カテゴリー「●海外作品(原著非英語)」の記事

2020/01/04

ヤニス・バルファキス/関美和訳「父が娘に語る経済の話」感想。経済。2019年03月29日読了。10点/10点満点

 

著者はギリシャ経済危機(2015年)の時のギリシャ財務大臣。
原著はギリシャ語で書かれ(たぶん2013年)、英訳がたぶん2014年、英訳をもとに日本語版が2019年に出版された。

 

本書の面白さはあちこちに書かれているので、ここでは特記しない。
強制収容所ではタバコが貨幣と同じ働きをした、という部分は、貨幣経済を知るうえでとても分かりやすい例と思う。

 

陳腐な感想ではあるが、良い。またしても10点満点を付ける。

 

10点/10点満点

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2019/01/05

ロベルト・サヴィアーノ著/大久保昭男訳「死都ゴモラ」感想。
ルポ風小説。2018年07月19日読了断念。

イタリアマフィアの世界を書いたルポ風小説。

珍しく読み切れませんでした。

ゆえに評点なし

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2017/09/04

顔伯鈞/安田峰俊(編訳)「「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄」感想。
中国政府からの逃走。2017年07月22日読了。


中国・北京に在住する著者は、官僚の腐敗を暴こうと活動していたら思想犯として捕まりそうになってしまったため、妻子を巻き込まないため、単独で中国各地を逃げ回り、最終的にタイへ国外逃亡する逃避行。

2013年4月から6月
北京→天津→洛南→太原→邯鄲→太原→覇州→妻子に会うため北京にいったん戻るも会えず

2013年6月
北京→覇州→鄭州→武漢→吉首→曲靖→昆明→景洪→

2013年6月から8月
景洪→ミャンマーのシャン州モンラーへ密入国→

2013年9月から2014年2月
景洪→昆明→深セン→香港へ密入国→深セン→広州→昆明→大理→チベットのザユル県→

2014年2月から3月
ザユル県→ガダ村(軍基地)→班村→独龍江郷→大理→昆明→仲間を救うため北京→

5月に逮捕されるも、1か月で保釈

2014年9月から2015年1月
北京→洛南→昆明→ここからタイに行こうとしたら再逮捕されホテルに軟禁→監視の隙をついて脱走→長沙→岳陽→武漢→太原→北京→瑞麗→ミャンマーのクッカイ→ラオカイ→景洪→

2015年1月から2月
景洪→ミャンマーのモンラー→チャイントン→スオレイ港→ラオスの金三角特区→フアイサーイ→タイのチェンコーン→チェンセーン→イーサイ→チェンマイ→バンコク

という逃亡劇である。

当然ながら、なぜ中国公安が著者を捕まえようとしているのか、その背景についても書かれている。

なかなか良い本だった。


8点/10点満点

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2017/01/28

エルヴェ・ファルチャーニ/アンジェロ・ミンクッツィ/芝田高太郎訳/橘玲解説「世界の権力者が寵愛した銀行 タックスヘイブンの秘密を暴露した行員の告白」感想。
回顧録。2016年12月23日読了。

著者はフランス・イタリアの二重国籍を持ちITエンジニアで、スイスのHSBC(銀行)のプライベート・バンキング部門の情報システムで働いており、そのときに知ったHSBCのプライベート・バンカー(超富裕層のみを対象とする銀行員)の脱税幇助を告発した人。脱税者にはフランス人、スペイン人が多く、日本人もいた。

原著は2015年に出版された。

単純にスイス警察に告発しても埒が明かない(スイスの法律は銀行の顧客データを守る)ことを知っていた著者は、仲間とともに脱税者(脱税していない顧客も含まれる)のデータをクラウドにアップし、フランスのマントン(イタリアとの国境に近く、モナコの隣)の著者の両親の家でクラウドデータにアクセス。

このデータにアクセスすることはスイスの法律に違反しているので、スイスの警察がフランスの憲兵と一緒にマントンにやってきて事情聴取しようとするが、フランスの憲兵がそれを阻止。(注:スイスはEU非加盟)

最終的にはスペインで捕まる。

なぜこんなまわりくどいことをしたかというと、フランスやスペインの警察が間に入ることで、フランスやスペインの警察が証拠であるクラウドデータにアクセスし、一人の犯罪者(著者)から公式に得た証拠から、芋づる式に脱税の証拠を手に入れさせるためである。違法に入手したデータは証拠にならない。


というようなことを著者視点で書かれているのだが、すさまじく読みづらい。

時系列は行ったり来たりだし、法的な側面の説明も少ないし、仲間の存在などの前後関係も説明不足。

橘玲氏の解説がなかったら投げ出したくなるほど読みづらかった。


それでも投げ出さなかったのは、プライベート・バンカーの「金持ちから得られる手数料収入(=自分の給料)が何物にも勝る」的な価値観が面白かったから。

でもこの本は他人には勧められないなあ。


6点/10点満点

2016年に読んだ本の感想がようやく終わりました。次回更新から2017年分になります。

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2015/06/10

ムアンマル・アル・カッザーフィ(カダフィ大佐)/藤田進訳「緑の書」
思想教書。2015年03月09日読了。

リビアの独裁者で、パンナム航空機爆破テロの首謀者、反米精神をむき出しにして生きてきたカダフィ大佐(ムアンマル・アル=カッザーフィー)がリビア革命を起こしたあと、理想的な社会主義を実践する為にリビア全国民に向けて書いた本である。ちなみにカダフィ大佐は、陸軍士官学校を出たあと1年間イギリスに留学して、それから革命を起こしている。

以前読んだ本で、平田伊都子・川名生十「カダフィ正伝」1990年頃読了。10点満点は、欧米の価値観=日本のマスコミが流す国際情報が必ずしも正しいとは限らないことを教えてくれた。

本書は「カダフィ正伝」を読んだあとに触発されて1993年頃に買った。のだが、この頃の私は政治イデオロギーについて無知であり、何を書いているのかさっぱり分からなかったので、ずっと放置していた。

最近、積ん読本の消化に励んでいるので、その一環として読んでみた。


ガチガチの欧米型民主主義批判が展開されるのかと思ったらちょっと違って、アラブ人&イスラーム教徒が目指すべき社会主義の理想を説いている。

(p14)
「政党は、現代の独裁制であり、近代の独裁的統治機構である。部分が全体を支配するような組織として、政党は最新の独裁的統治機構である。政党は個人ではないので、議会や委員会を設置することを通じ、また党員が宣伝活動に従事することを通じて、偽りの民主主義を実現する。政党は同一の利害・同一の見解・同一の文化をもつ人びとや、地縁的つながりをもつ人びと、信条を同じくする人びとなどによってだけ構成されており、けっして民主主義的な統治機構とはいえない。そもそも、それらの人びとが政党を組織するのは、自分たちの目的を達成し、社会全体に対して自分たちの見解と信念を押しつけるためであり、また自分たちの政治綱領を実現するのだといって権力を行使する為である。多様な利害・思想・気質・郷土意識・信条をもっている人民の総体を、政党のメンバーが一括して支配することは、民主主義的ではない。」


なるほど。

まさしく今、沖縄の知事が「県民の総意」と勝手に宣っている構図ですな。


こういう考え方はたぶん社会主義の教科書にも載っているのだろうけど、今はそこまで深くお勉強する気はないので、本書を読んで満足したことにする。


なお、本書の後半はイスラーム教に関する基礎知識がなければ、意味がよく分からないところが多々出てきますので、単純に社会主義に関してお勉強したい方は、マックス・ウェーバーの「社会主義」とか、マルクスの「資本論」を読んだ方が良いと思います。


6点/10点満点


ところでこの本の翻訳権は誰がどうやってどこから取ったのだろう?

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2014/12/10

ロンブ・カトー(ハンガリー人)/米原万里訳「わたしの外国語学習法」感想。
勉強法。2014年11月14日読了。

著者ロンブ・カトー女史は1909年生まれのハンガリー人で、本書の原著が出たのは1972年。今(2014年)から42年も前。

著者は、日本語や中国語を含めた16の言語を独学で習得した。そのうち5カ国語(ハンガリー語、ロシア語、英語、フランス語、ドイツ語)はどの組み合わせでも同時通訳が可能で、イタリア語、スペイン語、日本語、中国語、ポーランド語は時間は要するものの通訳が可能、ブルガリア語、デンマーク語、ラテン語、ルーマニア語、スロバキア語、ウクライナ語に関しては翻訳が可能。

本書は、そのノウハウが書かれた本で、日本語版単行本は1981年に出版され、現在普通に手に入る文庫本は2000年に出版された。


著者は、まだカセットテープすらない時代(wikipediaによるとカセットテープは1962年に開発された)に生まれ、第二次世界大戦後、生きるために次々と語学を修得していったという経歴を持っている。

本書に書かれている重要なことは、

・外国語を習得するためには、週平均10-12時間の勉強が必要。

・外国語を習得するためには、能動的に習得したい言語で書かれた本を読むこと。

・文法を知らずに言語を修得できるのは、母国語だけ。それも喋るだけ。書くためには母国語であっても文法を知っている必要がある

・外国人とコミュニケートするとき、教養の高い外国人の言うことの方が、教養の低い外国人の言うことより理解しやすい(これは世界一周旅行をした経験上、凄まじく同意できる)


です。究極的は、習得したい外国語で書かれた本を読め! ということです。


私は世界一周旅行で自分の英語力が低いことに打ちのめされて、今では毎日1時間英語を勉強しています。ネットで勉強しているので、リスニングはすごく上達しましたが、文法は今三つです。

自分でも、英語の本を読まないと文法力が上達しないと分かっているのですが、なかなか読めない。


理由は簡単です。

日本には、日本語で書かれた(もしくは翻訳された)素晴らしい書籍がたくさんあり、私は自分の知識の幅を拡げるため、英語の本を読んで英語力を伸ばすより、日本語で書かれた書籍を読んで知識を拡げるために時間を使っていることに重きを置いているのです。


2014/12/12追記:

例えばフィリピン。タガログ語(と英語)が公用語と言われていますが、タガログ語は首都マニラを中心としたルソン島周辺の言語で、セブ島はセブアノ語、パナイ島はイロンゴ語です。フィリピンで書籍を発行するのに、タガログ語で印刷しても売れる地域が限られているので、最も普及している英語の本が数多く出版されます。

同じ意味でインドも、一般的によく知られるヒンドゥー語 (हिन्दी) の他に、アッサム語(অসমীয়া)、ベンガル語(বাংলা)、ボド語(बोडो)、ドーグリー語(डोगरी)、グジャラート語(ગુજરાતી)、カンナダ語(ಕನ್ನಡ) 、カシミール語 (कॉशुर, کشُر)、コーンカニー語(कोंकणी)、マイティリー語(मैथिली)、マラヤーラム語(മലയാളം)、マニプル語(মৈতৈলোন্)、マラーティー語(मराठी)、ネパール語(नेपाली)、オリヤー語(ଓଡ଼ିଆ)、パンジャーブ語(ਪੰਜਾਬੀ , پنجابی)、サンスクリット語(संस्कृत)、サンタル語(?)、シンド語(سندھی زبان)、タミル語(தமிழ்)、テルグ語(తెలుగు)、ウルドゥー語(اردو)が公用語(全部で22の言語)なので、結局英語の本がインド全国に普及します。ちなみにこれらの言葉は文字も違います。


日本はとても恵まれた国で、日本国に生まれ育った人は(百年くらい前までの沖縄やアイヌなど一部を除き)ほとんどの人が日本語を読み書き出来る。だから日本語で書かれた優れた書籍が山のようにある。

日本人の英語下手の一因は、例に挙げたインドやフィリピンなどの多言語国家に比べ、英語の書籍を読む必要が少ないから。最先端の学術論文ですら、ものによっては日本語に訳されている。


本書の著者はハンガリー人で、ハンガリー語で書かれた書籍よりも、近隣国であるドイツ語やロシア語、フランス語、英語で書かれた書籍が翻訳されないまま原書で書店に置かれていて、外国語の書籍を読むということが当たり前の環境なのでしょう。たぶん今でも。


(何度も書きますが)それに比べると日本は、日本語で優れた書籍を山ほど読める。


これは幸せなことであり、しかし外国語を学ぶと言うことに関しては障害にもなる。


私は、日本語で書かれた優れた書籍をどんどん読みたいので、英語の本を読む、ということにまで手が回らないのです。英語の本を一冊自力で読み通せば、かなりの英語力が身につくと分かっていながら、手が回らないのです。

自分の人生の優先順位をどのように位置づけるか、という問題なのですね。


楽して英語が身につくわけもなし。


6点/10点満点

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2014/11/03

ガブリエル・ガルシア=マルケス/後藤政子訳「戒厳令下チリ潜入記」感想。
ノンフィクション。2014年10月11日読了。

◆内容(本書カバー折り返しより)
ヨーロッパ亡命中のチリ反政府派の映画監督ミゲル・リティンは、1985年、変装して戒厳令下の祖国に潜入、『チリに関する全記録』の撮影に成功した。スラム街や大統領府の模様、武装ゲリラ幹部との地下会見、母や旧友との劇的な再会……。死の危険を遂にくぐり抜けるまでの奇跡の6週間が、ノーベル賞作家によって見事に記録された。
◆引用おわり

本書を書いたのは、コロンビア出身のノーベル賞作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスである。

内容に書かれているとおり、戒厳令下のチリに潜入したのは、映画監督のミゲル・リティンである。ガルシア=マルケスは、リティンがどのようにチリに潜入したのかをマドリッドで聞き、映画にならない部分が世に埋もれてしまうことを危惧し、リティンに1週間のインタビュー(録音テープで18時間分)を行い、ガルシア=マルケスの著作として発表した。

今のチリは普通に平和で、豊富な埋蔵量を誇る銅、長い沿岸部から獲れる海産物、細長い地形を活かし獲れる農作物などを輸出し、経済発展著しい。私は世界一周旅行でブラジル、アルゼンチン、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドルに行ったが、チリの発展ぶりに驚いた。

そんなチリであるが、1970年代に軍事クーデターが発生し、長い間、軍事独裁政権が続いていた。クーデターを起こしたのはピノチェト将軍

反体制派はチリ・スタジアムに集められ、容赦なく虐殺された。

本書の主人公である映画監督ミゲル・リティンは、クーデターで覆されたアジェンデ政権下の国営映画社「チリ・フィルムズ」の総裁で、反アジェンデクーデターの際、もし捕まれば拷問死を免れないところであったが、クーデターに参加した軍人の機転によりすんでの所で虐殺を免れ、その後(たぶんスペインに)亡命した。

亡命から12年後、リティンは戒厳令下のチリに潜入し、映画を撮ることになった。ウルグアイ人に変装して。


チリという国の歴史を私があまり知らないこともあり、ページをめくる度に、新鮮な驚きがあった。

ガルシア=マルケスの文章も見事だ。

傑作と読んで良い本だろう。


8点/10点満点

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2014/10/27

シルヴィオ・ピエルサンティ/朝田今日子訳「イタリア・マフィア」感想。
ルポ。2014年10月02日読了。

◆著者について(amazonより引用)
1935年ローマ生まれ。ローマのサンタチェチリア音楽院ピアノ、作曲家卒業。イタリアジャーナリスト国家試験に首席で合格し、AP通信社に務める。イタリア支局長を経てフリーに転向後、英、米、仏、独、日本など各国の報道機関の特派員として活動。著書に「イタリア人の働き方」「三面記事で読むイタリア」「トマトとイタリア人」など。
◆引用終わり


イタリアマフィアの実態は、映画「ゴッド・ファーザー」の世界よりえぐい。ということが書かれている本。

イタリアマフィアの稼ぎの種の一つに、ピッツォ(リンク先は英語版wikipedia)というものがある。日本で言うところの「みかじめ料」で、店の売り上げに応じて、安いと200ユーロ、稼いでいる人からは5000ユーロを越える金額を毎月マフィアがせしめる。マフィアは、ピッツォを受け取る代わりに、店が倒産しないよう気を配る。

また、イタリアマフィアは売春と賭け事に手を出さない。

マフィアで有名なシチリア島は水が少なく、島の水事業(ダム)は全てマフィアが握っている。

などの話から始まり、本書はマフィアのファミリーについて詳しい解説を始める。ゴッドファーザーで有名なコルレオーネファミリーから始まり、実に多くのマフィアの幹部の名前が出てくる。

それと同時に、マフィアと対峙した勇気ある警察官、検察官、裁判官の名前も多数出てくる。

マフィアに牙を剝くものは、公権力であろうと死を以て封じ込める。

イタリアの元首相アンドレオッティは、マフィアとのつながりを隠そうともしなかった首相であった(p174他)。ベルルスコーニも色々と怪しい。

アルゼンチンとイギリスがフォークランドの領有権を争っていた戦争で、アルゼンチン側に武器を供給したのはマフィアとの関係もある極右政党幹部のジェッリだった。


色々と興味深いことが書かれているが、ページ数に対して登場人物が多すぎ、やや薄っぺらい印象。しかし、イタリアマフィアについての入門書としては十分なのかも知れない。


6点/10点満点

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2014/09/21

陳桂棣・春桃 共著/納村公子・椙田雅美訳「中国農民調査」感想。
ルポ。2014年08月10日読了。

久しぶりにブログを書くです

本書は、2004年1月に中国で出版されベストセラーになるも、内容が危険であると判断されたためか早くも3月には発禁処分を受けた本で、日本語版は2005年11月に出版され、書店で平積みになっていたので表紙を見たことがある人も多いだろう。

日本の行政は、国→県→市町村で成り立っている。
対して中国の行政システムは、国→省→地区→県→郷(または鎮)となっていて、したに行くほど木っ端役人が多い。

中国の農村は、上記で言うところの最も下層に位置する「郷」の役人が管轄している。

郷の役人になるのに、決まった手続きや資格はないらしく(あったとしてもでっち上げられる)、恐喝暴行容疑で前科持ちの荒くれ者が、執行猶予期間中に郷の役人になってしまう(もちろんコネがあるから)ということもザラにあるらしい。

中国の農民は、予想通りの低年収で、年収数万円の農家も多々ある。農家なので、農家同士で食いものを融通しあえば、食うには困らない。しかし、そこに立ちはだかるのが税金である。

本書は、国レベルでは禁止されている無意味な課税を、郷や県の役人が国の方針を無視して農民から搾取している実態を、著者夫婦が3年かけて中国人でも行かないような中国の奥深くの農村を訪ねて、たくさんの農家にインタビューして、その実態をまとめたものである。

中国のノンフィクション・ドキュメンタリー作品は、ノンフィクションといえどもなにがしかのストーリーがなければ受けないらしく、本書も、単純なインタビューは一切無く、多数のインタビューをまとめてひとつの物語にしている。


本書に出てくる郷の役人は、自分の懐を暖めるだけの目的で、「交通信号税」や「小学校の体育館建設税」などの名目で勝手に税金を取り立てる。当然、名目通りには使われない。

これらの税は高いわけではない。数元~数十元である。しかし、月収数百元の農家には重い。

しかも、こういうわけのわからない名目の税金が何十とあるため、農家の月の負担は数千元にも達する。

農家は怒って県の役所に行き陳情する。陳情を受けた県の役人は、郷の役人に「お前らはなにをやっているのだ、ちゃんと農民を治めなさい」という。メンツを潰された郷の役人は、県に訴え出た農民を袋だたきにする。

これを知った別の農民は、省の役所に行き陳情する。陳情を受けた省の役人は、県の役人に「お前らはなにをやっているのだ、ちゃんと郷を治めなさい」という。メンツを潰された県の役人は、郷の役人に「お前らがきちんと農民を管理監督しないから私らの査定に影響が出るではないかボケ」という。メンツを潰された郷の役人は、省に訴え出た農民を袋だたきにする。

これを知った別の農民は、国の役所に行き陳情する。

このような経緯で、国の相談窓口には、毎日数百人におよぶ陳情の列ができあがる。


遂に国が動き(朱鎔基の頃)、国は、県や郷が勝手に課税してはならない、とお触れを出した。

しかし、お触れの効果も1年くらい。末端の行政区画には、国の眼は行き届かない。それがわかった郷の役人は、またぞろ勝手な課税を始める。


というようなことが、感情表現豊かな小説的な書き方のノンフィクション・ルポルタージュとして、本書で書かれている。


買ってから9年ほどほったらかしにしていたが、なかなか面白い内容だった。中国の農家には、「知識をつけて対抗してくれ」と応援するしかない。


9点/10点満点


2014/10/13追記。本書は
本書は1行26文字×2段組×1ページ23行×301ページ=約36万文字、400字詰め原稿用紙900枚である。

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2014/08/03

エレーヌ・ブラン/森山隆訳「KGB帝国」感想。
政治分析。2014年07月21日読了。

ゴルバチョフ、エリツィンが政権を握り、ソ連は崩壊した。そしてプーチンがロシアの政権を握った。

ソ連崩壊前後、その後のプーチン政権下のロシア、それらはいずれも旧KGB閥が支配する世界だった。

多数の旧ソ連、現ロシア関係者からインタビューで聞き出し、ロシアはKGB閥に支配されていることを暴いているのが本書。

◆内容紹介(amazonより)
ペレストロイカ、クーデター、ソ連崩壊、ロシア連邦成立、民主主義、市場経済導入など、ゴルバチョフ、エリツィン、プーチンへと続く激動のロシア過去20年を振り返り、KGB組織網、諜報機関の人脈、マフィア、新興財閥など暗躍する闇組織に焦点を当てながら、同時代人143人の証言を基に、これまで決して明かされることのなかった現代ロシアの真実に迫る。
◆引用終わり


本書の著者は、フランス在住のロシア研究者。名前から察するに、たぶんフランス人なんだと思う。(奥付の著者紹介に、どこの国の人なのか書いていないので正確なことは分からない)


本書は興味深いことも多々書かれているが、本書を読むのに、1991年8月にソ連でクーデターが起きたこと(改革派のゴルバチョフ政権に対し、市民派を代表するエリツィンが抵抗し、エリツィンが勝った)ことなどを筆頭とした近代ソ連ロシア史を知っていることが前提となっていて、いきなり「××のクーデターの真実は……」的な展開になるので、「××のクーデター」の経緯をよく知らない私はwikipediaで調べるハメになった。

敷居の高い本であった。


6点/10点満点


気が向いたら内容の詳細を描き加えます。

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