高須次郎(聞き手:小田光雄)「再販/グーグル問題と流対協―出版人に聞く〈3〉」感想。
出版問題。2016年03月10日読了。
書籍編集者兼フランス語文学翻訳家の小田光雄氏が主催しているブログ「出版・読書メモランダム」というのがある。過去ログを見ると2009年に開設されたらしい。
小田氏主催のこのブログは、現在の日本の出版状況が危機的状況にあると警鐘を鳴らしている。書店経営は火の車、雑誌の売れ行き不振で出版社も一部大手を除き経営悪化中、取次会社も経営破綻しつつある(業界3位だった大阪屋が潰れ、大阪屋を吸収合併した栗田出版販売も潰れ、業界6位の太洋社も潰れた)。この辺りの話は氏のブログの中の「出版状況クロニクル」に詳しく書かれている。
出版界がどのくらい危機的な状況なのかというを一部抜粋すると、
書籍売上 雑誌売上 合計
1996年 1兆0931億円 1兆5633億円 2兆6564億円
2015年 7419億円 7801億円 1兆5220億円
(桁ずれ済みません、HTML編集が面倒だったので)20年で売上が40%落ちている。兆円の桁で売上が落ちると、中小規模の会社を中心に潰れるのは当然である。しかし、出版界は抜本的な対策を何ら打ってこなかった。電子書籍だって、ケータイコミックやケータイ小説がそこそこ売上を稼いだが、結局のところは外資Amazonのkindleが全部かっさらう方向で着々と進んでいる。楽天のコボ(電子書籍リーダー端末)とはいったい何だったのか。まあ、まだコボスタ宮城という形で名前は残っているけどさ。というか楽天がネット通販日本一だったのは過去の話で、とっくにAmazonに抜かれているというのが世間の評判ですわな。Amazonは売り上げ詳細を発表しない会社なので推測ですけど。
さて本書。
小田氏は、小出版社の社長や書店経営者などの出版関係者と、対談・インタビュー形式で出版界の歴史や問題点をえぐり出す「出版人に聞く」と題したシリーズを(私が知っている限りで19巻まで)刊行している。
小田氏がインタビュアー(インタビューする人)で出版上は名前が出てこない黒子、インタビュイー(インタビューされる人)が著者扱いになっている。
本書はシリーズ第3弾で、緑風出版創業社長兼出版流通対策協議会会長の高須次郎氏をインタビュイーに迎え、再販制度等の問題点について、事情をよく知る二人による対談である。
2016年4月3日に書いた「翻訳本絶滅の危機 について考える」というエントリーと重複するが、
出版物の取引は、再販制度によって定価販売が義務づけられているので、
a) 出版社→定価の69%→出版取次会社
b) 出版取次会社→定価の77%→書店
c) 書店→定価の100%→読者
という流れになる。
書店は売り上げの23%が粗利。そこから家賃、光熱費、人件費を捻出するので、営業利益は売上の1~2%程度しかないらしい。
ところが同じ書店でも、老舗の書店=紀伊国屋とか丸善など=は77%より安い値段で本を仕入れることができるとのこと(本書p36)。逆に振興書店=TSUTAYAなども含まれる=は77%より高い値段(80%とか)でなければ売ってもらえない。
同様に、老舗の出版社=岩波書店など=は69%より高い値段で取次に納入できるとのこと。逆に振興出版社は69%より安い値段(65%とか)で納入しなければならない。
取次の立場で見たら、振興出版社が出した本を、振興書店に売るのがいちばん儲かる。
しかし、書籍がなぜ定価販売(再販制度)で守られているかというと、
・流通経路の端っこに位置する市町村(北海道や沖縄や離島)は流通コストが高くなる、
・だが書籍を読むというのは文化なので、立地で文化格差が生じてはならない、
・従って、全国統一定価が必要→再販制度の誕生
的なプロセスが発生し、尚且つ、仕入れた本が売れ残っても書店が潰れないよう、返品制度を充実させた。ちなみに再販制度自体は1931年にひな形(1年間の時限再販価格維持制度)ができ、現在のような形になったのは戦後1947年である。
この制度には取次が重要な役割を果たしたが、出版界の売上減退に伴って制度的な疲弊が出てきたところに、Amazonが送料無料という実質値引きを始めやがった(Amazonジャパンが本格上陸したのは2001年)。これによって、今まで日本の出版界が必死になって守ってきた再販制度そのものが、がらがらと音を立てて崩れだした(2016年の今、まだ崩壊はしていないが、崩壊寸前の状況である)
Amazonの出現に遡ること10年ほど前の1990年に、ブックオフが誕生した。当初は目新しいスタイルの古本屋だったが、
・出版社が、とある本を大量に印刷した
・売れ残った
・通常は期をまたぐ前に断裁処理する(しないと資産になってしまう)
・断裁処理するのも金がかかるし、ということでブックオフに相談したら、
・1冊10円で1万冊全部買い取りましょう!
・出版社は断裁処理費(コスト)がゼロで、売上が上がるからハッピー!
・ブックオフは安く仕入れられてハッピー!
・まだその本を売っている(返品し損ねた)地方の本屋は、近所のブックオフでほぼ新品が売っているのを見てびっくり
これが「新古書」問題である。
という経緯もあり、地方の小規模書店はみるみるバタバタ潰れていきました。
本を売る=文化を全国隅々まで配達する、という使命感的な部分を(多少なりとも)持っていたはずの地方の書店は、出版社が裏切るとは思ってもいなかったのです。ちゃんちゃん。
その後、更に超巨大爆弾が全世界に投げ込まれました。
Googleブックスキャン(現Googleブックス)問題です。
Googleは、地球上の全ての出版物はデジタル化されるべき、そしてそのデジタルデータは図書館で公開されるべき、ナノでハーバード大学の大学図書館と組んでこの慈善事業を始めることにしました、文句がある著作権者はアメリカの裁判所に訴え出て下さい、期限は×月×日です。
と勝手に宣言して、勝手にスキャンしだした。
これは全世界で政治問題になった。Googleブチ殺す。
ヨーロッパの論壇が(アメリカとの国交断絶すら辞さぬ的な)政治的に強い圧力をかけ、結果的に、慈善事業とはいえ一社独占はけしからん、的な展開でなんだか曖昧なまま和解した。
的な(この言葉を多用して済みません)ことなどが書かれている本で、私は面白く読んだ。
しかし、いきなり専門用語が飛び出してくるので、出版業界のことが分かっていないとまったく面白くないかもしれない。
7点/10点満点
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