アジアの話である。
南米の話である。

ヨーロッパの話でもある。
アメリカの話でもある。

人身売買という言葉に多少なりとも関心のある方は、東南アジアや中南米に住む若い女性を、先進諸国や金持ち国の連中が騙して連れてくる話、と思うかも知れないが、本書には、

アメリカに住む白人が、アメリカ国内で奴隷として売買されている例

も載っている。

序章。サンフランシスコ大学教授の著者が、たびたび行くインドレストランの従業員が実は奴隷であった。レストラン店主の一族が、偽のビザと身分証明書を使い、何百人という子供をインドから密輸し、店主の所有する幾つもの店で働かせていた。

第1章。タイやカンボジアの貧しい農村から、口減らしのために親に売られて、家政婦として重労働を課され、体が成熟すると売春婦として監禁状態で働かされる少女の話と、そこから導き出される東南アジアの人身売買構造。

第2章。インドの貧しい農民を騙し、当座の生活費として金を貸す代し、その農民の家族親族を何人にも働き口を斡旋する工場主。しかし工場主は借金を盾に取り、農民一族を奴隷状態にする。一族の女はもちろん犯す。逃げたら、逃げなかった一族がどうなるかわからないぞ、と脅す。

第3章。ウガンダの農村部に「神の抵抗軍(LRA)」というのがいる。反政府ゲリラだったが政権奪取に失敗し、現在では気の狂った宗教団体なのか反政府ゲリラなのかよくわからない集団に成り果てている。LRAは無差別に農村を襲う。子供は捕らえる。大人は全員村の中央に集める。そして、捕らえたばかりの村の子供に「大人を殺せ」と命令する。やむにやまれず子供は大人を殴る。殺せない。しかし別の村で捕らえてきた子供が大人を殺す。こういうことを繰り返すことで、子供は帰る場所がなくなり、LRAに洗脳される。女の子はもちろん性奴隷になる。

第4章。モルドバ。旧ソ連のヨーロッパ最貧国。この国には「イタリアで働き口があるよ、ビザも用意してあげる」と仕事を斡旋する奴等がいる。良い噂は聞かないが、働き口が全くないモルドバの若者はこの仕事に応募する。若い女は、集団でイタリアに向かう。ルーマニアを経由しセルビアに着く。売春を強要させられる。断ることなど出来ない。セルビアで1ヶ月くらい売春すると、その後アルバニアへ向かう。アルバニアでは単に強姦される。アルバニアからイタリアへ密入国する。そしてヨーロッパ各地へ売られる。(この章の話は海外テレビドラマ「セックス・トラフィック」の下敷きになったのだろうか?と思えるくらいドラマと同じ話)

第5章。ペルーのストリートチルドレンが売春その他奴隷になっている話。

第6章。アメリカ人の白人女が洗脳のような感じで騙され売春させられている話や、教会の牧師がザンビアの農村から聖歌隊を呼び寄せチャリティーコンサートを開いていたが、ザンビアの聖歌隊には約束の金をほとんど払ってなく、事実上の奴隷だった話。


◆本書の内容

先に挙げた例は、実に細かなところまで取材されていて、圧倒的な現実感を感じる。

しかし本書は、ただ単に人身売買の事例を挙げているだけではなく、人身売買組織と闘う人たちがどうやって奴隷を救っているのか、を同時に書いている。(人身売買組織と闘っている人たちがいるから、詳細な手口がわかり、本書のようにまとめることが出来る)

強制的の売春婦にされた少女達に働く場を与えている人。
強制労働を見つけては起訴に持ち込む弁護士。
人身売買された女性を見つける度に救い出す神父。
子供兵の話を聞き心の平安を取り戻す手助けをしている女性。

そういう意味では、本書は救いのある本であるし、けれども救っても救ってもなくならない人身売買の多さに絶望する本でもある。

◆余談

本書では日本の事例は出ていないが、日本の人身売買も相当ひどいだろう。

日本で働いている東南アジアや南米出身の売春婦なんて、かなりの数が人身売買だろう。(自主的に違法滞在して売春やっている人たちも多いだろうが)

また、日本の農業研修制度で中国(などいろんな国)から農民を連れて来る制度がある。農水省が率先して斡旋している制度で、この研修農民に払う給料というのがけっこう安くて、国際的には政府が先導している人身売買といわれている。(いまのところ日本人も中国人もハッピーな場合が多いみたいだから問題になってないけど)

同様に造船業にはベトナムから研修生が来ているし(国交省が先導切っているんだったかな?)、厚労省はインドネシアから看護師を受け入れているし。


日本人が書いた同様の本では、以前、長谷川まり子「少女売買-インドに売られたネパールの少女たち」という本に10点満点を付けた。(この本は賛否両論が激しい)


まとまりのない感想になりましたが、この手の話に興味を持っている人は、本書「告発・現代の人身売買」は読むべき一冊です。


10点/10点満点


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2010/10/27

石井光太「地を這う祈り」感想。
「世界の最底辺」のフォトルポ。2010年10月23日読了。

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地を這う祈り


インドやバングラデシュやパキスタンやアフガニスタンやフィリピンやウガンダやエチオピアやタイやスリランカやベトナムやその他著者が訪れた国々の、

最底辺を生きる人々の、

過酷な日常を撮った写真を中心にしたルポ。

全身瘤だらけで見世物なって金を得ている乞食、
右手が切り落とされている子供乞食、
下半身を露わにして路上で死んでいる売春婦、
緑色に変色した水を飲む歩けない老婆、
檻に閉じ込められる知的障害者、
ゴミ捨て場で鉄くずをかき集める少年、
蛆やゴキブリの混じった残飯を食う少年……


私は著者石井光太氏を贔屓にしているので、多少贔屓目の評価になってしまうけれども、それでもこの本は石井光太の現時点の集大成的と思えるので、私としては満点をつけるのである。


10点/10点満点


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2010/01/09

映画「アバター3D 吹き替え版」感想。
SF映画。2010年01月08日鑑賞。10点満点

ペルーやエクアドルで映画館の前を通ると「AVATAR」がやたらと宣伝されていた(ボリビアでも見たかも知れない)。ああ、キャメロンの新作か、そのうち見ようという程度だったが、日本に帰ってきて公式webサイトを見たら、アートディレクションの完成度が凄まじく高い。しかも3Dバージョンがある。これは日本で見なければ!

と思い、今日、流山おおたかの森TOHOシネマズまで出かけて見てきた。(柏じゃ3Dで上映していなかった…)


話の筋がベタだ、とか、
アバターとリンク切れたときの設定の詰めが甘い、とか、
美術設定がナウシカとラピュタのぱくりじゃん、とか、

いろいろ文句言う人はいるだろうけど。


圧倒的なアートディレクションの素晴らしさに驚愕。


また、2時間40分の映画なのに全く眠くならなかったから、良くできたシナリオなんだと思う。


1982年、16歳の時にディズニーのCG映画「トロン」を見てから、CGをずっと追いかけてきた私。今までCG映画を見るためにかけた金は数十万円は下らない。日本で公開されなかった映画のビデオを取り寄せたり、CGがちょっとでも使われている映画はすべて見に行ったり、自腹でCGソフトを買ってチャレンジしてみたり、ソフト動かすために高いパソコン買ったり。まあいろいろやってきた私が思うに、

この映画は現時点で世界最高峰のCG映画だ。この映画のCG完成度の高さは、スターウォーズEP3ですら甘っちょろく見えてしまう。金があっても時間があっても、世界観をまとめ上げるスタッフがいないとこういう映画は作れない。だからこの映画を超える映画はそう簡単には作れないだろう。

今日は3Dメガネをかけて見ていたから、色がかなりくすんでしまった。そのうち2D版を見て、色の素晴らしさを確認したい。


10点/10点満点


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2009/05/13

ヴィカス・スワラップ「ぼくと1ルピーの神様」感想。
ミステリ系なのか?2009年05月07日読了。

ぼくと1ルピーの神様
ヴィカス・スワラップ/子安亜弥 / ランダムハウス講談社 2009/02 ¥840 (税込)

◆あらすじ(紀伊国屋Bookwebより)
クイズ番組でみごと全問正解し、史上最高額の賞金を勝ちとった少年ラム。
警察は、孤児で教養のない少年が難問に答えられるはずがないと、不正の容疑で逮捕する。
しかし奇蹟には理由があった―殺人、強奪、幼児虐待…インドの貧しい生活のなかで、少年が死と隣あわせで目にしてきたもの。
それは、偶然にもクイズの答えであり、他に選びようのなかった、たった一つの人生の答えだった。
話題の映画『スラムドッグ$ミリオネア』原作、待望の文庫化。


◆アカデミー作品賞を取った映画「スラムドッグ・ミリオネア」の原作小説。インド人で、在南アフリカ・インド大使館に勤める外交官ヴィカス・スワラップの作家デビュー作。原著はまずイギリスで出版されたとあるので、英語で書かれたのだろう。

◆構成が見事。この物語の舞台となるクイズ・ミリオネアは、主人公の貧しい少年ラム・ムハンマド・トーマスの過酷な人生を浮かび上がらせるための添え物で、映画(まだ見てないけど)では重要かも知れないが、この小説においてはそれほど重要ではない。

◆あまりにも偶然に偶然が重なってしまう展開に白けてしまう、インド貧困層の描き方が嘘くさく感じてしまう、18歳の主人公がこれほど過酷な人生を歩むなんて考えられない、などの理由で受け付けられない人も多いのではないかと思うが、、、

◆私は文句なしに面白く読めた。

◆今まで読んできたドキュメンタリーやルポ、バックパッカー旅行記などで知り得たインドと、この小説で書かれているインド貧困層は違和感が無く、インドならあり得る話だよなあ、と思えるのだった。

◆海外翻訳物は、原著がどれだけ絶賛されていても、翻訳者に小説を書く能力が足りないと、まったく面白くないものになってしまう。だが本書は翻訳もよかった。ストーリーがよく構成もよく翻訳もよい。久々にとても面白い翻訳物を読み、堪能した。万人に薦められる本ではないが、当ブログに書いている私の感想に多少なりとも共感を抱いてくれている方なら、たぶん、はまる。


10点/10点満点


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2009/05/12

山崎朋子「サンダカン八番娼館 (新装版)」感想。
からゆきさんルポ。2009年05月01日読了。

サンダカン八番娼館 (新装版)
山崎朋子 / 文藝春秋 2008/01 ¥749 (税込)

◆幕末から明治を経て第一次世界大戦が終了する大正中期までのあいだ、北はシベリア、南は東南アジア、インド、アフリカにまで出かけていって、外国人相手に売春をしていた<からゆきさん>という海外売春婦が大勢いた。彼女たちは自ら好きこのんで売春をしたわけではなく、多くは女衒に「もっと稼げる場所に連れて行ってあげるよ」と騙され、付いていったら船倉に押し込められ、海外に連れて行かれ知らぬ間に借金まみれになっていて売春をする羽目になったという。もちろん、自分の意志で<からゆきさん>になった人もいるのだろうが。

◆著者は、今でいうストーカーに顔を切りつけられ、新劇女優になることを諦めざる得なくなったと書かれている。その後選んだ道が、底辺女性史の研究であった。本書は、その研究テーマに基づき、<からゆきさん>を多数輩出している天草地方に取材に行くところから始まる。

◆天草で偶然出会ったサキさんというおばあさん。話をするうち、サキさんが<からゆきさん>だった可能性が高い。偶然の出会いを元に、百足が住み着くほど腐った畳を取り替えることができない極貧生活をするサキさんの家に泊まりこみ、サキさんとの会話から<からゆきさん>の一端をひもといていく。

◆本書が「サンダカン」となっているのは、サキさんが働いていた地が、マレーシア、ボルネオ島のサンダカンだったからだ。


◆本書は出版年次が昨年であったので、比較的新しい本なのかと思って読んだが、読み進むにつれ、日本人の性道徳感や村社会ぶりがやや古くさく感じ、奥付を見ると原書は1975年に出版された「サンダカン八番娼館」と1977年に出版された「サンダカンの墓」の新装合本であることがわかった。

◆日本は豊かな国だと思う。しかし、100年前までは貧しい国だったのだ。その如実な例が本書に出てくる<からゆきさん>だろう。

◆本書には衝撃を受けた。後世まで絶版になることなく、大勢の人々に読んでもらいたい本だ。


10点/10点満点


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2009/05/10

西水美恵子「国をつくるという仕事」感想。
正しい国際政治論。2009年04月22日読了。

国をつくるという仕事
西水美恵子 / 英治出版 2009/04 ¥1,890 (税込)

◆非常に素晴らしい。

◆世界銀行、南アジア地域副総裁の地位にあった著者が、貸し付け相手である国家=つまり各国のリーダーと渡り合った結果、優れた国家を導くのは、優れた指導者(政治家だけにあらず)であるということを痛感し、真のリーダーとは如何なるものかを説く、そういう本である。

◆政治家が私欲に走っている国は、必然的に民衆にしわ寄せが行き、国家としてダメになっていく。世界銀行の貸し付けは、金額が巨大なだけに、その審査には慎重を要する。政治家が私欲のために金を使うのか、国家構築のために使うのか。貧しい国々とはいえ、一国の首相や大統領と対等に渡り合い、大勢の国家指導者を見つめ、その結果よくなる国とよくならない国があり、よくならない国の多くは、政治と政治家に根源があると説く。

◆一例としてここに書くと、イスラム世界初の女性首相、パキスタンのブットー。本書の著者は、ブットー首相のことをマリー・アントワネットと言い放ち、民衆を見ず私利私欲に走る金まみれの政治家と扱き下ろす。暗殺されたあと後継者に息子を選ぶあたり、ブットー一族の私欲は尽きることがないと嘆く。

◆とにかく、素晴らしい本だ。


10点/10点満点


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2009/01/25

熊谷達也「邂逅の森」感想。
純文学。2009年01月09日読了。

邂逅の森

◆今年最初に読む本は、熊谷達也の小説で一番面白いと言われ、直木賞&山本周五郎賞を獲った「邂逅の森」を選んだ。

(以下、かなりのネタバレ)

◆東北の熊マタギ、松橋富治の一生を書いたこの本、熊狩りの場面が臨場感溢れ素晴らしい。それだけではなく、富治の激動の人生がこれまた素晴らしい。マタギ一家に生まれ、14歳でマタギをはじめた富治は、名士の娘(文枝)に手を出し故郷を追い出され、マタギをやめ鉱山で名士の手下の監視付きで鉱夫として働き、そこで弟分の小太郎と出会い、鉱夫見習いの慎之介が両刀遣いの慰み者になって自殺してしまったことに打ちのめされるも、小太郎とともに鉱夫仕事の合間に遊びではじめた熊狩りにマタギの本能を思い起こされ、雪崩に巻き込まれた小太郎を何とか救い出すものの小太郎は故郷に戻り、腕の良いマタギ鉄五郎と出会ったことで鉱山を抜ける決心をし小太郎の村に身を寄せ、小太郎の姉で女郎であったイクと出会い結婚し、娘を育て上げ鉄五郎の息子に嫁がせ、これから老後の人生を楽しもうとしていたはずなのに、文枝とイクが出会ってしまい、そのせいでイクが家を出てしまい、しかし富治は文枝ではなくイクを追いかけ、見つけ、そして富治は熊のヌシとの一騎打ちを行う。

◆激動の人生を送った富治の生き様に、女郎だったイクを深く愛していた富治の情愛に、過酷な狩猟を屁とも思わない熊マタギの格好良さに、すべてに深く共感できた。今年最初に読む本が、これほどまでに面白い本だったので、今年はいいスタートが切れそうである。

◆「相剋の森」の主人公滝沢昭典の祖母の父が富治であり、女主人公美佐子の祖父は文枝と富治の息子幸之助である。

◆第9章、イクを追いかけた富治が、ようやく見つけたイクと出会う場面は、実に感動的である。


10点/10点満点


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2008/12/14

長谷川まり子「少女売買-インドに売られたネパールの少女たち」感想。
ルポ。2008年11月20日読了。

少女売買―インドに売られたネパールの少女たち
長谷川まり子 / 光文社 2007/11 ¥1,680 (税込) 

◆ネパールから毎年7,000人以上の少女が誘拐され、インドに売られているらしい。大半が最底辺の売春宿に売られ、可愛い少女は客付きが良いため、一日に100人の客を取らされる場合もある。少女たちが逃げ出さないように売春宿の経営者によってほぼ軟禁状態に置かれ、時が経つにつれ、少女たちは諦めていく。このネパール政府は50年以上もこの問題を放置し続け、累計30万人以上の少女が餌食になっているという。

◆本書の著者は、誘拐されたネパール少女を救出し社会復帰を助けるネパールのNGOに協力している。本書は、ネパールで起きている現状の深刻さと、著者自身がなぜこのような問題に興味を持ち、なぜNGOとして活動しているのかを、交互に書き記している。従って、半分は著者の自伝のような話である。

◆著者が女性であるため、売春宿の潜入取材は失敗、売春宿からの少女救出同行取材もイマイチであり、ハードな潜入ルポを期待していると肩すかしを食らう。また、著者がこの問題に深く関わるまでの自伝的な部分も、バカOLのような生き方をしていて何となくライター稼業を行うようになって何となく金になりそうだから取材をはじめた、というような内容なので必ずしも共感できるとは言えない。

◆しかし、今世界で何が起こっているのか、貧困と無知がどういう結果を引き起こすのか、とても深く考えさせられるのである。

◆インド好きが高じてインド人と結婚したマンガ家・流水りん子の「インドな日々」というマンガに、日本人バックパッカーがインドの最底辺の売春宿を試そうとする話が出てきたし、山松ゆうきちという還暦を超えたマンガ家がインドで自分のマンガをヒンディー語で出版するまでの顛末を書いた「インドへ馬鹿がやって来た」で、最底辺の売春宿での体験談をマンガに書いている。彩図社のくだらない旅の恥は掻き捨て本とか、エロ系の雑誌でもインドの売春宿体験記がいくつも載っているだろう。たぶん探せばきりがないくらい。そういうところで働いている売春婦が、実は誘拐されたネパール少女なのかも知れない。


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2008/06/01

ロバート・ゲスト「アフリカ 苦悩する大陸」感想。
ルポ。2008年05月23日読了。

アフリカ 苦悩する大陸
ロバ-ト・ゲスト/伊藤真 /東洋経済新報社 2008/05出版 323, 20cm ISBN:9784492211779 \2,310(税込)

◆今年初めての10点満点の本。

◆原著は2004年に出版され、(たぶん)2008年4月に出版された。原著が4年前の本なので、ところどころ訳注が入っている。

◆著者紹介(紀伊国屋Bookwebより)
ロバート・ゲスト
経済誌『エコノミスト』の元アフリカ担当編集長。1990年代に英国紙『デイリーテレグラフ』の日本特派員を務めたあと、『エコノミスト』特派員として南アフリカを拠点に7年間にわたりアフリカを取材。世界各地で50か国以上の取材経験を持つ。民族紛争、開発問題、そして熱帯雨林を走る運搬トラック同乗記など、アフリカに関する報道で外国人記者協会賞など複数の国際的な賞を受賞。現在は『エコノミスト』の米国特派員として、妻と3人の子供たちとワシントンDC在住。

◆各章紹介
第1章 吸血国家―エリートによる、エリートのための独裁主義
第2章 ダイヤを掘る、墓穴を掘る
第3章 「眠れる資産」が繁栄へ道を拓く
第4章 セックスは死と隣り合わせ
第5章 宿怨の三つの温床―部族主義、派閥主義、人種主義
第6章 どうする?援助と自由貿易
第7章 でこぼこ道と盗人警官
第8章 ハイテク技術は「貧困」を救えるか?
第9章 南アフリカは「希望の星」になれるか?
結論 一歩ずつ確実に―「豊かな」未来へ向けて

◆経済発展しつつあるアフリカ諸国であるが、まだ多くの国で政治腐敗が横行し、一部の富裕層(それは政府上層部に直結していることが多い)だけが富み、多くの貧困層は相変わらず貧困のままである。経済誌「エコノミスト」記者として、経済的な目線からアフリカ諸国が抱える問題点をルポした本書は、今まで読んできたアフリカ関連書とは違った切り口で新鮮である。

◆著者の見解では、アパルトヘイトを廃止し黒人政権ができた南アフリカが発展した理由は、黒人政権ANC(マンデラの政権)がソ連崩壊をきっかけにマルクス社会主義と決別したからであるという。マルクス主義との決別を見た南アフリカの白人及び先進諸国の投資家は、南アフリカに投資しても財産が没収される危険性が無くなったと判断し、投資を行うようになった。逆にイギリスの植民地であり自由な経済だったジンバブウェは、黒人大統領ムガベによる白人の土地の強制収容など、投資家をびびらせる政策を実行したため、ジンバブウェ経済は崩壊してしまった。(第1章)

◆先進諸国の人権活動家は、アフリカ諸国から安く農作物(コーンフレークやカカオなど)を輸入することは、安い労働力として子供を働かせることにつながる、言い換えれば先進諸国が搾取していることなのだ、と言うが、著者はこれに異を唱える。先進国の活動家や労組がこのように唱え、アフリカから農作物を輸入しなくなったとき、困るのはアフリカの農民だ。アフリカの農民は、カカオやコーンを売るしか現金を得る方法がない。先進国が農作物を買ってくれないと、農民は現金を得ることができなくなり、ただでさえ子供を満足に学校に通わせることができないのに、現金を得ることができなくなったらますます学校に通わせることなど難しくなってしまう。(第6章)

◆またカメルーンでは、ギネス社のビール運搬トラックに同乗し、ドゥアラという港湾都市からベルトゥアという田舎町まで約500キロの道のりを行く。1泊2日の予定で出発したが、結局目的地までは4日かかり、1600ケースの瓶ビールは、賄賂で取られたなどの理由で2/3に減っていた。道路が少しまともで、警官による検問(=賄賂の強要)がなければ、カメルーンでももっと多くの商売ができる。田舎町の人だってビールを飲みたいのだ。(第7章)

◆経済的な側面から見たアフリカという切り口はとても新鮮で興味深く読めた。今年一番の本であるだけでなく、今まで読んだアフリカ関連書籍の中でも有数の本だった。満足。


10点/10点満点

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