真保裕一 /新潮社 2007/01出版 307p 20cm ISBN:9784103035510 ¥1,575(税込)
※今回はちょっと長く、且つかなりのネタバレです。また、後日ちょっと手直し入れるかもしれません。
前置き。
当ブログを始めたのは2005年12月15日からです。内容は1997年以降の私の読書記録メモを元に、面白かった面白くなかった、または好き嫌いという私的基準で感想を書いています。ココログは投稿した記事の日付を過去に遡らせることが出来るので、読んだ順番に記事が掲載されるように編集しています。2001年から2004年までの感想は、まだ200件くらい投稿していないままになっています。
私は当ブログにて、やたらと真保裕一を貶している。毎度毎度貶すくせして、新刊が出るたびに感想を書くのはなぜかというと、私は真保裕一のファンなのである。
真保裕一の小説は、「発火点」を除きすべて読んでいる。「発火点」も発売されてすぐ買いすぐ読み始めたのだが、あまりにつまらなくて途中で読むのをやめてしまった。私は一度読み始めた本はめったに途中で投げ出さないのだが、「発火点」はダメだった。登場人物や設定の稚拙さと、全く共感できない展開に、イライラが極限に達してしまったのだ。(ちなみに「発火点」の感想は当ブログに載せていない)
真保裕一の小説に出てくる人物の稚拙さは、「奇跡の人」からひどくなった。「奇跡の人」の主人公はどう考えてもストーカーにしか思えないのに、純粋な人間のように書かれている。その違和感に、私は3点(10点満点)をつけた。その後に出た「密告」「ダイスをころがせ」「真夜中の神話」なども、私の感想では並み以下の点数。
今回の感想「最愛」の一つ前に出た「栄光なき凱旋」は、真保作品では久々に完成度がよかったので、今回は多少期待していた。
ここで「最愛」のあらすじを細かく紹介する。なお、あらすじ部分はイタリックで表記する。
主人公押村悟郎は34歳の小児科医。4歳の時に両親を失い、悟郎は伯父に引き取られ、2歳年上の姉千賀子は叔母に引き取られる。悟郎は時々姉と会っていたが、9歳の時、伯父と叔母が遺産相続で揉める。悟郎が16歳の時、7年ぶりに姉に会って以降、34歳になるまで18年間音信不通だった。
悟郎の元に警察から千賀子が銃で頭を撃たれ意識不明との連絡が入る。悟郎は姉の病院に駆けつけ、刑事から千賀子が2日前に結婚し、相手が元殺人犯であることを知る。しかし、その結婚相手・伊吹は見舞いに来ない。千賀子を撃った犯人は自首。
音信不通の18年間、姉がどう生きていたのかを知りたくなった悟郎は、次の日、病院の付き添いを義兄に任せ、小岩にある千賀子のアパートに行く。預金通帳を見て、最近数百万円おろされていることを知り、千賀子の名刺と年賀状8通を入手する。名刺から、千賀子が昼は普通に働き、夜ソープランドで働いていたことを推測する。区役所で姉の住民票を手に入れる。夫婦の本籍は土浦だった。
そしてすぐに姉の勤めていた会社に行き、「姉はどういう人物だったのでしょうか」と聞く。その会社の経理部長は親切に答える。
そのあと悟郎は、その会社の事務の女の子ミッチャン(年賀状の人物1)をつかまえ、「姉はどういう人物だったのでしょうか」と聞く。ミッチャンは迷惑そうにしながらも聞かれたことに答える。
ミッチャン情報から、千賀子が若い社員に金を貸していたことを知り、昼休み会社の外で待ち伏せして若い社員(年賀状の人物2)をつかまえ、「姉の借金の件はどういうことでしょうか」と聞く。若い社員は怒りながらも聞かれたことに答える。そして、伊吹との結婚は千賀子が勝手に婚姻届を出していたことを知る。ここでまだ昼12時。
悟郎は、新井宗太(年賀状の人物3)に電話する。不在。
悟郎は、越川範子(年賀状の人物4)に電話する。不在。姉が意識不明、と留守電に。
悟郎は、大和田はつえ(年賀状の人物5)に電話する。不在。姉が意識不明、と留守電に。
悟郎は、増田彩(年賀状の人物6)に電話する。が、現在使われていない模様。年賀状の住所に押しかけ、ちんぴらとトラブルになったことをきっかけに、ソープの同僚である彩とファミレスに行き、様々な話を聞く。彩の昔の男が金をたかりに来たとき、千賀子が殴られながらも彩を助けたエピソード。
17時、義兄から、病院に変な連中に取り囲まれたと電話があり、病院に戻る。
18時、越川範子(年賀状の人物3)から電話あり。「姉はどういう人物だったのでしょうか」と聞くと、範子は小学のクラスメートで、千賀子の容態を気にしながら色々教えてくれる。千賀子が地下鉄のホームで男と殴り合いのけんかをしていたエピソード。電話じゃなくもっと話を聞きたいと思った悟郎は、これから会いたいとごり押し。だが会うのは断られ、21時に再度電話で話すことに。21時、千賀子が小学校時代にいじめっ子を石で殴って対峙したエピソード、範子が浮気性の元夫と離婚するきっかけを与えてくれたエピソードを話してくれる。
21時、悟郎は、新井宗太(年賀状の人物3)に電話する。新井は1時間で病院に駆けつける。刑事オダギリが新井を伊吹と間違えタックルする。オダギリいったん退場。新井は、昔千賀子と婚約していたが、結局婚約を破棄したなどの話を悟郎に教えてくれる。それなのに悟郎は、姉を捨てていながら幸せな家庭を持っている(と推測される)新井に恨みをぶつけたくなる。
次の日朝6時、悟郎は夫婦の本籍地である土浦に向かう。
途中で大和田はつえ(年賀状の人物5)に電話する。不在。
悟郎は、千賀子・伊吹夫婦の本籍地が土浦というのは、伊吹の実家が近くなのだろうと推測する。土浦に着くと、市役所には行かず、公衆電話から電話帳に5件載っていた「伊吹」姓に片っ端から電話をかけることにした。すると幸運にも4件目が伊吹の実家だった。伊吹の母親から住所を聞き出し、押しかける。伊吹の母親が「……あんな馬鹿な息子のために」というと、悟郎は「僕の大切な姉が選んだ人を、そう馬鹿呼ばわりしないでください」等々の会話があり、千賀子の数百万円は伊吹の犯した殺人事件の慰謝料で背負った借金の返済に使われていたエピソード。
伊吹の母が金は必ず返すと悟郎に言うと、「姉はまず受け取らないでしょうね」「姉は伊吹を生涯の伴侶として選んだんです、その家族に手を貸すのは当たり前だと考えたに過ぎません、僕はそんな姉を全面的に支持し、応援します」等々の会話。
借金を肩代わりしてくれた感謝の意から、伊吹の母親は次々といろんなことを話してくれる。伊吹が昨年まで勤めていた会社の住所ゲット。伊吹の携帯電話番号もゲット。すぐ電話するも、出ず。力になります、と留守電に。
大和田はつえ(年賀状の人物5)に電話する。不在。また電話する、と留守電に。
東京に戻り、足立区に行き伊吹の元勤務先に行く。元同僚が伊吹の過去やらいろんなことを教えてくれる。
あらすじ紹介はここまで(書くのに飽きた)。ちなみにここまでで170ページ。半分ちょっとです。
あらすじを読んでいただいた方ならおわかりいただけると思うが、悟郎の行動がめちゃくちゃである。
まず理解できなかったのが、18年もの間音信不通だった姉が危篤です、といわれたからといって、姉の過去を調べようと思うだろうか。
容態が落ち着いて、もしくは死んでしまった後ならともかく、危篤の報を受けた翌日から行動を開始している。本作の序盤では、なぜ悟郎がこのような行動を取るのか、納得のいく説明はされない。
しつこく電話をかけたり勝手に押しかけたりと、悟郎の行動は粘着質で、その度合いは「奇跡の人」の主人公よりも激しいかもしれない。従って、普通の読者であれば、まず間違いなく悟郎の行動に共感できない。また、悟郎が姉である千賀子を褒めちぎる様、千賀子の行動を信頼する様(どちらも主に押しかけ先の会話で表現される)は、なんだ?姉に対するこの異常な思い入れは、と感じずにはいられない。
物語は凄まじいまでの御都合主義な展開を見せる。会う人会う人みな悟郎に話をしてくれる。というか、みな会ってくれる。あらすじでは書かなかったが、話の途中で悟郎はたくさんの推測をし、推測を元に行動していくのだが、その推測がことごとく当たるのである。あらすじ以降の展開では、もっともっと御都合主義がエスカレートしていく。
展開にひねりがあるとか、主人公の異常性を客観的に現すとか、読者をいい意味で裏切ってくれれば、真保裕一の新しい一面を見られたと喜ぶところだが、本書の主人公悟郎の行動は予想を全く裏切らない方向で粘着度を増し、予想通りつまらなく進み、常人には共感できないラストを迎える。
タイトルが「最愛」というからには、本書は真保裕一にとっての「愛」観が反映され書かれているのだろう。しかし本書や以前のダメ作品からは、真保裕一の恋愛観は歪んでいる、としか思えない。
また、本書に出てくる会話や女性像のセンスの無さ、どう考えても変な記述など、もう涙なしでは読めないほどひどい。二つほど例を挙げると、
・新井との婚約に関連した悟郎の心情描写...
姉は二十代の前半だったはずだ。恋というものに強く憧れ引き寄せられやすい時期だと言っていいだろう。
→二十代前半の女性なら、恋が“憧れ”という時期は過ぎていると思うが。
・姉のアパートが新小岩にあると知った悟郎は、「厚木で育った姉に小岩方面の土地勘があったとは思いにくい」と思うのだが...
→18年も音信不通だったのに、なぜ土地勘がないと思うのだ?18年間どこに住んでいたのか知らないだろうに。
まあ、こんなのがたくさん出てくる。
感想書くのに疲れちゃった。
こういう主人公が異常と思わない真保裕一に、もう未来はないように思える。
今まで真保裕一の小説は、出るたび買った。そして読んだ。だが、もうダメだ。
ついにこの時がきてしまった。
この本を最後に、真保裕一のファンをやめる。
小説に0点はめったにつけないけど、これはダメだ。
0点/10点満点
ちなみにこの感想を書くのに4時間かけました。なにやってんだか。
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