著者ロンブ・カトー女史は1909年生まれのハンガリー人で、本書の原著が出たのは1972年。今(2014年)から42年も前。
著者は、日本語や中国語を含めた16の言語を独学で習得した。そのうち5カ国語(ハンガリー語、ロシア語、英語、フランス語、ドイツ語)はどの組み合わせでも同時通訳が可能で、イタリア語、スペイン語、日本語、中国語、ポーランド語は時間は要するものの通訳が可能、ブルガリア語、デンマーク語、ラテン語、ルーマニア語、スロバキア語、ウクライナ語に関しては翻訳が可能。
本書は、そのノウハウが書かれた本で、日本語版単行本は1981年に出版され、現在普通に手に入る文庫本は2000年に出版された。
著者は、まだカセットテープすらない時代(wikipediaによるとカセットテープは1962年に開発された)に生まれ、第二次世界大戦後、生きるために次々と語学を修得していったという経歴を持っている。
本書に書かれている重要なことは、
・外国語を習得するためには、週平均10-12時間の勉強が必要。
・外国語を習得するためには、能動的に習得したい言語で書かれた本を読むこと。
・文法を知らずに言語を修得できるのは、母国語だけ。それも喋るだけ。書くためには母国語であっても文法を知っている必要がある
・外国人とコミュニケートするとき、教養の高い外国人の言うことの方が、教養の低い外国人の言うことより理解しやすい(これは世界一周旅行をした経験上、凄まじく同意できる)
です。究極的は、習得したい外国語で書かれた本を読め! ということです。
私は世界一周旅行で自分の英語力が低いことに打ちのめされて、今では毎日1時間英語を勉強しています。ネットで勉強しているので、リスニングはすごく上達しましたが、文法は今三つです。
自分でも、英語の本を読まないと文法力が上達しないと分かっているのですが、なかなか読めない。
理由は簡単です。
日本には、日本語で書かれた(もしくは翻訳された)素晴らしい書籍がたくさんあり、私は自分の知識の幅を拡げるため、英語の本を読んで英語力を伸ばすより、日本語で書かれた書籍を読んで知識を拡げるために時間を使っていることに重きを置いているのです。
2014/12/12追記:
例えばフィリピン。タガログ語(と英語)が公用語と言われていますが、タガログ語は首都マニラを中心としたルソン島周辺の言語で、セブ島はセブアノ語、パナイ島はイロンゴ語です。フィリピンで書籍を発行するのに、タガログ語で印刷しても売れる地域が限られているので、最も普及している英語の本が数多く出版されます。
同じ意味でインドも、一般的によく知られるヒンドゥー語 (हिन्दी) の他に、アッサム語(অসমীয়া)、ベンガル語(বাংলা)、ボド語(बोडो)、ドーグリー語(डोगरी)、グジャラート語(ગુજરાતી)、カンナダ語(ಕನ್ನಡ) 、カシミール語 (कॉशुर, کشُر)、コーンカニー語(कोंकणी)、マイティリー語(मैथिली)、マラヤーラム語(മലയാളം)、マニプル語(মৈতৈলোন্)、マラーティー語(मराठी)、ネパール語(नेपाली)、オリヤー語(ଓଡ଼ିଆ)、パンジャーブ語(ਪੰਜਾਬੀ , پنجابی)、サンスクリット語(संस्कृत)、サンタル語(?)、シンド語(سندھی زبان)、タミル語(தமிழ்)、テルグ語(తెలుగు)、ウルドゥー語(اردو)が公用語(全部で22の言語)なので、結局英語の本がインド全国に普及します。ちなみにこれらの言葉は文字も違います。
日本はとても恵まれた国で、日本国に生まれ育った人は(百年くらい前までの沖縄やアイヌなど一部を除き)ほとんどの人が日本語を読み書き出来る。だから日本語で書かれた優れた書籍が山のようにある。
日本人の英語下手の一因は、例に挙げたインドやフィリピンなどの多言語国家に比べ、英語の書籍を読む必要が少ないから。最先端の学術論文ですら、ものによっては日本語に訳されている。
本書の著者はハンガリー人で、ハンガリー語で書かれた書籍よりも、近隣国であるドイツ語やロシア語、フランス語、英語で書かれた書籍が翻訳されないまま原書で書店に置かれていて、外国語の書籍を読むということが当たり前の環境なのでしょう。たぶん今でも。
(何度も書きますが)それに比べると日本は、日本語で優れた書籍を山ほど読める。
これは幸せなことであり、しかし外国語を学ぶと言うことに関しては障害にもなる。
私は、日本語で書かれた優れた書籍をどんどん読みたいので、英語の本を読む、ということにまで手が回らないのです。英語の本を一冊自力で読み通せば、かなりの英語力が身につくと分かっていながら、手が回らないのです。
自分の人生の優先順位をどのように位置づけるか、という問題なのですね。
楽して英語が身につくわけもなし。
6点/10点満点