

JRの労組は革マル派に支配されている。全共闘時代の話ではなく、2019年の現在も。
本書は600ページを超える分厚い単行本でありながら、昨今では考えられない2400円+税という値付けである。ちなみに通勤電車の車内で立って読むにはとても重い。
◆内容紹介(amazonより)
「人殺しの組合にはいられない」(本文より)
『週刊東洋経済』の短期集中連載「JR 歪んだ労使関係」(3回)を、追加取材の上、大幅加筆し単行本化。
講談社ノンフィクション賞を受賞した前著『マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実』(07年)以後を描く。
テーマはJR東日本、JR北海道、さらにはJR貨物の三社の国鉄分割民営化から今日までの労使関係を中心にした経営問題。
それに加えて、『マングローブ』執筆時に判明していなかった、知られざる革マル派非公然部隊の動きや、党革マルVSJR革マルとの暗闘劇を描く。
またJR東労組の大量脱退問題は、会社に対する敗北だけでなく、組合という存在自体に嫌悪感やアレルギーを持っている「当世社員(組合員)気質」への敗北でもあると位置づける。その上で今回の大量脱退は、戦闘的国鉄・JR労働運動の終焉を意味していると結論づける。
◆引用終わり
本書は
第1部 JR東日本「革マル」30年の呪縛 (著者の前著「マングローブ」の再録)
第2部 「JR革マル」対「党革マル」の「内ゲバ」
第3部 JR北海道「歪な労政」の犠牲者
の3部構成で、
関係者への取材、労働組合が発行する機関誌、労組が起こした歪な社内虐めに関する裁判記録、飛び交う怪文書の入手そして吟味。たぶん著者が半生をかけて徹底取材した超大作である。
「信じられない」ほど前近代的なJR各社労組の実態を炙り出している。
今の時代に、組合の月例会で、組合員の活動に関する総括やら反省やら糾弾やらが行われ、JR労働運動の前進のために総決起せよ!と叫んでいる(糾弾等の文言は違うかも)
JR各社の労組には、広く革マル派が食い込んでいる。
組合の資金源は、組合員から徴収する会費。月給(額面)の2%+1000円が給料から天引きされる。月給30万円なら7000円。JR東日本労組は約4万7000人の組合員を抱えていたので、月に3億円~5億円の活動費があった。この活動費により、JR社員じゃなく、組合から金を受け取って組合活動に精を出す組合専従者が何人もいた(今もいる)。
その中には、労組を裏切った幹部の誘拐、2年間にわたる監禁が含まれ、家族が警察に捜索願を届け出たら「公権力へ靡いた」と糾弾し、捜索願を撤回させようとし、監禁している間に再洗脳し、労組に戻ってきたと宣伝する(細かい部分は違うが、こういう事件があった)
JRは巨大組織なので、組合も一枚岩ではなく、いくつかに四分五裂している。小さな組合に所属する従業員を、多数派の革マル支配下の組合員が公衆の面前で(つまり乗客がいる前で)罵倒する事案もあり、これは裁判で有罪になった。有罪になった組合員は解雇されたが、上述のように組合専従者として、組合に雇用された。今もいる。
JR東日本労組に関しては、2018年に給料のベースアップ(ベア)要求を押し通すためストライキを打つ、打たないで労組執行部と組合員に乖離が発生し、3万3000人以上が脱退した。脱退した組合員は、天引きされていた組合費が天引きされなくなったので、実質手取りがアップしたと喜んでいる。脱退した元組合員の中には、仕事できないやつが組合で威張っている、という現実に嫌気がさした人もいるという(そりゃそうだ)。
JR北海道労組はもっとひどく、組合員の結婚式は組合員以外出席不可、組合は結婚式に介入します、と公式に宣言している。
給与面や労働条件の交渉を会社(経営者)とするのに、組合という形で団体を作る必要性は分かる。
会社の管理職も、一人ひとり個別に給与査定するのは無理、不満がある奴は組合で抑えてくれ、と組合を頼っていたのもある。
しかし、組合活動は1円の売上すらもたらさない(会社と従業員のやり取りなので)。
日本最大の労働組合であるJR各社から、組合を脱退する人が続出した今、21世紀の組合活動が求められているという筆者の結論に共感する。
9点/10点満点
ところでこの本、帯にノンフィクションとあるのだが、私的にはルポだと思う。
ノンフィクションとルポの違いって何だろう?
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